File0:プロローグ
「はぁっ…はぁ………はぁ」
若い女性が何かから逃げるように暗い人目につかない裏路地へ息を切らし、駆け込んだ。
「ここなら大丈夫……のはず」
その女性が呟く。
女性は周りに注意を払いながら裏路地の奥の方へと歩いて進む。
ガサッ
数10Mすすんだあたりで女性の後ろで何か音がした。
声がでない。今までにないような恐怖感に煽られながらも、その女性は立ち止まりゆっくり振り向く。
何もいない―――。
何もない―――。
何も存在しない―――。
その女性は、そう自分に言い聞かせながらまた裏路地の奥の方へと足を進める。
「次が右でまた右………」
女性は呟き、辺りを見回しながら歩いている。
「ッ…!?」
女性は自分の後ろに何かがいるのを感じとった。
女性は深く息を付き自分に"大丈夫"だと言い聞かせ、先程と同じように
ゆっくり後ろに目をやる。
「えっ………子供?」
女性の後ろには半袖半ズボンの身長130程の小さな少年がいた。
「何してるのかな?」
女性は恐怖感を抑えて少年に話し掛ける。
「…………………」
少年はうつむいたまま黙りただ立っている。
「お家はどこなの?」
女性は聞いた。
すると少年はいきなり女性に抱き着き、顔を上げ女性と目をあわせた。
「……だよ」
「えっ?」
少年の声が小さく聞き取れないため女性は聞きかえした。
少年は女性をさらに強く抱きしめ言った。
「ここだよ」
女性は一瞬とまどったが
すぐに恐怖感に煽られ少年を振り払おうとした。
しかし少年の手は一行に女性の体から離れない。
「はなして!」
叫ぶがもはや女性の言葉は何の意味も持たない。
女性は必死に振りほどこうとするが相変わらず少年は離れない。
「はなして!やめて!」
「ここだよ」
「おねがいだからはなして」
「ここだよ」
「ここだよ」
「ここだよ」
少年の声は徐々にモザイクがかかったような声になっていく。
「ここだよ」
「ここだよ」
「ひいいいいい!」
「ここだよ」
「コこだよ」
「ココだヨ」
「…こだよ」
「ツカマエタヨ、ツカマエタヨ、ツカマエタヨ。」
少年のその言葉とともに狭い裏路地を埋め尽くす程の数の人間に似た"何か"が女性と少年を包み始めた。
「やめて!私は行きたくない!」
女性は叫ぶ。
「イッショニイコウ」
少年は笑った。