表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 遊瑕かす
第一章 婚約破棄騒動
9/24

捌:犯人と真相

 ベイルが去ってしまった後、私はグレイヴを振り返った。


「グレイヴ様、私も行きますので、レインさんの見張りをお願いしますね」

「スカーレット様! 何を仰るのですか! 俺は貴方の護衛も言いつけられたんですよ!」


 驚いた様子で声を上げるグレイヴに、私はレインを一瞥した。


「んー、じゃあ、三人で行きましょうか。魔物退治に」

「え?」

「は?」


 レインとグレイヴがそれぞれ間の抜けた顔をする横で、私は魔物の気配を探った。


「あら、こちらから行くまでもないみたい」


 私が目を瞬いた直後、強い魔力の塊が文字通り飛んできた。


 ぐるぐると唸っているそれは、赤い眼をぎらつかせて私を睨んでいる。

 大きさは馬ほど。先日の牛型の魔物よりも一回り大きい。しかし体つきはまるで狼のようだ。


「魔物……っ!」


 グレイヴが剣を抜き、レインも右手を掲げる。


「スカーレット様はお下がりくださいっ!」


 グレイヴが前に出て私を庇う。

 そういう漢気が溢れるところはゲームと変わらない。


 胸がきゅんとなるが、私はただ守られるだけなんて性に合わない。


 私が攻撃魔法を放とうと右手を掲げたその時、物陰から誰かが飛び出して来た。


「スカーレット様に虐められるのは私よっ! 邪魔をしないでっ!」


 シャルロットだ。また妙なことを言っているが、今は構っている余裕はない。


「馬鹿っ! 危ないわよっ! 下がりなさい!」


 思わず怒鳴って彼女の腕を強引に引き、再び右手を掲げる。

 もう魔物は目の前に迫っていた。


 まずい、間に合わない。

 死を覚悟した直後、魔物の首にグレイヴが剣を突き立てた。


「っ!」


 魔物が身を捩ったことでグレイヴ諸共振り払われ、致命傷は負わせられなかったが、隙を作るには充分だった。


業火魔法インフェルヌス!」


 グレイヴが再度攻撃を仕掛けるより早く、再度右手を掲げて叫んだ。

 直後、魔物の下に魔法陣が顕現し、深紅の炎が噴き出した。


 魔物が転げ回って炎を回避しようとするが、魔法によって生成されたその炎は、対象を焼き尽くすまで止まらない、炎属性の高度攻撃魔法だ。


「可哀想だけど、人間を襲った魔物は処分する決まりなの」


 意思疎通が図れず、獰猛で凶暴な魔物は、時に人間を襲って命を奪う。

 そんな魔物から人々を守るために戦うのがこの国の騎士団だ。


「……スカーレット様、俺の出番を奪わないでくださいよ」


 業火に焼かれた魔物が塵となって消えたのを確認してから、グレイヴが私を振り返る。


「……で、シャルロット嬢は大丈夫か?」


 腕を引かれた勢いで尻餅をついていた彼女は、何故か恍惚の表情を浮かべていた。

 それを見たグレイヴが、露骨に顔を引き攣らせる。


「……それより、スカーレット様、業火魔法のような高等攻撃魔法を習得されているとは驚きました」


 気を取り直したレインが、意外そうに私を見た。

 彼の言う通り、業火魔法はかなり難易度の高い魔法だ。

 それでも頑張って習得したのは、先の魔物脱走事故を受け、手元に武器がなくても確実に魔物を倒せる手段をもっていたかったから。


「ええ、業火魔法が使えれば、こういう時に自分だけでなく周りの人も守れるでしょう?」


 不敵な笑みを意識してそう答えると、二人は感心した風情で頷いた。


「流石は王太子の婚約者殿」


 と、グレイヴが突然目を眇めて、右手を払った。


「そこで何をしている?」


 低く問う、その視線の先には、一人の生徒がいた。

 不自然な体勢で固まっているところを見ると、どうやらグレイヴが束縛魔法を発動させているようだ。


「……フランク?」


 商業科所属で資産家伯爵家子息のフランク・オプレントス。

 ゲームの攻略対象で、設定ではお調子者で軽薄ながら、実はとても思慮深く紳士的というキャラクターだ。

 

「ぐ、グレイヴ! 俺はただ、魔物が脱走したと聞いて、近くの教室に向かおうとしていただけだ!」

「それなら何故わざわざら警報が鳴ってから中庭に出た? 俺が中庭に出た時点で、お前の気配は無かったが?」


 グレイヴの鋭い指摘に、フランクがひゅっと息を呑む。


 と、グレイヴはフランクのうなじを素早く手刀で殴り、気を失わせた。


「グレイヴ殿っ? 何を……」


 レインが驚いた声を上げる。


「レイン、どうやらお前の容疑は晴れそうだ……コイツが魔物脱走事故に一枚噛んでいるのは間違いない。魔物が()()を襲う瞬間を確かめるために後を追ってきたんだ」

「どうしてそう思う? 魔物に対する興味本位という可能性も……」

「騎士学科を魔法学科の生徒ならその可能性もあったが、コイツは商業科だ。魔法の成績だってそれほど良くないと聞いている。そんな奴が、自分も襲われる危険を冒してまで、見物に出てくると思うか? もしそうするなら、結界魔法を発動させた教室の窓からで充分なはずだ」

「た、確かに……」

「それでもわざわざ中庭に出てきたのは、魔物が誰を襲うのかを知っていたからだ……魔物は中庭に出るなら俺たち三人に真っ直ぐ突っ込んできた。狙いは間違いなく俺たちの誰かだ」


 グレイヴの言うことは一理ある。


 実際、魔物に操作魔法を掛けて特定の人間を襲わせること自体は可能だ。

 魔物は本能に忠実な生き物であるが故に、操作魔術に掛かりやすい。


 ただ、野生の魔物のように俊敏に動き回る対象に対して操作魔術を掛けるのは容易ではないため、対魔物の戦闘において魔物を操作して勝利することは難しいとされている。

 だが、飼育庫の檻に入っている魔物に対して操作魔法を掛けるのは、ある程度の魔法の腕があれば簡単だ。


 フランクにそれができるだろうか。

 それに、問題は操作魔法よりも、もっと前の段階だ。


「……ただ、ジャック先生が結界魔法を施した飼育庫に、コイツが入り込めるとは到底思えないんだよな」


 グレイヴが、気を失った倒れているフランクを一瞥する。

 それは同感だ。フランクは、学園内で見ても魔法のレベルは下の中がいいところ。ジャック先生の張った結界を掻い潜れるとは思えない。


 操作魔法の件も含めて、他に協力者がいるとみて間違いないだろう。


「……探知魔法を試してみましょう。飼育庫に侵入するときに誰かに遮蔽魔法を掛けてもらったとしたら、フランクから、彼以外の魔力を検知できるはずです」


 レインが言いながらフランクの傍に膝を折り、右手を掲げた。


探知魔法テプレヘンシオ!」


 瞑目し、数呼吸数えてから目を開けた彼は、戸惑いを隠せない様子でグレイヴと私を見た。


「……ミュラー殿の、魔力を検知しました」

「ミュラーだと? 神聖科の?」


 攻略対象キャラで神官候補のミュラー・サケルドス。設定上は、穏やかな笑みの裏に恋愛面はドSというギャップを抱えていた。

 しかし、魔物を校内に解き放った犯人がミュラーとは、俄かには信じ難い。


「……とにかく、ミュラーを探して問い詰めよう」


 グレイヴがそう言って踵を返そうとした、その時だった。


「その必要はない」


 淡々とした声がその場に響き、私たちは驚いてそちらを振り返った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ