第73話 波紋
1991年7月28日
ボクたちは自宅に戻った
(´・ω・`) .。oO(ボクは翌朝から職場に戻って働くのが待ち遠しかった)
ジェフにどんな判決が下っても
この先も人生は続いていく、働いていかなければならない
これから裁判で忙しくなって仕事に支障が出ないように
とにかく研究室に戻って段取りだけでも整えなければと思った
ボクは職場の上司に電話した
「やあライオネル、今回は大変なことになったね」
(´・ω・`)「はい、それで明日、出勤しようと思うのですが」
「それは止めておいたほうがいい」
(;´・ω・` )「え?なぜですか?」
「マスコミの一団が研究室の周りに群がっているんだ」
「そのせいで周囲の交通をほとんど遮断してしまっている、迷惑な話さ」
「騒ぎが収まるまで、君は出勤しないほうがいい」
(;´・ω・` )「わ、わかりました、迷惑をかけてすみません」ガチャ
(;´・ω・` )…………
ξ゜⊿゜)ξ「どうだった?」
(;´・ω・` )「マスコミがいるから仕事には来ない方がいいって…………」
ξ゜⊿゜)ξ「そう、私もそう言われたわ…………」
翌日
ボクもシェリも職場へは行かなかった
家にいて、ひっきりなしにかかってくる電話のベルを聞いた
普段なら、そのベルの音は友人や知人からくる歓迎すべきものだったし
少なくとも迷惑には感じなかった
だけど、いまや耳障りこのうえない音になっていた
こんな不愉快な楽器がこの世にあるのかと思われるほどだった
ジェフが逮捕されて数日
ニュースは彼のことでもちきりだった
だが、ジェフへの疑いはあらぬ方向に向かっていた
コメンテーターが盛んに訴えていたのは人種差別についてだった
ジェフの被害者たちのほとんどが黒人だった
このことはジェフが逮捕されてすぐに報道された
そしてこの事実は多くの人たちに
ジェフが人種差別殺人者であるという印象を与えていた
故意に黒人を選んで殺したのだと
(´・ω・`) .。oO(これはまったくの的外れで間違いだ)
ジェフはたしかに恐ろしいことをしでかした
しかし、ジェフの殺人は人種差別に基づいた殺人ではなかった
ジェフが欲しがったのはあくまで死体なのだ
筋肉質の男性の死体を求めていた
皮膚の色は彼にとってまったく問題ではなかった
(´・ω・`) .。oO(では、なぜジェフの被害者の大勢が黒人であったのか?)
それはたんに若い黒人男性がお金を持っていなかったからだ
ジェフの手口は50ドルというわずかなお金で被害者を誘い出すというものだった
裕福な白人は誘いに乗らず
貧しい黒人は誘いに乗った
あえて問題を提起しようと試みるのであれば
今回の事件は人種差別によるものでなく貧困問題によるものだ
(´・ω・`) .。oO(だが、そのように考えられない人が大勢いた)
彼らは被害者たちの顔を見て、その顔のほとんどが黒いことを知り
自分たちの結論、すなわち人種差別であると断定した
この結論は何人かの有名人も含めて多くの人を惹きつけた
そしてその矛先はジェフだけでなく警察にも向かうことになった
被害者が黒人だったから警察はまともに捜査をしなかったのだと
しだいにこの疑惑は大きなデモへと発展した
ミルウォーキーの街は一触即発の状態になった
(;´・ω・` ) .。oO(これほどの事態を…………)
ジェフが引き起こしたなんて信じられなかった
ボクの知るジェフは消極的で目立たず、なにをやっても上手くいかない
そんな取るに足らない小さな存在だった
それが今や一つのシンボルと言えるほどの巨大な存在となり
巨大な力が渦巻くその中心にいるなんて信じられなかった
あれほどくすんでいて目立つことのない、どう見ても哀れな若者が
これほど世間を巻き込んだ激情を発することができるなんて…………
ジェフという人間と彼がしでかしたことの間に横たわる深淵が
これほど巨大なものだったとは、ついぞ思いもしなかった




