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「あれ……?」
鷹が家に帰ると、家の中はしんとしていた。両親は共働きのため家にいないのはわかっているが、鷲がいないのは変だ。彼は鷹よりも先に帰っているはずだし、CDショップに行ったとしてももう帰ってきていていいはずだ。いつもなら、CDを買って早く家に帰ってきて、エンドレスで流している頃である。
「鷲の奴、まだ帰ってきてないのか?全く……」
鷹は自分の部屋に鞄を置いて、学生服から部屋着に着替えようとした。その時、鷹の携帯電話が鳴る。着信の相手は鷲だ。
「もしもし?」
『もしもし』
鷹の声に答えたのは、いつも聞きなれた鷲の声ではなく、野太い男の声だった。この声はどこかで聞き覚えがある。そう、あれは確かカジノを潰しに行った時……。
「『JOKE』のオーナーか」
『その通り。この間は世話になりまして』
「鷲はどこだ」
『この携帯からかけていることからもわかるとおり、お宅の弟さんはウチで預かってますよ。まだ目は覚ましませんがね』
「!……鷲に何をした」
『なに、少しばかり痛めつけただけですよ。今のところは、ね?』
鷹が電話越しにギリ、と奥歯を噛みしめる。オーナーはそんな鷹の様子を知ってか知らずか、更に言葉をつらつらと並べる。
『弟さんを返してほしかったら、ウチの店に一人で来てください。お仲間を連れてきた場合は、弟さんの無事は保障できかねます。店員一同、心よりお待ち申し上げていますよ……』
無情に切れた電話口に響くツーツーという音がやけに耳につく。鷹はそのままそこに立ち尽くした。
プルルル プルルル
鷹がその場から動けずにいると、再び携帯電話が鳴った。今度の着信は剣斗からだ。
『あのよー、鷲にかけてもずっとつながんねーからー。鷲いる?』
「剣斗……」
『ん?どうした、鷹?声がいつもと違ぇぞ』
そこで鷹は、今自分が受けた電話の内容を剣斗に話した。自分でも驚くほど冷静に。
『んだとぉ?鷹!そこ動くんじゃねーぞ!俺が行っから、待ってろよ!』
「いや、剣斗、オレは一人で行くよ」
『あぁ!?馬鹿言ってんじゃねーぞ!テメーが一人で行ったら袋叩きに決まってんじゃねーか!』
「オレが心配なのはオレじゃない。鷲だ」
『鷹……』
「剣斗、このことは他の役員に言わないでくれ。これはオレの問題だから。それじゃあ」
剣斗は電話の向こうでまだ何かを言っていたが、鷹は電話を切った。自分は兄だ。弟を助けるのに、兄以外誰がやるというのだろう?
鷹は、家を出た。




