表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の目覚めの刻  作者: でぃえぬ
第一章:虚空の魔女
11/18

第十一話『魔女』

一人の魔術師が、影山のもとへ駆け込むように現れ、報告を始めた。


「報告! 白鷺天音が襲撃された模様です。詳細は不明、ただちに魔術師を向かわせましたが、すでに連絡が途絶えています。また……この拠点も囲まれつつあります。戦況は優勢ですが、恐らく時間稼ぎが目的かと。このままでは虚空の魔女が――」


「彼女には神代さんがついています。別行動中の天城くんもすぐに合流するはず。今は“確実に”犠牲を出さず、迎撃に徹してください。……いいですね?」


「はっ!」


魔術師が姿を消す。

影山が静かに視線を移す。祭壇の端に座っているレティシアへ。


「それで、レティシアさん。あなたは動いてくれますか?」


「ええ~? さっき言ってたでしょ~? 朱璃ちゃんも蓮くんもいるし、大丈夫だって~」


「敵も、それを承知の上でしょう。……無策で突っ込んでくるとは思えません」


「大丈夫な気がするんだけどなぁ。なんか、そんな予感がするし」


「それが“予言”であれば、まだ安心できるのですが……」


「ただの勘だよ~?」


レティシアが笑みを浮かべたそのとき――


バンッ


扉が荒々しく開かれる。


そこから全身黒装束の魔術師たちが、ぞろりと姿を現した。


「貴様が、ここの管理者か?」


「はい。そうですが……どのようなご用件で? ここは関係者以外、立ち入り禁止のはずですが」


「いや、たいした用事じゃない。……ただ、ここで大人しくしてもらいたいだけだ」


リーダー格らしき男が言い放つが、レティシアを目にした瞬間、その顔色が変わる。


「ま、まさか……! お前が“運命の魔女”か!?」


「うん、そうだけど~? サインでも欲しい?」


レティシアはまるで冗談のように、ふにゃりと笑って応じる。


男の脳裏をよぎる思考。

(魔女の恐ろしさは知ってる。だが、“運命”は別だ。戦闘向きの魔法じゃないし、最弱って評判だ。……ここでこいつを倒せば、俺の評価は爆上がりだ)


男の口元が歪む。


「……悪いが、気が変わった。お前はここで死ね」


手をかざし、合図を送る。黒服たちも一斉に構え、魔法陣がその場にずらりと並ぶ。


「言うことコロコロ変える男って、モテないわよ~?」


男は返事をせず、「やれ」と一言。


次の瞬間、火、雷、氷、風、岩、そして言語化不能な混沌が、レティシアに殺到する。


――爆音。


吹き荒れる粉塵。床も椅子も崩壊し、礼拝堂の一角は原型すら留めていない。


だが、その中心に立つレティシアは――


”無傷”だった。


レティシア本人にはかすり傷どころか汚れ一つ付いていない。


「ば、馬鹿な……あの一斉攻撃を、防ぎ切った……?しかも傷一つないだと……?」


「私は何もしてないけどな~。……みんな、勝手に外しちゃったんじゃない?」


彼女の言葉も、表情も、冗談のようで冗談じゃない。

男の顔が引きつる。だが怒りでそれをごまかし、再び叫ぶ。


「やれ! もう一度だ!」


再び魔法陣が展開される―――が


ボンッ!


魔法陣が“暴発”し、爆ぜた衝撃により術者たちが次々と倒れ込む。


「な、なにが起きた……!?」


「魔術の失敗じゃない? たまにあるよね~? 術式の形間違えたり、魔力配分ミスったり」


「……ふざけるなッ!」


男は叫びながらも、自分たちが何百回と繰り返してきた術式に自信がある。確かに万に一つミスをする可能性はあるかもしれない。

――だが、今、この場で、全員が一斉に“偶然”ミスをしたなど、ありえるはずがない。

ならば……こんな理論も全てを無視した不条理を起こすものは、この世界で一つしかない。


“魔法”だ。


魔術師は所詮理論を構築してこの世界の法則から逸脱しない範囲の術を使用しているだけ。だが魔法は世界の理そのものを操る。


レティシアはゆっくりと立ち上がり、男に歩み寄る。


「……別に、舐められるのは慣れてるの。最弱って言われるのも、嫌いじゃない。その油断が切り札になることもあるし」


「……っ」


「でもね~……ムカつくものは、やっぱりムカつくんだよねぇ?」


「ひ、ひいいいっ!」


腰を抜かし、必死に後退する男。


レティシアは、指を鳴らすような仕草で、気まぐれに口にした。


「雷、よ〜」


魔術を学んだこともなければ、そんな術式が存在するはずもない。


――ただの戯言。そう、本来なら。


しかし、


“たまたま”その言葉が詠唱となり、

“たまたま”その仕草が術式として成立し、

“たまたま”雷が生じ、男へと直撃する。


これが魔女――この世界の理から逸脱した、常識外の化け物。


男の意識は、そこでぷつりと途切れた。



***



天城蓮(あまきれん)は、ビルの屋上を次々と飛び移りながら、市街地を高速で駆け抜けていた。


(まさか通信手段ごと潰されるとはな……。魔術的な妨害は予想していたが、スマホまで使えなくなるとは)


舌打ちしたくなるような状況の中、蓮は天音たちの元へ急いでいた―――が。


「……っ!」


不意に、視界の先に圧倒的な重圧を感じ、足を止める。


「お前が天城蓮だな? ここから先へは行かせない」


そこに待ち構えていたのは、氷霜の魔女―――雪蘭(シュエラン)


「……まさか、こんな大物がお出迎えとはな。悪いが、こっちも任務中でね。通してもらえるとありがたいんだが」


「主の命令は、あなたを“ここで止める”こと。ただそれだけ。戦う必要はない……あなたが進まない限りは」


雪蘭の声は冷徹で、それでいてどこか“慈悲”のような響きを持っていた。


「確かあなた、“最強の魔術師”と呼ばれていたわね……でも分かっているでしょう?」


「魔術師――人間は、魔女には絶対に勝てないのよ」


「……お優しいことで。でも、その言葉には従えないな」


(……無冠者ナンバー2が直々に出てくるとは。これは――かなりまずい)


蓮は内心で苦々しく唇を噛みながらも、表情は崩さない。


「そう……これは最後の忠告でもあったのだけれど――退かないのなら、殺す」


その言葉と同時に、空気が震える。比喩ではなく、現実として周囲の温度が一気に下がる。

雪蘭のドレスの裾から覗く刻印が蒼白に光り、その手には氷の刀が具現化されていた。


対する蓮も、魔術で刀を喚び出す。


次の瞬間、蓮は思考回路を“切り替える”。蓮はどれだけ不利な状況でも思考を戦闘―――より正確には殺戮のみに特化させて生き残ってきた。



相手の目的を阻止するには……殺す。

最速で天音の元へ行くには……殺す。

俺が取るべき最善の手段は……殺す。


一呼吸を置き、蓮は一言呟く。


「―――()るか」


こうして、魔術師と魔女――残酷な決戦の幕が、上がる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ