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第二話「仲間」

「異世界ホームレス」


第一部 ホームレス編 二話

「仲間」



 あれから三日ほど、俺は野良犬のようにこのそびえ立つ洋風の城門の付近をうろうろして過ごしている。

あてもなく歩いた道は、やがてこの大きな都市の城門へと俺を導いた。

だがこんな小汚い格好のホームレスを城内へ通してくれるわけがない。

時折、城内から風が運んでくる食い物の匂いが俺の心をかき乱す。


腹が、減った。

死なないとはいえ空腹は感じるようだ。それが耐え難い。

例え手元に金貨があろうとも、城内に入れなければ何の意味も成さないのだった。

仕方なく俺は、かつてネット動画で見た食べられる野草などを見つけてむさぼっては、飢えをしのいでいた。

ああ、口の中が青臭い。



ある日もそうやって道をはずれた藪の中をさまよって、辺りが暗くなってしばらくしたころのことだ。

俺以外にも、道を外れて歩いてきている男がいた。

一見、平民風の服装の男は敏感に周囲に気を配りながら歩みを進める。

彼を少し離れた位置にひそみながら、なんとなく追跡した。

するとどうだろう。男は周りを暫く注意して見回した後、外れのほうの傷んだ城壁を、岩登りのようにあちこちを手がかりにしながらぐいぐい登っていくではないか。


あっけにとられて見ていたが、俺はすぐに気を取り直した。

あれで、城内に入れる!


なんとか壁をてっぺんまで登り終えると、俺は石造りの土ぼこりっぽい城壁の上の通りを裸足のままひたひた歩いた。

向こうに塔がある、あそこに階段があるだろう。

明かりに誘われて近くまでゆくと、先ほどの男が衛兵と話しており、何かをそっと渡すと中に入っていった。


ぼんやりと俺がその光景を見ていると、見通しのよいまっすぐな城壁の上でのことだ、衛兵が俺の存在に気づいてしまった。

後ろめたい取引を見られたこともあってか、彼は一層大きな声を出した。

「お前、何者だ!」

彼が剣を抜き払い、こちらへと駆け出してくる。

まずい、捕まって、最悪殺されるんじゃないか!?

不死身だと言われているとはいえどちらも避けたいし、何よりこの時の俺にはそれを思い出すゆとりすら無かった。


反対側へと暗い中を必死で逃げ走る。

だがそれも時間の問題となった。

こちら側からも道をふさぐように、もう一人の兵士が現れたのだ。


ええい、ままよ!

俺は腹をくくって、とっさに突破を試みて眼前の兵士へと向かい突っ込んだ。

彼の剣撃を――なんと俺の体は自然にするりと飛び避けたではないか!

そのままの勢いで俺は右の、城壁の道の両側にあるようなでこぼこの壁の上に飛び乗った。


乗ったはずだった。

砂ぼこりっぽい石造りの城壁である。

ずるり、と俺の足は砂ですべった。

そのまま姿勢を崩し、俺の体制は背中から城内へ落ちる格好になった。

今度こそ、死ぬ! 俺の頭の中はこの一点に染まっていた。

そして風切音を感じつつ、俺は後ろ向きに高く高く落下していった。

――重い、どしゃりという音が聞こえた途端に、意識は途切れた。





ぼんやりと目を開くと、小汚い木材をツギハギにしたような低い天井が見えた。

そこにすすぼけたランプが浅く吊り下がっている。

体には俺の貫頭衣よりはずっとマシだけれど、なかなかに小汚い薄汚れた毛布がかけられていた。

ちょっとくさいけど、親切心を感じる。


――そうだ、俺は不死身だったんだ。

そのことは今ごろ思い出した。


「おう、お前目ぇ覚ましたのか?」

この廃材を集めたかのようなそう大きくないボロ小屋の入口からこちらをのぞきつつ、少しなまりのある声で汚れた体格のいい中年男性が声をかけた。

「あの、ここは? 俺はどうしたんですか?」

「どうしたもなんもねぇって。夜中に俺たちの家のすぐ近くで、何かが落ちたえらいデカい音がしてな」

男は続ける。

「様子を見に行ったらおめぇがノビてたんだ。てっきり飛び降りた死体でも落ちた音かと思ってたが普通に生きてやがる。一体どういう状況だったんだ? 俺が知りたいぜ」


そう問われて、次第に昨夜の記憶が脳裏によみがえってきた。

だが果たして、不死身だなんて素直に言ってしまって良いものだろうか?

まぁ、いいとは思えない。

「実は、俺もよく覚えてなくて……」

そう答えるのが俺には精一杯だ。

「頭でも打ってたのか? それでもお前さん、立派な不審者だぞ」

あきれたように男性は言ったのだった。



「まぁまぁいいじゃん、ゴンさん」

割って入るように、いくらか幼さの残る女の声がした。

「どーせ私たちホームレスなんて、ほぼ全員ワケありみたいなもんでしょうよ」

まぁ見た目から、俺は当然ホームレス認定されていた。

ゴンさんと呼ばれた中年男。彼の名前はゴンドール。

よくよく見るとなかなか険しい、削り出した茶色い岩みたいな無骨な作りの顔をしているが、それを忘れさせるほどの親身な笑顔をする、後々俺のまるで父親代わりみたいになってくれた人だ。くさい。


そしてゴンさんに声をかけた少女はマオ。東方から流れ着いたのだという長い黒髪の浅黒い肌の子だ。

土ぼこりに隠されがちなその表情は明るく、見ればなかなか顔立ちも整っている。

けっこうくさい。



「マオはたまに鋭いこと言うな」

ゴンさんが嬉しそうにしながら言った。

「ふふん。東方の民は賢いからね。それで、お兄さん名前は?」


「――カズマサ」

「じゃあ、カズだね。よろしく」

それだけ? それだけしか聞かないのか?

「え? だって私たちはホームレスだよ。みんな身の上なんてろくでもないか、犯罪者だからそうそう聞かないよ。たまに語るのが大好きなホラ吹きとかは居るけどね」

「英雄メルフィン爺さんとかな」

ゴンさんが苦笑しながら言った。

そして彼はこちらに向き直った

「さて、カズよ。お前行くところあるのか?」

え――無いです。

「では、ここで暮らす以上お前にも仕事をしてもらわないとな」

そう言ってゴンさんは両腕を組んだ。


「そのとんでもないボロ衣装じゃなぁ、作業すら断られるだろう。服はこれから調達してやるとして、今日おあつらえ向きなのは物乞いだな」

こじきかぁ。

なんだかちょっと嫌だけど、何もせずに世話にもなれない。

「今日は私も仕事のアテが無いしね、ちょうどいいから色々教えてあげるよカズ」


さあいくよ、とマオは俺の貫頭衣の前布をぐいっと引っ張った。

俺は半分立ち上がる。

だが服を引っ張られたのがいけなかった。

粗末な貫頭衣だ。前布は帯からずるりと引き出され、俺の大事なモノがあらわになった。

あっ、とそれを直視してマオが石のように硬直する。

そして彼女は赤面し、叫びながら俺の頬をぶっ叩いた。

ぐあっっ!

ちくしょう、なんて理不尽なトラブルだ。

ゴンさんは一呼吸置いて、「――ご立派!」とよく分からないフォローを入れていた。

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