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六道輪廻抄 〜 戦国転生記 〜  作者: 条文小説


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004 〜延徳2年(1490年)10月 島田村〜

挿絵(By みてみん)


~登場人物~

筒井与次右衛門⋯木地師総取締


~単位~


・長さ ※1町 = 60間 = 109m

 (4㎞ =)1里 = 36町 = 2,160間

 (180㎝ =)1間 = 6尺 = 60寸 = 600分(分)


・面積 ※1歩 = 1坪 = 3.3㎡

 (3,000坪 =)1町 = 10反 = 100()


・質量 ※1匁 ⁼ 3.7g

 (3.7㎏ =) 1貫 = 6斤 = 1,000匁


・容積 ※1合 ⁼ 180ml

 (180L =) 1石 = 10斗 = 100升 = 1,000合


・貨幣 ※1文(銭)=100円

 (1億円 =) 1両 = 1,000貫(連) = 10,000結

       = 100,000疋 = 1,000,000文(銭)

~貨幣価値~

   安土城普請(44,000貫≒44億円)

   岡崎城普請(10,000貫) ※戦国中期

 1,000貫/1億円⋯⋯⋯⋯⋯⋯

   今川義元大将首(2,000貫)

   後北条氏江戸城普請(1,000貫) ※戦国前期

 100貫/1千万円⋯⋯⋯⋯⋯⋯

   武将俸禄(100貫) 鉄砲(200貫)

   公卿地方巡業/蹴鞠指南(30貫)

 10貫/百万円⋯⋯⋯⋯⋯⋯

   馬(10貫) 具足(4貫) ★椎茸1個(5貫)

 1貫/10万円⋯⋯⋯⋯⋯⋯

   米1石(1.5貫) 足軽俸禄(1.5貫) 槍(1.5貫)

 100文/1万円⋯⋯⋯⋯⋯⋯

   酒1升(100文) 塩1斗(300文) 蝋燭1挺(12文)

   足袋1足(350文)木綿1反(800文)

 10文/千円⋯⋯⋯⋯⋯⋯

   鎌1丁(25文) 人身売買1人(30文) 茶1斤(60文)

 1文/百円⋯⋯⋯⋯⋯⋯

   瓜1個(1文) 銭湯(1文) みかん1個(2文)豆腐1丁(3文)

    〜延徳2年(1490年)10月 島田村〜



 秋風が高く、奥三河の山々が城の蔵の蓄え同様に黄金色に染まった10月、どこからか太鼓の音が聞こえてきた。


 どん、どどん、どん――。


 祭りである。稲の収穫を終え、民が山の神に感謝する「秋祭り」の季節だった。


 まだ勘定方は領内外で集まった年貢を銭に変えるのに多忙を極めているが、村々からは安堵の気配が伝わってくる。


 山の端の向こうから田峰城の屋敷まで太鼓の音がかすかに響く。風に乗って、かすれた笛の音と「てーほへ、てほへ」という掛け声が届いてくる。


 マツが障子を開けて外を覗き、うっとりとした声を出した。

「竹千代様、花の太鼓も笛も賑やかで、あぁ、見とうございます……」

 その目の輝きは、わたしを抱く腕よりも軽やかだった。


「はな⋯…?」


「まぁ…また、喋りましたねっ。お祭りですよ、お山の神さまにありがとうって言う日でございます。」


 マツの声は、赤子を諭すというよりも、自らの胸の奥からこぼれた憧れのようであった。


「神さまを迎える祭りです。火を焚き、湯を立て、鬼の面をかぶって舞うのですよ。何日も夜通し……」


 遠くの山の向こうで、また太鼓が鳴った。その響きは、まるで大地が息をしているように深く、城まで届いた。


 「花祭り」とは「花宿」と呼ばれる祭場で神招き-神懸かり-神わざ-神返しという伊勢神楽や諏訪神楽の神祭に、佛教の修験道の思想が混じり五穀豊穣、村の安泰を祈る各村々で村人総出で何日も踊りあかす奥三河一番のイベントだ。

 その秋から春にかけて各村で賑わう花祭りの中でも最大規模を誇る筒井八幡社を花宿とする島田村の花祭りが丁度始まったようだ

 

 私は胸の内で思案した。

(……この機を逃す手はないな)


 実のところ、その筒井八幡社には祭りよりも気にかかることがあった。


 筒井八幡社神主であり、三河、信濃の木地師達の総取締の筒井与次右衛門である。


 木地師とは轆轤(ろくろ)を回して木製品を作る職人だったり(きこり)であったり木材加工を生業として定住はせず原木を求めて奥深い山々の山中を漂泊する集団である。

 三河、美濃、信濃、越前の山中に二千人以上暮らす彼らはただの職人ではない。

 平安時代の惟喬(これたか)親王を祖とする滋賀県東近江市の筒井八幡宮や大皇器地祖神社の氏子で、山伏や修験者同様の諸国往来自由、山林伐採御免の朱雀天皇の綸旨を持つ神人であり、山窩(さんか)衆や叉鬼(またぎ)衆と同じ森の民である。


 筒井与次右衛門は全国三万人を数える木地師の総支配筒井八幡神主大岩氏の係累である。

 初代筒井与次右衛門が室町時代末期(1420年)に三河国南設楽郡鳳来町島田村に来村してから代々三河、信濃の木地師達の総取締役としてこの地で木地業を営んでいる。


 いずれ「食うための山」を持たねばならぬこの田峰の地において、彼らの山の知識は宝にも等しい。


 城にいては学べぬ。行って見るほかない。


 だが、父上は生真面目な人だ。赤子を山野に出すなど、たとえ田峰の一大行事の祭りであっても眉をひそめる。ゆえに、策を弄した。


 夕餉のあと、祖母上――おおむね何事も神佛に通ずる信心深い方――の膝の上に抱かれ、つぶらな瞳を上げて言った。

「……おはな、いく」

「おはな?」

「かみさまに、ありがと、いいたい」

 祖母は目を丸くして、それからにっこりと笑わった。

「ああまあ、なんと殊勝な。仏さまに守られたお子ゆえじゃのう」


 その夜のうちに、話は父上に伝わった。


 翌朝、馬廻り衆や侍女たちが右往左往するなかで、わたしは晴れて「筒井八幡社参詣」の名目で城を出ることになったのである。

 六ヶ月にして外出許可を得る――わたしの政治的初仕事といってよい。


 道中は見事な秋晴れであった。

 赤く色づいた楓が谷に連なり、風にそよぐたび陽の光を反射する。

 わたしはマツ共々馬廻り衆の逞しい腕に抱かれて馬に同乗していた。

 その男、名を神谷右近将監。田峯家随一の槍の使い手であり、兄の新九郎の憧れの人である。そしてその整った顔立ちから城内の侍女衆の噂の人でもある。


「マツ殿、しっかりお掴まりなされ。道が揺れますぞ」

「きゃっ、あ、あい…。」

 マツの声はいつもより三段高くそしていつもよりか細い。


 マツの頬が首筋が山々の紅葉よりに赤い。普段は肝の据わった乳母、という事は人妻なのだが、馬上で私を抱えて右近に支えられる姿はまるで少女である。


 見ているこちらが恥ずかしくなる様なマツの媚態を見ていると、実はマツもウタも一人で馬を操れるので馬廻り衆の同乗手伝いなど不要であることは事は黙っといてやろうと思った。


 かの武田家の騎馬隊にも実は女性が多数いるらしいが、この時代の武家の子女は普通に乗馬が出来るのには驚く。


 途中、村々を抜けるたびに人々が手を止めて頭を下げた。

「おお、若様じゃが!」

「ありがてぇ、ありがてぇ」

 どうやら「仏の子」なる噂が、思いのほか領内に広まっているらしい。


 毎朝の筋肉痛の甲斐があったというものである。実に目論見どおりの風評である。これで何を言っても「天啓」と受け取られるのだから。


 遠出と言っても一里程の距離なので、直ぐに馬列は鳳来の山裾の島田村に至った。


 祭囃子が谷にこだまし、村の中央には紅白の幔幕が張られている。

 酒の匂い、焼いた五平餅の匂い、乾いた稲藁の匂いが混じり、空気そのものが豊かだった。


「ここが島田村か……」


 普段ならわたしの呟きをマツは「まっ、しゃべりましたよ!」と拾って大袈裟に周りに吹聴してくれるのだが、今は耳も視線も右近に釘付けなため、呟きを右近に拾われた。


「これは⋯これは⋯竹千代様はもう話されるのか?」


「毎朝、観音様に祈っておったら喋れる様になった。」

右近には祖母相手の様にかまととぶらずにそう返してやった。


「いや⋯噂に違わぬ⋯これは縁起がよろしい」と呟き頷いた。


 村人たちはわたしたちの一行を見つけ、ざわめきが走る。

 既に先触れがあったからであろう、すぐに島田村の名主である藤兵衛が駆け付け、土下座せんばかりに頭を下げた。

「こ、これはこれは竹千代様、神谷様、遠路ようこそ……!」


藤兵衛の顔を見て、過日年貢納めの日に幸田に絡まれていた名主であることを思い出した。今日は領主の子の接待か…ご苦労なことだ。


 藤兵衛の背後に、ひときわ背の高い男が立っていた。

風に焼けた顔、節くれだった手、腰には小刀。

 早速の出会いとなったが木地師たちの頭、筒井与次右衛門その人である。


 彼の目は、わたしをじっと見据えていた。赤子を見る目ではない。まるで何かを測るような、静かな目だった。

〜参考記事〜

重要無形民俗文化財「津具花祭り」/したらん♪トレイル

http://www.shitara-trail.jp/festival/hanamatsuri/


〜参考文献〜

お金の流れで見る戦国時代(PHP文庫)/大村大次郎


〜舞台設定〜

第4話の冒頭は逆行転生物お約束の微笑ましい恋愛ネタを挟みつつ、祭りを書く中で侍女や馬廻り達そして村人といった脇役達の息遣いを意識しました。

 後半では木地師という山の民との出会いという形で逆行転生物語のテンプレ「椎茸栽培」への伏線を引きました。

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