ネレウス・ジュアン。
「すまんな…話の途中で遮ってしまって…」
オリオンお祖父様がネレウス様に話しかけると、ネレウス様は首を横に振った。
「2人に頼んで話さないようにしていたのは私なのです。
こちらこそ申し訳ない…」
お父様と国王陛下も首を横に振る。
お母さまたちの視線が鋭いせいか、二人とも余計なことは言わず、ただ座っているだけだ。
「さて、本題に戻ろうか…」
「そうですね…。
昔からエリスとヘシオネリア様はつながっていたのですが…そのあたりはご存知でしたでしょうか?」
数日前、ヘルお兄様が話していたことを思い出し、私はこくりと頷いた。
「結婚してからは、あの二人が会っている様子はなかったのですが…。
交換の話が出る前から、また会うようになったのです。
ただ大きな動きはなかったので、友人同士の付き合いかと、あまり気にしておりませんでした。」
エリス様とネレウス様は、結婚当初は仲が良かったらしい。
だがここ数年で会話も減り、家にいても顔を合わせることはほとんどない。
エリスは帰ってきてもすぐに出かける――そんな状態が続いていたという。
「おかしいと思い始めたのは、身に付けているアクセサリーが高価なものに変わり始めた頃でした。
私が贈ったものではない。
正直に言えば、エリスとアーテリアがいれば家計は火の車でした。」
新しいドレス、菓子、宝石――。
欲しがるばかりで、稼ぐことは考えない。
確かに、あの二人がいれば金は持たないだろう。
「ただ、エリスに問いただすとヒステリックになる。
なので、あえて聞かず独自に調べました。
すると…」
「ダルデンヌ公爵とつながっていた…と?」
「えぇ…。
恐らく、恋仲でしょう。
高価なドレスや宝石を与えていました。」
それを知っても、怒りは湧かなかったという。
――やはり、という程度だったらしい。
「そこから調べていくうちに、保守派の者たちと密会している場面を何度も見ました。
そして、ちょうどその頃――いい話が出たのです。」
「婚約者交換ですか?」
思わず、声が出た。
「…その通りです、メーティア嬢。
あなたには辛い思いをさせてしまった。
本当に申し訳ない…」
初めてしっかり話すネレウス様は、驚くほど穏やかな方だった。
お父様たちと親友だというのも、納得できる。
「元々、アーテリアに王妃は務まらないと分かっていました。
ただ相手がアポロと聞いたときは頭を抱えましたが…
――好機だと思うことにしたのです。」
アーテリアとアポロ。
どちらも扱いやすい。
ヘシオネリアはアレウスしか見ていない。
計画は破綻する――そう読んでいたらしい。
問題は、どうやって王家に伝えるか。
だがエリスとアーテリアが家を空けがちだったことで、自由に動けたという。
話を聞き終え、お母様が口を開く。
「ここまで聞くと…私たち、手のひらで転がされていたようにも思えるのだけれど…
ねぇ?アレウス。」
「そうね…。アフロディーナの言う通りだわ…。
ウラヌス、あなたも…」
「「知っていたんじゃないの!?」」
二人に詰め寄るお母さまたち。
当の本人たちは冷や汗を浮かべ、引きつった笑みを浮かべている。
「いやぁ…そのぉ…な?アレウス。」
「そうだな…ウラヌス…ハハハ…」
「アレウス。
知っていて、自分の息子をヘシオネリアの元に潜伏させたのね?
自分が行きたくないからって、息子に押し付けるなんて…本当に最低だわ!」
――それは怒る。
大事な息子が、あの環境にいるのだから。
(まぁ…このやり取りは見ていて飽きないけど)
そう思いながら様子を眺めていると――
「…話を戻そう。」
オスト様が口を開いた。
「ジュアン侯爵のおかげで、状況はほぼ出揃った。
明日の夜会、開始直後に父上に登場してもらう。
アポロたちは父上が死んだと思っている。
混乱するはずだ。」
「それに、ピストルの部品も回収できているのだろう?」
「はい、こちらに…」
どうやら部品は、ニケお兄様たち騎士団が各所から回収したらしい。
「税の増額に関する書類は、恐らくヘルメントが押さえている。
あいつは優秀だ。失敗はしない。」
「それから、貸し付けた資金についても回収する。
宝石に化けていたことも分かった。
すべて返してもらう。」
ダルデンヌ公爵がエリスに贈っていた資金。
――恐らく、こちらが出していた金だ。
慰謝料などと騒いでいたのも、資金が尽きたからだろう。
「オスト様。」
「どうした?」
「ついでに…あの方々が私に言い放った“阿婆擦れ女”という言葉。
名誉毀損で、慰謝料を請求してもよろしいでしょうか?」
オスト様は、にやりと笑った。
「――もちろんだ。」
迷いなく言い切る。
その姿が、妙に頼もしくて――
(本当に…かっこいい方ね…)
こうして、長かった会議は終わり。
明日に備えて、それぞれ休むことになった。




