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……はずだった。
問題が起こったのは、大会が終わって昼休みに入る時のこと。生徒会メンバーが廊下を歩いていると、目の前からサッカー部チームの五人が歩いてきて立ちはだかった。
「ナメた真似してくれたな、高羽」
「どっちの高羽かな?」
「テメーら両方だ!特に鷹、ありゃあお前の指示だろ?」
「『あれ』って、どのことかな?指示語は適切に使わないと」
「俺らんトコを見張ってただろ!」
「ああ、あれね。あれは鷲が言った通り、快進撃を続けるみんなを見守っていただけだが?それとも、見られるとまずいことでもあったか?」
「ぐっ……。テメェ、痛い目遭いたくなきゃ、賞金俺らに寄越せ。それで丸く収めてやる」
柿田が手の平を上に見せて、賞金を出すように示す。
「鷲、お手だって」
「わんわん」
鷲が柿田の手の平の上に自分の手をポンとのせる。完全に馬鹿にされた柿田達は、鷲の手をブンと振り払って、鷲の胸倉を掴み上げた。
「テメェッ、馬鹿にしてんのか!」
「してるけど?」
「このヤロッ……!」
「おっと、校内で暴力沙汰起こしていいのか?何なら……裏で聞くぜ?」
鷲の挑発的な言葉と態度に、柿田達はすぐに乗った。計十人で裏庭へと向かう。
裏庭は体育館の裏にある小さな庭で、農学部という部活動をしている生徒達が色々なものを植えて育てている場所だ。
そこに、サッカー部の五人と生徒会の五人が対峙して並ぶ。
「鷲、お前にはカリがあるから、返させてもらうぜ」
「ご丁寧にどうも。でも、いらないよ。俺は心が広いからね。そんな些末なことは気にしないんだよ」
「テメェ……馬鹿にすんのも大概にしやがれっ!」
「おっと」
唸りを上げて飛んできた柿田の剛腕をひらりと躱して、鷲は頭を掻いた。
「あのね、俺だって喧嘩が好きなわけじゃないんだよ。なるべくなら穏便に済ませたいんだから、話し合いにしてくれる?」
「テメェが裏で聞くっつったんだろうが!」
「うん、裏で聞くよ?話はね」
それが更に柿田の神経を逆撫でし、今度は蹴りが飛んできた。鷲はそれも躱して、一歩跳び退った。
「今更喧嘩できねぇってのか!?この腰抜け野郎」
「何とでも」
「テメーは不良の風上にもおけねぇ貧弱野郎だ!」
どんな風上だ、と周囲の人間が突っ込んだ頃には既に、鷲の眉間には皺が寄っていた。
「あ」
生徒会全員の声が、重なった。
「誰が、不良って?」
「ああー?だからテメーは不良の風上にもおけねぇ……ん?」
言った柿田の眼前には、皺の寄った鷲の眉間が迫っていた。これが頭突きだと理解したと同時に、彼は鼻血を垂らして裏庭に倒れた。
「俺のどこが不良なんだよ?言ってみろ」
鷲に睨まれた佐竹が、半ば投げやりに鷲の髪の毛を指差した。
「そ、そんな髪の毛してりゃ不良だろ!お前ら兄弟二人ともな」
「オレは金髪じゃないが」
鷹の尤もと言える物言いに、佐竹がまだ食い下がる。
「カラコンしてんだろ!外人が!」
「あ」
今度は、鷹を抜いた生徒会員の声が重なる。
「気をつけな。兄貴、俺の数倍強いから」
「へ?ぐむっ!」
鷹が放った拳を視認する暇もなく、佐竹も柿田と仲良く寝転んだ。残りの三人は、自分たちの中のトップが倒れてしまって、なす術がない。
「痛い目見たくなかったら、逃げた方がいーぜ?」
剣斗の優しい忠告に、三人は柿田と佐竹を連れてそこから脱兎のごとく逃げ去った。
「全く、鷲があんなこと言うからだぞ?」
放課後の生徒会室では、鷹が鷲を窘めていた。あんな事態に発展したのは、確かに鷲が挑発的な態度をとったからだとも言える。
「兄貴だって手ぇ出したくせに!」
「あれは仕方がない。正当防衛だ」
「どこが」
そのまま放っておくと兄弟喧嘩に発展しそうなので、剣斗と翔が二人の間に入ってそれを止めた。
「まぁ、過ぎてしまった時はもう戻らない。オレ達は前に生きていくしかないんだよ。というわけで、忘れよう。さて、会議始めるぞ」
「ったく、兄貴には敵わねーな」
「さー会議会議。今日の議題は~?」
「剣斗先輩の報告からですよ」
「え、そうだっけ?」
「しっかりしてください」
「相変わらず翔ちゃんは厳しいな~」
「僕は至って普通です。そしてちゃん付けやめてください」
「堅いこと言うなって」
「剣斗先輩、鷹先輩が睨んでますよ」
「おっと、悪い悪い。んじゃ報告します!」
今日も生徒会は至って平和である。




