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魔女の目覚めの刻  作者: でぃえぬ
第一章:虚空の魔女
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第三話『逃げ場なき異界』

「とりあえず、ここを出ましょう」


全身を包んでいた赤い焔を消しながら、神代朱璃(かみしろあかり)が言った。


「う、うん……」

白鷺天音(しらさぎあまね)が戸惑いながらもうなずき、立とうとする。


その瞬間。


ザワッ、と空間が再び揺れる。


霧散したはずの異形たちが、再び形を成していく。いや、それだけではない。先ほどとは比べものにならないほどの数の異形が、次々と生み出されていく。


「な、なんで!?倒したんじゃなかったの!?」

天音が悲鳴混じりに叫ぶ。


「この数……まさか"奴ら”が……⁉こんなに早く仕掛けてくるなんて!」


(私一人ならともかく、彼女を守り切れる保証がない……!)


「白鷺さん、逃げるわよ!」


「逃げるって言ったってどこに!?」

天音が叫び返す。


そう、ここは閉鎖された"異界”。逃げ場なんて、どこにもない。


「私が魔術で現実への扉を開く!それまでなんとか耐えて!」


(まずい……!このままじゃ術式が間に合うかどうか……)


「耐えるって言ったって……痛っ!」

鋭い痛みに、肩を押さえる。血が、じんわりと滲んでいた。


(撃たれた? いつ? 何に――)


思考が追いつく前に、再び射撃が飛んでくる。


「……っ!」


咄嗟に目をつむる。が、痛みは来なかった。


(手の刻印がまた……まさか……また私がやったの?でもやり方なんて分からないし、体が……重い……こんなんじゃすぐ……)


諦めかけた、その時――


違和感に気づいた。


いや、正確には、“思い出した”。


この空間の“ずれ”。


それを意識した瞬間、確かな歪みを感じ取る。


(これって……)


違和感の核心を手繰り寄せる。そして見つけた決定的な”ずれ”を切り裂く。


――瞬間。


世界が、割れた。


「これは……! 出口!? まさか、白鷺さんが……?でも今は、とにかく逃げなきゃ! 白鷺さん、こっちよ!」


「う、うん!」


天音は震える足を踏み出し、空間の裂け目へと駆け出す。


「燃えて!」


朱璃が詠唱とともに、裂け目周辺の異形を焼き尽くす。


「今っ!」


二人は空間の裂け目をすり抜け、異界から現実世界へと帰還する――。


「化け物は……?」


天音が息を切らしながら尋ねる。


朱璃は冷静に答える。


「大丈夫。怪異や化け物の“前段階”である異形は、現実世界に入り込めない。この扉も、すぐに閉じるわ」


朱璃の言う通り異形たちはこちらにこないようだ。そして空間の裂け目も静かに閉じていった。


「怪我は?」


「肩を少し……」

血のにじむ肩を見せる。


「この程度なら私でもなんとかなりそうね」

朱璃の手が青く光り、その輝きが天音の傷口に注がれる。


「これ……傷が、塞がってく……」


まるで最初から怪我などなかったかのように、肌が元通りになる。


「あ、ありがとう……」


礼を述べる天音に、朱璃は静かに言った。


「このぐらい当然よ。それより危険な目に合わせてごめんなさい。 最初にあなたに攻撃した異形。普通の速さじゃなかった。この時点でもっと警戒していれば……」


(それに――空間を裂いて現実への扉を開けるなんて。彼女は、想像以上かもしれない……。もしかしたら――“奴ら”への、切り札になり得る)


***


――「虚空の魔女」が目覚めた刻。


止まっていた世界の歯車が、音を立てて動き出す。


この世の“表”では、誰も気づかないままに。


だが確かに、この日が始まりだった。


白鷺天音の日常が終わり、“魔女”としての運命が幕を開けた、最初の日だったのだ。

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