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怪盗と私  作者: ふとん
1/5

人生最高の悪夢

 その日は暑かった。




 確かに暑かった。

 だから、その銀行に入ったとき、都会の熱波から開放されてマリアが少し幸せになったことを誰も責める人はいないだろう。

 そして、



「動かないで」



 耳元でささやかれて、振り返ったと思ったら、覆面の男だったことに、自分の不運さを呪ったことも、誰も責める人はいないと思った。










 思えば、生まれたときから運がなかった。

 まず家族運がなかった。

 父親も母親も、マリアを育てることからまず放棄した。

 桜の下で泣いていたところを孤児院の院長に拾われたのだから、野犬に襲われなかっただけマシだったと思うことにしている。

 そして、金運もなかった。

 特別ないじめも特別な貧しさも感じずに孤児院に育てられていたのだが、中学二年のとき孤児院の経営が立ち行かなくなった。結局、行き場のない子供として他県の孤児院にいれられたが、対人運もなかったらしく、引き取ってくれるような里親もなく、高校を卒業したら孤児院を放り出された。

 夜学の大学に通いながらバイトをする日々は、決して裕福ではなかったが、それなりにマリアは幸せをつかもうとしていたはずだった。

 今日は、給料日だったのだ。

 大学に行く前に銀行で金額を確かめ、更に言えば帰り道のコンビニでケーキの一つも買って食べたいなぁというささやかな企みもあった。




 それが、


「大人しくしてください」



 穏やかな声とは裏腹に、男が手に持っている、日本ではおよそ映画館でしかお目にかかれそうにない機関銃というやつが火を噴いた。


 


 ズガガガガガガガガ! と耳障りな音に悲鳴が混じった。


 


 何が起こっているんだろう。

 機関銃の牙が横断した窓口を見ても、マリアは悲鳴もあげられない。


 なぜなら、マリアの口を塞いでいる男が、まさしく撃ったのだから。

 覆面の男は街のチンピラにはない落ち着き払った様子で銃口をくいっと上げた。

 すると、それを合図に二人の、同じく覆面の男たちが窓口に拳銃をつきつけ、用意していたらしいバッグを行員のお姉さんに差し出して金を詰めさせている。


 マリアも他の客と同様に顔をひきつらせて、大人しくしているしかない。


 やがて旅行用の鞄いっぱいに札束を詰め終えて、男二人が窓口から離れると、けたたましいベルの音が響き渡る。


 非常ベルだ!


 ニュースで何気なく見たことのある防犯訓練を思い出しながらマリアは、けたたましい音に光明を見出した。このベルで警察がかけつけてくるはずだ。マリアはそのうるさい音が僥倖に聞こえたが、マリアの口を塞いでいた男は彼女を放そうとはしなかった。

 口を塞ぐのをやめたと思ったら、今度は腕を引っつかんで他の二人の男と一緒に走り出したのだ。

 マリアを引きずって。


「う、嘘でしょうぉおおおおおおおおおおおっっっっっっ!」




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