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《エンド : 夜を継ぐ者 ― 孤独と赦しの果てに》  作者: you
Chapter V: Throne of the Forsaken
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第75話 偽王の墓場にて

 世界中で、魔物たちがかつてないほど活発化していた。


 その兆候は、ヴィザの死からそう間もない時期に現れ始めた。


 本来なら、地下や辺境に潜んで生を繋いでいた低位の魔物たちまでもが、人里近くに姿を現すようになったのだ。


 しかも、彼らの多くは口々に名乗った。


 ――「我こそが魔王だ」と。


 その力は大したものではない。かつてヴィザの剣が一振りで払ったような、雑魚に過ぎない魔物たちですら、自ら“魔王”と名乗る異常事態。


 だが数が違った。世界の各地で同時多発的に生まれた“自称魔王”たちは、己の名のもとに小規模な群れを築き、人々を襲い始めた。


 これにより、ヴァチカン、そしてG.O.Dは連日の緊急対応を余儀なくされた。


 ――対魔特化兵器レヴナントは限られた数しかなく。

 ――光滅騎士団の精鋭たちは、かつてないほどの広範囲に派遣され。

 ――各地の拠点は悲鳴を上げるように、防衛線を維持することに精一杯だった。


 中でも最も過酷な任務を担わされたのが、最高位聖騎士パラディンに任命されたばかりのセレナだった。


 彼女はその力と実績、そしてヴィザの意志を継ぐ者として、自然と世界の注目と責務を一身に集めていた。


「セレナがいれば大丈夫だ」

「彼女こそ新たな光だ」


 そんな声が、彼女の耳にも届いていた。


 ――だが、それは称賛であると同時に、“重圧”でもあった。


 昼夜を問わず飛び交う任務。

 次々に名乗りを上げる“魔王”。

 ひとつ倒しても、すぐに別の地で新たな魔王が現れる。


 光の継承者として戦うには、あまりにも多く、あまりにも深い“闇”だった。


 セレナの瞳から、少しずつ“祈り”が薄れていくのを、誰も気づいてはいなかった――。




「っていうのが今の現状です」


 ルアンがそう告げた瞬間、空気が沈んだ。静まり返るような重さが、場を支配した。


「そうか……」


 エンドは拳を握りしめたまま、ゆっくりと視線を落とす。

 唇をかみしめ、地面に拳を叩きつける音が響いた。


「クソッ……! 俺のせいで、また……セレナが……!」


 その声は、怒りでも悔しさでもない。

 ただ、守れなかった“何か”を想う、哀しみだった。


「……守りたかったんだ。あの時の、温もりも、声も……」

「なのに、また俺は……何も守れなかった」


 震える声が、空間を切り裂く。


「俺は――独りだ」


 そう呟いた瞬間、周囲の温度が変わったような気がした。

 哀しみが凍り、覚悟という名の鋼に変わる。


「俺はもう……誰も巻き込まない。誰も失わない。だから独りになる」

「そのために、強さを得る」


 彼の目が、紅く光った。


「俺たちは今から、“夜の王”を名乗る」

「この混乱に乗じて“魔王”を気取る連中を――俺が、全部蹴散らす」


 その言葉には、もう迷いはなかった。

 ただ、すべてを背負って進む“夜を継ぐ者”の、凛とした決意だけがあった。


 ルアンとネムは、その背中に言葉をかけることなく、ただ静かに頷いた。


 ――こうして、“夜の王”の行進が始まる。世界が再び闇に包まれる前に。




 玲、芳村、Yume、そして――セレナ。


 名を呼ぶたびに、胸の奥に鈍い痛みが走る。

 思い出すたびに、喉の奥が締めつけられる。

 守りたかった。

 けれど、守れなかった。


 ――彼らは皆、何かを信じ、何かを託して、この世界を去っていった。

 そして今、その“想い”だけが、確かにエンドの中に残されている。


 だからこそ、彼はもう引き返せなかった。


 それは贖罪ではない。ただの執着でもない。

 これは“遺された者”の、祈りに似た覚悟だった。


 エンドは歩く。

 誰にも選ばれなかった、その道を。

 光にすがることすら許されず、

 闇に染まりながら――それでも、誰かの“明日”のために。


「……俺は、“選ばれなかった者”だ」


 だからこそ、選ばれた者の代わりに背負う。

 彼らが願った未来も、残した痛みも、すべて抱えて――


「光を……守るために、闇を歩く」


 紅い瞳が、静かに燃える。

 それは決して、憎しみだけで滾るものではない。

 ただ、自らのすべてを使ってもなお届かぬ“光”の代わりに、

 世界の“夜”を進む者の、静かな炎だった。


 選ばれなかった者が、それでも立ち上がる。

 その姿こそが、きっと――

 いつか誰かの、希望になると信じて。


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