第12話 凡人の終わり、未来の始まり
広場の中央。
黒い管理者の影が空を覆い、赤と白の光がせめぎ合っていた。
Paneは勝手に展開され、二つの数値が正面からぶつかる。
〈Future Bias〉:+2.5(蓮)
〈Collapse Bias〉:+2.0(赤牙継承者)
『――未来は一つ。残るのも一人』
管理者の声が冷ややかに響く。
街全体が息を呑み、プレイヤーもNPCも固まって見守っていた。
◇
赤牙の継承者が短剣を掲げ、黒い霧を巻き起こす。
「凡人上がりに未来は渡さない! 崩壊こそが、この世界の真実だ!」
Paneが跳ね上がる。
Collapse Bias:+2.0 → +3.0
広場の建物が軋み、瓦礫が宙に浮き始める。
未来の写し絵には、街が赤い崩壊に飲まれていく光景が広がった。
◇
「蓮!」
剣姫が僕の手を強く握る。
「あなたが選ぶの! 街を、仲間を――そして自分自身を守る未来を!」
僕のPaneが震える。
〈Future Bias〉:+2.5 → +3.0 → +3.5
数値が光に変わり、白百合の花弁が広場に舞う。
未来の写し絵は二重写しのまま、激しく衝突した。
◇
赤牙の継承者が叫ぶ。
「崩れろ、すべて!」
僕は声を張り上げる。
「――変われ、未来!」
二つのPaneが重なり合い、閃光が広場を呑み込んだ。
白と赤。希望と崩壊。凡人の終わりと、新しい始まり。
◇
光が収まった時。
立っていたのは僕だけだった。
赤牙の継承者は短剣を落とし、赤い霧とともに消えていく。
管理者の影も静かに溶け、最後に言葉だけが残った。
『選ばれし者よ。凡人は終わり。――未来を継ぐのは、お前だ』
Paneに新しい項目が刻まれる。
〈Final Title:未来の継承者〉
◇
広場に歓声が広がった。
「白百合が勝った!」
「蓮だ! 希望の継承者だ!」
剣姫が微笑み、大剣を下ろす。
「蓮。あなたは凡人じゃない。……未来を選んだ英雄よ」
胸の奥が熱くなる。
確かに僕は凡人だった。
けれど、Paneに触れ、仲間と出会い、未来を傾けた今――凡人の終わりは、新しい始まりなのだ。
◇
夜、街の屋根に座り、Paneをそっと閉じる。
画面にはもう、赤い警告はない。
代わりに淡い光で一行の文字が浮かんでいた。
「凡人の終わり、未来の始まり」
静かな夜風が、英雄の名をまだ知らぬ未来へと運んでいった。