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45・まもちゃんパワー充電!


 携帯をバッグにしまい駅へと向かう道の途中、一軒の本屋が目に止まった。店頭に並べられている雑誌の数々の中で、私は一冊の本を手に取った。分厚い雑誌をぺらぺらと捲っていくと、やがてその雑誌に虜になっている自分がいた。


「うわ……素敵」


 思わず感嘆の息を漏らしてしまうほど素敵な、純白のドレスに身を包むモデルさんが、素敵なブーケを持って様々なポーズをとっている。ウェディングドレスを着ることは、昔からとても憧れていた。いつかは純白のドレスを着て、素敵な花嫁さんに……と、我ながら乙女だなぁと気恥ずかしくなりながらも、その憧れだけは決して諦めることはなかったのだ。


「私に似合うのかな……」


 それが問題。

 自分がドレスを着ている姿なんて、ちっとも想像できない。想像できるのは、自分が友人の結婚式に着て行くフォーマルなドレス姿くらいだ。

 私にウェディングドレスを着こなす事ができるの?

 雑誌と睨めっこしながら、ぐるぐると考えていた私。だから私の隣に、本屋の店長さんが不審な目で私を見ていることに、全く気付かなかったのだ。

 結局、店長さんに不審な目で見られ、その雑誌を買ったはいいけれど、分厚すぎて重い。でも、早く読みたくて雑誌は重いはずなのに、足取りは軽かった。

 まもちゃんと一緒に、見れたらいいけど……。

 仕事に追われているまもちゃんと一緒に、結婚式の話し合いをしたいなぁとは思ってはいるものの、頑張って仕事を片付けてくれようとしているまもちゃんの、邪魔にはならないだろうかと心配になる。いつもこうして余計なことを考えてはまもちゃんに怒られているのに、私も懲りないなぁ。

 前向きに、前向きに。

 自分に言い聞かせるように、家路についたのであった。


「ただいま」


 まもちゃんの家に帰ると、家の中にはまもちゃんの担当さんが来ていて、どうやら打ち合わせをしているようだ。邪魔しないように、そっとリビングの扉を開き、中を窺う。すると、扉を開けた私にまもちゃんが気付き、パッと明るい笑顔になる。


「お帰り、香澄」


 明るいまもちゃんの声に、思わず私も笑顔になった。きっと、仕事が順調なんだろう。まもちゃんの明るい笑顔がそう言っているような気がする。担当さんも私に気付き、同じように笑顔になる。

 なんだか、こんなに明るい笑顔のまもちゃんを、久しぶりに見た気がするなぁ。

 まもちゃんがにこにこ笑っていると、私まで嬉しくなる。そして私はそのまま、まもちゃんの近くに腰をおろした。


「ん? 香澄、何か買ってきたの?」

「え? あ、これは……な、なんでもない!」


 手に持っていた結婚情報誌を後ろに隠すと、まもちゃんの笑顔がみるみるしぼんでいく。


「……僕には内緒の物なの?」

「そ、そうじゃなくて」


 まもちゃんと一緒に見たいなぁと思って買ってきた結婚情報誌を、担当さんの前で見せるのはなんとなく恥ずかしかった。だから隠したんだけど、何か変な誤解を与えてしまっただろうか。しょんぼりするまもちゃんに、おずおずと後ろに隠した情報誌を見せた。


「恥ずかしいから後で見せようと思ったんだけど……これ」

「あ、結婚情報誌」

「うう。一人で突っ走ってごめんね」


 そう言うと、まもちゃんは明るく笑う。ははっ、と笑うと嬉しそうに、ふにゃりと顔を緩ませた。


「嬉しいんだよ? 香澄が結婚のことをちゃんと考えてくれてるんだなぁってわかって。僕は今、仕事が忙しくてちっとも香澄と今後の話が出来ないままだったから、香澄が怒っちゃうんじゃないかなぁって心配してたくらい」


 なでなでと、彼の手は私の頭を優しく撫でる。まもちゃんに頭を撫でられて、そしてそんなことを言ってもらえるなんて嬉しくて、思わず胸がきゅん、としたくらいだ。

 そんな私達のバカップルぶりを見せ付けられた担当さんは、「ごちそうさまー」と冷やかして肩を竦めてしまった。


「それじゃあ俺はこれで帰ります。先生、今週はみっちり頑張ってくださいね」

「わかりました。必ず締め切りは守りますから」

「その点は心配してませんよ。先生は仕事が丁寧な上に約束はしっかり守りますから。では、失礼しますね」


 担当さんはそのまま会社に戻り、リビングには私とまもちゃんの二人きりになった。

 久しぶりの二人きり。ソファーに並んで腰をおろし、まもちゃんが結婚情報誌をぺらぺらとめくっていく。紙が擦れる音だけが室内に響き、私は一緒に情報誌に目を落としていた。すると、まもちゃんの手が、ある一ページで止まった。


「あ、これ。香澄にすごく似合いそう」

「ホント? 似合うかなぁ」

「うん。きっとすごく可愛い」


 ああ、幸せだ。こういうひと時を、まもちゃんと過ごしたかったんだ。

 お仕事が忙しくて中々ゆっくりする暇はないけれど、たまにこういう時間を過ごさないと私の中にまもちゃんが足りなくなってしまう。私はこの時間、充分過ぎるほどのまもちゃんパワーを充電する事ができて、とても満足だった。

 いつか、まもちゃんが選んでくれたドレスに身を包み、幸せな式が送れることを想像しながら、私はまもちゃんと優しい時間の中で柔らかなキスをした。

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