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第56話 断罪の刻、終滅の刃


 気づいてくれてる人がいたら嬉しいのですが。


 カムシャン連邦に着いたのが三日月

 → 光がまだ細く、未知の地で“何者にもなっていない”状態


 人狼の少女と戦いが満月

 → 闇と光が拮抗する“極み”の象徴

 → エンドが“牙”を受け継ぎ、“新たな力”を得る重要転機


 ライネルとの戦いが新月

 → 闇がすべてを覆うが、そこに“影と光”が立ち現れる

 → 過去を断ち、三本目の刃“決”を得て、自らの“選択”を成す


 意図的に月の描写入れてました

 この為です

 セレナは、ただ一直線に――彼のもとへ向かっていた。


 迷いはない。

 躊躇もない。

 あるのはただ、“救う”という意思だけ。


 その道を阻む者は多かった。


「俺は、魔王軍序列7位、グァァ……!」


 叫ぶ前に――銀の閃光が走った。


 風が止まった時には、もうその魔物の姿はなかった。

 あったのは、塵。

 光に焼かれた“闇の残骸”。


「私は魔王軍序列6位、イャャ……ッ!」


 次の瞬間、視界が白に染まる。


 斬撃すら見えない。

 ただ“そこにいた”という事実だけが、痕跡として残される。


 他の、知性なき魔物たちと比べて“少しだけ強い”。

 だが、それだけでは――この光に届くはずがなかった。


「我こそは! 魔王軍序列第1位、グァァァァァァ――!!」


 その叫びは、空に散った。


 剣を抜く仕草すら見せなかった。

 ただ、通り過ぎただけ。


 にもかかわらず。

 その肉体は断たれ、跡形もなく消えた。


 まるで――“神が歩いた”後のように。


 


 やがて。


 風が止み、塵が静かに舞い落ちる。


 その先に、彼がいた。


 仮面は砕け、血を流し、肩で息をしながら――それでも立っている。


 エンドが、顔を上げる。


「……セレナ。遠かっただろ」


 振り返るその目には、

 敗北でも、無力でもない――“信頼”の色があった。


 セレナは、微かに笑った。


「あなたの隣に立てるよりかは――全然遠くない」


 


 そして、二人は並び立つ。


 影と光。

 牙と聖剣。


 この夜、王に挑むのは――

 独りではない。







 同時に、動き出す。


 エンドの両掌が交差する。


「――紅の裁断(くれないのさいだん)


 血が震え、圧が走る。

 次の瞬間、空気が裂けた。


 まるでウォーターカッター。

 目には見えないほど細く、速く、鋭い一閃が――

 ライネルの胸元を、一直線に断ち切るように奔った。


 同時に、セレナの銀光が跳ねた。


煌滅こうめつ!」


 彼女の剣から放たれたのは、波動。

 空間ごと焼き払うような神聖な圧力が、

 半径数メートルにわたって周囲を押し潰す。


 銀と紅。

 静と爆。

 二つの刃が、王へと迫る。


 だが――


「……面白い」


 ライネルが踏み鳴らす。


 ドォンッ!


 その一歩が、空気を圧縮する。

 次の瞬間、彼の左腕が血閃を弾き、

 右足が波動の爆心地を踏み割った。


 まるで、技が当たる“直前”を見切っていたかのように。


「“斬る”と“砕く”……その両方が揃えば、確かに強い」


 そして、エンドが跳び出す。


「――だが、まだ終わらねぇ」


 両手を掲げる。


血の五月雨(ブラッドレイン)


 天井が震え、空が紅く染まる。

 次の瞬間――空間そのものから、血の針が降り注いだ。


 まるで梅雨の如く。

 それは優雅で、残酷で、美しい死の雨。


 ただし――


“セレナだけ”には一滴も当たらなかった。


 エンドが血をすべてを制御している。

 彼女の周囲だけ、まるで傘を差したかのように、雨が避けて流れていく。


「全方位からくるか……!」


 ライネルが低く唸る。


 剣を防げば、影が迫る。

 影を振り払えば、空から血が降る。

 上も、下も、横も――

“王”であっても、全ては防ぎきれない。


「セレナ、行け!」


 エンドが叫ぶ。

 セレナの銀刃が、光を伴って一直線に突進する。


「“今度こそ”通す……!」


 仮面が砕け、

 牙が露わになる。

 影がうねり、爪が唸り、

 ふたりの意志が――王を貫こうとしていた。


 だが。


「……ならば、見せてやろう」


 ライネルが、拳を握る。


 その全身が――“赤黒く”染まっていく。


 血が逆流し、肉が膨れ、魔力が膨張する。


「これが、“王”の力だ!」


 刹那、空気が爆ぜた。


 それはただの風圧ではなかった。


“領域”が変わった。


 城の床が軋み、壁が波打ち、天井から崩れた瓦礫が音もなく宙に浮く。

 まるで、この空間すべてが――“王の息吹”に染まり始めていた。


「セレナ、下がれ!」


 エンドが咄嗟に叫ぶ。


 次の瞬間。


 ライネルの身体から、何かが溢れ出す。

 赤黒い瘴気。

 それは“血”であり“魔力”であり、“呪い”そのものだった。


「顕現――“獅王解放”」


 筋肉が膨れ上がる。

 黄金の毛皮が黒く染まり、銀の鬣が漆黒の稲妻のように逆立つ。


 その姿は、もはや“人”の形を留めていなかった。

 まさに、王の獣――魔そのもの。


 両腕は獅子のごとく太く、

 その爪は一振りで岩をも断つ死神の鎌。

 瞳の奥には、感情など一片もなかった。

 あるのは――“支配者”としての本能。


「“今度こそ”通す、だと……?」


 低く、抑えた声。


 だが、その刹那。


「――通させるかッ!」


 


 ドォッ!!


 踏み込んだ足が、床を粉砕する。


 ライネルの巨体が、目にも止まらぬ速さで跳ぶ。


(ッ!? 速――)


 セレナの銀刃が突進する軌道に、

 まるで読んでいたかのように、“王の拳”が割り込む。


 爆ぜる衝突音。


 セレナが空を舞う。

 地面に叩きつけられた瞬間、光が散った。


「セレナッ――!!」


 叫びながら、エンドが影を這わせる。

 間に合うように彼女の下に滑り込ませ、衝撃を和らげた。


 だが、その直後――


「貴様もだ」


 獅王の腕が、エンドの胸元を貫こうと迫る。


 瞬時に“赦”を掲げて防ぐ。


 ギィィイッ――!


 刃と爪が軋み合い、空気が振動する。

 だが――抑えきれない。


(……力が、違いすぎる――!)


「牙の数など、もはや関係ない」


 ライネルが、真下から拳を振り上げる。


 エンドの身体が宙を舞い、

 その背中が柱に激突し、重い音と共に崩れ落ちた。


 


 静寂。


 セレナも、エンドも、すぐには動けない。


 血が流れる。

 空間がねじれる。

“王”は、その中心に、ゆるぎなく立っていた。


「理解したか? これが、“王”の力だ」


 爪を振り払う。

 地に染みた血すらも、震えて引く。


「光も影も、風も雨も――

 我を断つには、まだ足りん」


 


 崩れ落ちた石の陰で、

 エンドは、ようやく体を起こした。


 仮面は砕け、口元から血が滴る。

 だが――その眼だけは、燃えていた。


(まだ、終わっちゃいねぇ)


 拳を握る


 エンドは飛翔する。

 裂けた空気を蹴り、夜を貫く軌道で跳ぶ。


「――セレナ!」


 その一声に、銀光が応える。


煌滅こうめつ!」


 刹那、セレナの剣から放たれたのは、魔を祓う光の波。

 その刃は、肉を裂くのではない。

 魂ごと――“穢れ”を焼く、絶対の清光。


「……ッ!」


 ライネルの口元が歪む。

 瞬間、獅王の全身が軋み、動きが鈍る。


(今だ――!)


 エンドは二本の刃を握りしめた。


 右手の“咎”。

 左手の“赦”。


 振りかぶるようにして――投擲。


「喰らえ」


 狙いは、王の瞳。

 最も脆く、最も致命的な一点。


「グァァァアアアッ……!!」


 硬質な音と共に、刃が目を穿つ。


 ライネルが叫び、顔を押さえる。

 血と光が混ざり、空気が震えた。


 だが、もう止まらない。


 エンドは影を編む。

 空中で二本の刃を“即座”に作り直す。

 同時に――もう一本。


 その刃は他のどれとも違った。


「――けつ


 影と血を凝縮し、

 怒りでも、赦しでもない、“覚悟”だけで鍛え上げた刃。


 それは太く、重く、鋭く――

“断罪”の意志を宿した、終わりの刃だった。


「裁くためじゃない。赦すためでもない」


「選ぶためだ――俺自身が」


 影が蠢く。


 エンドの姿は消えた。


 ライネルが呻く隙――

 影の中を這うように、音もなく足元へと移動する。


“斬る”のではない。

“断つ”のだ。


 低く、地を這う速度。

 まるで疾風。まるで刃。


(ここだ――)


 膝の死角から回り込み、

 刃を反転させながら跳び上がる。


 獅王の巨大な脚を軸に、エンドは影の軌道を描きながら回転し――


「断て、“決”――!!」


 ――ズバァンッ!!


 肉が裂け、腱が断たれた音が響いた。


 ライネルの巨体が、片膝をつく。

 鉄のようだった足が、崩れるように沈んだ。


 その時――エンドはもう、背後に立っていた。


 仮面の割れたその目は、

 ただ静かに、“その背”を見下ろしていた。


 右手に、“咎”――怒りの刃。

 左手に、“赦”――祈りの刃。


 そして。


 背後の影から、もう一本の刃が、静かに持ち上がる。



「……選ぶ」

 息を、ゆっくりと吐いた。

 殺すためでも、救うためでもない。

 ただ、選ぶために――この刃を


 それは、太く重く、冷たい決意を宿す――“けつ”の刃。


 怒り、赦し、選択。

 そのすべてが今、エンドという存在の中で一点に収束する。


「……終わらせる」


 影がうねり、三本の刃が一直線に向かって伸びる。

 狙うは――獅王の項。


 空を裂くように跳び、刃が旋回する。

 その一閃は、まるで三つの断罪が同時に下されるかのようだった。


「咎――裁け」

「赦――祈れ」

「決――断て」


 三本の刃が王の背を、首を、魂を裂かんと迫るその瞬間――


 銀の光が、それに呼応した。


「――終滅光刃しゅうめつこうじん!!」


 セレナの声が響いた。

 それは、命を燃やす音。


 剣が光に包まれる。

 その輝きは、もはや実体ではない。

“光”そのものが、彼女の意志となり、刃として放たれていた。


「ッッ……!」


 王の瞳が初めて、明確な“焦り”を映した。


 セレナが跳ぶ。

 その速度は閃光。

 空間すら光に焼かれ、斬撃が生まれる前に世界が白に染まった。


 エンドの三刃が、項を刻む。


 セレナの光刃が、正面から貫く。


 


 ――瞬間、すべてが止まった。


 音もなく、王の巨体が沈む。


 時間が遅くなったように、ゆっくりと――

 その身体が、光と影の交差点で崩れ落ちていく。


「グ……ァ……ア……」


 最後に漏れた声は、もはや威圧ではなかった。

 敗北でも、嘆きでもない。

 ただ――静かなる“認め”だった。


 王の身体が倒れる。

 その巨体が、大地に膝をつき、

 まるで“時代の終わり”を告げるかのように、音を立てて崩れた。


 静寂が降りる。

 血も、風も、もう何も動いていなかった。


 血と破片と光が交じる中、二人はただ、静かに立っていた


 


 影の中に、三本の刃を下ろし、仮面の割れた顔で――空を見上げていた。


 その背に、銀の光がゆっくりと並ぶ。

 セレナが、黙って隣に立っていた。


「……終わった?」


 彼女が問う。


「ああ」


 エンドはそう答え、静かに目を閉じた。


 これは、夜の王を斃した物語の終わりではない。


 夜を選び、共に歩む者たちの――**新しい“始まり”**だった。








 そして、それを見下ろす“影”。


「へぇ――あれが“伯爵級”ってところかしら」


「――なら、“侯爵様”もそろそろ動くわね」




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