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《エンド : 夜を継ぐ者 ― 孤独と赦しの果てに》  作者: you
Chapter V: Throne of the Forsaken
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第80話 孤独という名の強さ

 ルアン、ネムにノイを紹介する。


「新しい旅のメンバーだ」


 エンドが静かに告げると、ノイが一歩前に出て、礼儀正しく頭を下げる。


「ノイと言います。エンドさんの目が曇っていたので、僕がエンドさんのヒーローになりに来ました」


 その声は澄んでいて、けれど決して軽くはなかった。

 さっきの魔眼とは違うけれど、その瞳には確かに“意志”が宿っていた。


「新しい吸血鬼様」


 ルアンが言う。少し目を細めながら、じっとノイの全体を見渡す。


「ふ〜ん、結構可愛い子じゃん」


 ネムが興味ありげに目を細めながら、口元を緩める。

 その視線には警戒というよりも、面白そうな玩具を見つけたような色があった。


「お前らより強いからな」


 エンドが静かに言った一言に、空気が一瞬止まった。


 ルアンが「ほぉ」と呟く。


 ネムはくすっと笑いながら、ノイをもう一度じっくりと見た。


「へえ……言ってくれるじゃない。期待しとくわよ、ヒーローくん?」


 ノイは真っ直ぐ二人を見つめ返し、しっかりと頷いた。



「早速、魔王を討伐する。ノイ――お前の力、見せろよ」


 エンドの声は、淡々としていた。だが、その瞳の奥には確かに光が宿っていた。

“信じる”というより、“見極める”。

 仲間に加える以上、戦場で通じるかどうか――それだけが、エンドにとっての判断基準だった。


 ノイはぴたりと立ち止まり、まっすぐにエンドの視線を受け止める。


「はい!」


 返事は短く、けれど力強かった。


 その声に迷いはなかった。

 まるで、エンドに“認められる”ことが、何よりも嬉しいかのように。


 ネムが横目でちらりと見やり、口角をわずかに上げる。


「……ふふ、やる気満々ね」


 ルアンは腕を組んで黙っていたが、その目にはわずかに期待の色が宿っていた。


 小さな吸血鬼の少年が、風に揺れる。

 狐の面をつけるそれは"証明"の証として

 狐の面が静かに揺れて、金と紅の魔眼がきらりと瞬いた。





 大量の魔物が、黒い地を這うようにうごめいていた。


 その中心に立つのは、一体の“知性ある魔王”。

 自らを“統率者”と名乗り、力も理性もない雑魚魔物を無数に従わせていた。

 その様はまるで、自分が“本物の王”であると錯覚しているかのようだった。


「ノイ、1人で行けるな?」


 俺の問いかけに、ノイは静かに頷いた。

 言葉はない。ただ、すっと一歩を踏み出す。


 少年の背中が、陽の影の中に溶けていく。


 そして――ノイは歩み出す。


 四方八方から魔物たちが唸り声を上げて襲いかかる。

 数の暴力。牙と爪が重なり合い、瞬く間に彼を呑み込もうとした――そのとき。


 ノイは構えを取った。


 その構えは、膝を折った姿勢――ではなかった。

 地を睨み、片膝をつき、腕はまっすぐ前へ。

 まるで“何か”を掴み取ろうとするかのように、痛ましく、必死で――だが、折れていなかった。


「……っ!」


 空気が一瞬にして変わる。


 魔物たちの足が止まり、視線が歪む。

 ノイを中心に、地面ごと引き寄せられるような“重力の渦”が生まれていた。

 引力――いや、“圧倒的な意志”が、彼の全身から滲み出ていた。


「お前らは、僕の前じゃ……ただの肉だ」


 呟いたその瞬間、ノイの全身から血が噴き出す。

 細く、鋭く、まるで赤い槍のような血の棘が、渦に巻き込まれた魔物たちを串刺しにした。


 断末魔すら上げられず、無数の魔物がその場で絶命する。


(最初の頃は、あいつも魔物に怯えていたのに……)


 俺の胸に、かすかな驚きと、誇らしさが混じる。

 だが、それを感情として口に出すことはなかった。


 残ったのは、魔王ただひとり。


「な、なっ……!」


 狼狽する声が、空気に濁って響く。


 次の瞬間――ノイの左目が光る。


 斥力。

 魔王の身体が、まるで叩き飛ばされるように宙を舞い、

 背後の山肌に向かって――


「グチャッ」


 圧し潰されるように、貼りつけられた。


 動かなくなった肉の塊。それが、“王”の末路だった。


 静まり返る戦場に、ノイの足音だけが響いた。


 ゆっくりと俺のもとへ戻り、振り返る。


 その顔には幼さが残っている。けれど――目は違った。

 決意に満ちた、揺るがぬ目だった。


「疑わないこと。それが、貴方が言った強さですよね」


 その言葉に、俺はわずかに目を細めた。


(覚えていたのか……)


 かつて俺が、セレナと一緒に"歩いて"いた頃に言った言葉。

 ヒーローなどではなかった、ただの亡者のような俺に、あいつは“強さ”を見ていた。


(だが……今の俺に、それはあるのか?)


 ノイは仲間になった。

 ルアンとネムも、背を預けられる存在だ。


 けれど――それでも俺は、孤独だった。


 彼らが隣にいても、心の内側までは届かない。

 それは“誰も傷つけたくない”という優しさのようでいて、

 ただの、自己防衛の檻だった。


 この“檻”の内側でしか、俺は戦えない。

 それが、今の俺の“強さ”の形だった。


 ――孤独こそが、俺を保たせている。


 だからこそ、今も俺は“夜”を名乗る。

 光に手を伸ばす資格もなく、

 その温もりにすら、怯えている。


 それでも。


 彼らの強さが、確かにここにあるのなら。

 この道がいつかあの光に届くのなら――


 俺は、“夜”のままで歩き続ける。


 仮面の奥で、そう静かに誓った。

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