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魔女の目覚めの刻  作者: でぃえぬ
第一章:虚空の魔女
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第十五話『霊装』

「はぁ……はぁ……」


白鷺天音(しらさぎあまね)は肩で息をする。すでに霊衣は消え、制服姿に戻っていた。髪の色や瞳の色も元に戻っている。オドの残量もほとんどない。


(もう……まともに戦える状態じゃない)


だが、相手も同じはず。魔界という奇跡を実行したアストラも、無事で済んでいるわけが――


「……まさか、魔界を一撃で切り裂くとはな。あいつが警戒する理由も分かったぜ」


雷光の残滓の中から、アストラが姿を現す。


その身体はボロボロだったが、目にはまだ戦意が宿っていた。


「でも……惜しかったな。あと少しだった。オレは、まだ……やれる」


「そんな……」


天音の膝が、思わず揺らぐ。


――これが、“完全な魔女”。


目覚めたばかりの白鷺天音とは比べ物にならない、オドの総量と、戦闘の差が――そこにあった。


「―――終わりだ」


アストラの雷撃が天音めがけて一直線に放たれる。


……だが、雷は不自然な軌道を描いて曲がった。いや、それどころではない。雷撃はそのまま向きを変え、アストラのすぐ横を掠めていった。


「……なに……!?」


アストラが眉をひそめる。天音に魔法を制御する力は、もう残っていないはずだ。ならば、なぜ―――?


答えは単純だった。


「……制御しなければいい。あなたと私の間の空間を“暴走”させました。いまのは偶然、あなたの方向に繋がっただけです」


「……テメェ、正気か? 下手すりゃ自分が死んでたぞ……!」


「元々、命は賭けてます。さぁ、どうしますか? 私は高確率で撃たれるでしょう。でも、反射してあなたが自爆する可能性も……ゼロじゃない」


アストラは苛立った様子で、天音に指を向ける。が―――


バキッ。


鈍く、不快な音。指がねじ曲がり、原型を失う。骨の角度があり得ない方向を向いていた。


「チッ……なるほど。“オレ”自身が動くのも危険ってわけか」


「そうですね……そこからあなたは動くことはできない」


「だったら、話は簡単。オレはここでじっとして、お前のオドが尽きるのを待つだけだ。無理やり暴走で魔法を起動してるんだ。そろそろ限界だろ?」


――確かに、アストラの言う通りだった。このまま消耗を待たれれば、天音に勝ち目はない。


だが――


「……何か、忘れてませんか?」

天音が静かに言った。


「私は、一人で戦ってるわけじゃない」


その言葉に、アストラの目が朱璃の方を向く。


「……は? あの女はもう動けないだろ。周囲に増援の気配もな―――」


だが、その瞬間だった。


アストラは違和感を覚える。朱璃の身体から、膨大な“何か”が収束している気配がする。


(……まさか。空間の暴走の影響で気配が掻き消されていたのか……!?)


「私は、時間さえ稼げればそれで良かった」


直感で危機を感じる。


だが視覚的には何も起きていない。魔法陣も、霊衣も、霊装も何も見えないはずだった。―――そのはずなのに。


「おかしい……こんな力の収束、何か“視える”はずだ……!」


アストラは魔力を目に集中させ、朱璃を凝視する。


そして――視えた。


そこには、霊衣に包まれた朱璃の姿。膝をつきながらも、足元には極大の魔法陣が広がっていた。手には、紅蓮の弓。


「馬鹿な……!? 幻術……? いや、そんなもの魔女には通じない……!」


気づく。これは幻術ではない。相手は炎を冠する魔女だ。


(……“蜃気楼”か……!)


熱で空間を歪め、視覚情報を錯乱させる自然現象。魔法の副次効果を使い、姿を欺いていたのだ。


魔界の発動、霊装の発現、虚空の暴走―――その混沌の中にあって、この“熱”による錯乱に気づける者などいない。


朱璃は、天音が空間を暴走させたその瞬間を見逃さなかった。


――オドを、魔法陣へと流し込む。


アストラは肌で感じた。


(マズい。あれは―――ヤバい)


逃げる? 無理だ。あれは“逃げられる”ようなものじゃない。


だから、アストラは残ったすべてのオドを雷槍に込め、迎撃を決意する。


その頃には、朱璃はすでに立ち上がっていた。


彼女の弓に集う膨大なオドが、やがて形を成す。


――それは、炎の“矢”など生易しいものではなかった。


それは――龍だった。


魔女の霊装――。

其れは、魔女の属性を凝縮した究極の象徴。

アストラの《雷槍》、雪蘭の《氷刀》、天音の《無名の剣》……そして今、朱璃の手にあるは、灼熱の《炎弓》。


魔女に長々しい詠唱など要らない。


ただ一言―――世界に命じるだけでいい。


「―――穿て」


世界が焼けた。


朱璃の弓から解き放たれた龍が、咆哮と共に空を裂く。灼熱が雷を呑みこみ、圧倒的な力でアストラを貫いた。


アストラは槍を掲げ、渾身の迎撃を試みる。だが、焼け石に水。龍の咆哮がすべてを吹き飛ばす。


煉獄が、雷霆を上回った。


―――勝敗は、決した。


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