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おぼつかない足取りで、近藤は生徒会の面々をアジトである港の倉庫へと案内した。彼が少しずつ倉庫の扉を開くと、中には十人の男達と、何台かの車やバイクが置いてあった。
「おお、リョーへー……え?」
いつものように仲間を迎えたはずだが、何かが違う。その後ろから、まだ人が続けて入ってくる。最初に目が青い長身の男子、次に金髪、そして真面目そうな優等生、最後は可愛い女子だ。何故か全員学生服を着ている。
グループ全員意味がわからずその場に立ち尽くす。しかし、それは彼らの真ん中に立った鷹が発した言葉で説明された。
「はじめまして、こんばんは。孔明学園生徒会です。あなた方に、鉄拳制裁を行います」
あくまで断定的に告げられたその言葉に、グループのメンバーが徐々に失笑を漏らす。
「は、はは。お前らが、俺らに、鉄拳制裁?笑わせてくれるね。冗談はそれくらいにしろよコラァッ!」
一人が鷹に殴り掛かる。しかし、その拳は、鷹の横から出てきた鷲の手の平によって止められた。鷲は眉間に皺を寄せて、男にガンを飛ばしている。
「オイ、兄貴に何してんだ……?コラ」
「ひっ」
「飛べやぁっ!」
鷲のアッパーカットが男の顎を確実に捉える。鷲の言葉の通り、男は飛ぶようにして後ろにのけぞり、そのまま口から血を流して倒れた。
「お前ら、タダで帰れると思うなよ!」
ボォウ!ボボォウ!
残りのグループのメンバーが口々に喧嘩を売ったのに対し、答えたのは鷹達ではなく、倉庫の外から聞こえる排気音だった。
「遅いぞ、剣斗」
鷲の台詞を合図に、剣斗が開けっ放しの倉庫のドアからバイクで入ってくる。バイクに乗りながら倉庫の中に入ってくると、そのままグループの男に蹴りを食らわせた。そしてマックスターンで振り返り、次なる男に向かう。
「く、クソがぁっ!」
的にかけられた男は拳を振りかぶったが、剣斗はそれを避けてすれ違いざまに膝蹴りを顔面に食らわせた。その光景に周囲の人間が固まる中、剣斗はバイクに跨ったまま、グループの全員をねめつけた。
「俺のマークⅡ狙ったのがテメーらの運の尽きだ。まだ狙おうって奴は出ろ。相手してやんぜ?」
ニィ、と不敵に笑った剣斗から男達が後ずさる。だが、出口でもある倉庫の扉の前には、生徒会の面々がいる。
「そこの金髪狙えっ、後は雑魚だ!」
「おおっ」
残り八人になったグループのメンバーは、鷲に狙いを定めた。八人の内、五人が鷲に向かう。
「五対一なんて男の風上にもおけねぇ喧嘩してんじゃねぇよ!」
そう強がってみたはいいものの、鷲だけでは確実に手に余る。剣斗がバイクから降りて助太刀に向かうが、彼の前には体格のいいレスラー級の男が立ちはだかっている。鷹にも翔にも、それぞれ一人ついている。
鷲は、最初の一人は殴り飛ばしたが、続く二人目がその死角から鷲の横っ面に拳を入れた。鷲は倒れる寸でのところで踏みとどまって、その男に蹴りを食らわせた。すると、後ろから羽交い絞めにされた。
「しまった……」
鳩尾にボディーブローが決まって、体が折れ曲がる。嘔吐を堪えたところで、後頭部をレンチで殴られる。一瞬意識が飛びかけて、力を振り絞り留めたら右頬を殴られた。
「鷲」
「お前の相手は、オレだ」
鷹が鷲のピンチに向かおうとするが、そんな鷹の前には一人の男が立ちはだかっている。
「すまないが、お前なんかに構っている暇はない」
こんな状況にもかかわらず毅然と言い放つ鷹に、男は下から彼を睨みつけた。
「ああっ!?じゃあどかしてみろってんだこの外人野郎!」
鷲の途切れかかった意識が、マッハの速さで戻ってくる。
(今……「外人野郎」って言った?)
剣斗は、壁のような男の後ろから聞こえた声に一瞬戦意を削がれた。
「あれ?外人野郎って言った?」
翔は「あっ」と口を開けて固まった。
「外人って……言っちゃった」
愛依は口に手を当てて、息を吸い込んだ。
「外人……って」
そんな四人の視線を集めた鷹は、すうっと顔を上げた。
「今、『外人』って言ったか?オレのことを?」
「へ……?」
その凄まじい威圧感に、鷹と対峙していた男は、一歩後ずさった。
その瞬間、弾け飛んだ。
「誰が外人だコラァッ!テメェタダじゃ済まさねぇぞ!」
いつもの冷静沈着な用途は豹変した態度、言葉遣い。敵味方問わず、倉庫内全員の視線が鷹に集まる。
「兄貴に『外人』はタブーだよ……」
鷲がつぶやく。しかし、その声は誰の耳にも届いていなかった。
「俺は純血の日本人だぞ!」
血が滴る鼻を押さえながら上体を起こす男の腹に、鷹は蹴りを叩き込んだ。胃液を漏らす男に更なる蹴りを放とうとして足を振り上げるが、それは鷲に止められた。
「兄貴、落ち着いてっ」
弟の言葉に正気を取り戻し、鷹はグループのメンバー全員に告げた。
「お前ら、命縮めたくなきゃここから出てけ。そして自首しろ。そうでなきゃ……オレらが追いかけてまた潰すぞ?」
鷹のドスの利いた声に慄いたグループのメンバーは、顔を引き攣らせながらめいめいに逃げ出した。あっという間に、倉庫には生徒会役員だけになり、後には自動車やバイクの部品が残された。
「一件落着。みんな、お疲れ」
いつもの表情に戻って役員達を労う鷹は、もう「生徒会長」に戻っていた。役員達はそれぞれ安堵のため息をついて、鷹の周りに集まった。
「それでは、解散」
「剣斗、マジでありがとな。俺のゼファー取り返してくれて」
事件から一夜明け、学校の駐輪場には剣斗のマークⅡと淳のゼファー、二台のバイクが並んで停まっていた。いつもの風景が戻った。
「鷲もサンキュ。そんなにボロボロになってくれて」
「いまいちカッコつかねーけどな」
散々やられた鷲は、顔に絆創膏やガーゼを貼っての登校となった。傷は大したことはなく、二、三日すれば自然に治るだろうということだった。
「やっぱ生徒会、カッケーよ」
淳のその笑顔を見ていると、体を張って、そして生徒会に入って良かったと思える。鷲はそんな自分の変化に驚いて、小さく笑った。




