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虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 遊瑕かす
第一章 婚約破棄騒動
5/24

肆:婚約者とライバルと本命と

 非常にまずいことになってしまった。


 どういう訳か、私に虐められたいという欲求を爆発させてきたゲームのヒロイン、シャルロットと、それに便乗して虐めてくれと迫る婚約者、王太子コルト。

 そして顔を合わせて思い出した、前世で最推しだったキャラクター、グレイヴ。


 実際に動いている彼を見ると、前世に置いてきたと思っていたときめきが蘇ってしまって心臓に悪い。


 何より、今の私はまだ王太子の婚約者なのだ。 

 他の男に想いを寄せるなど、絶対にあってはならない。


 と、己を律し続けること数日、突然コルトに呼び出され、私は再び生徒会室にやって来た。

 そこには、コルトの他、シャルロットと他の攻略対象キャラが勢揃いしていた。


「スカーレット! シャルロットを突き飛ばしたというのは本当か!」


 開口一番に私を問い詰めてくるコルト。他の面々も私を観察するようにじっと見つめている。


 え、ナニコレ。まさにこれから断罪されます、というような雰囲気だ。


 いや落ち着け私。断罪は、入学から一年後の進級パーティで行われるはずだ。

 魔法学校の在学期間は三年。エンディングが卒業ではないのは、続編の制作が決定しているからだとファンの間では噂されていた。


 つまり、まだ入学してひと月ほどしか経っていない今の状況で、断罪されることはあり得ないはずなのだ。


「……何のことかわかりかねますわ」


 一度小さく息をして、平静を装って答える。


「昨日の放課後、シャルロットを空き教室に呼び出して突き飛ばしたそうじゃないか!」

「昨日の放課後は、授業が終わってすぐ図書室へ行って勉強をしてましたが……」


 ジェーンも一緒だったから証人もいる。

 そんな露骨な濡れ衣を着せようとしてくるなんて、流石に詰めが甘すぎやしないか。


「……シャルロット、君は僕に嘘をついたのか?」

「そんなっ! 嘘だなんて……」


 まぁ、ゲームのシナリオでは、実際に入学してからこのくらいの時期に、悪役令嬢スカーレットにヒロインが呼び出されて突き飛ばされるっていうイベントが発生するんだよね。

 それに則ってヒロインは動いているのか。

 だとしたら、シャルロットもまた、私と同じ前世をもっているのかもしれない。


「シャルロットさん、貴方は何がしたいのですか? 私とコルト様に婚約破棄をしてほしいのですか?」


 私が真正面から斬り込むと、彼女はぶんぶんと首を横に振った。


「わ、私はそんなことは望んでおりませんっ!」

「では一体何を望んでいらっしゃるのです? 貴方の言動はまるで理解できません」

「だから前から言っているじゃないですか! 私はスカーレット様に虐めてほしいんですっ!」


 目を潤ませて懇願してくるシャルロットに、私の心がどんどん冷えていくのが判る。


 何故だ。何故なんだヒロイン、シャルロット。

 何故お前は私に虐められたがるんだ。


「その件は以前お断りしたはずです。私は他者を傷付けるようなことは断じて致しません」

「……シャルロット嬢、スカーレット様に虐めて欲しいと頼むなんて、流石に非常識が過ぎるのでは……?」


 それまで黙って成り行きを見守っていたグレイヴが、少々呆れた様子ながら、言葉を選びつつ口を挟んだ。


「……シャルロット、私も同感だ。スカーレット嬢は、品行方正で淑女の鑑と謳われている。彼女が誰かを虐めるとは到底考え難い」


 公爵家嫡男のベイルが、額に指を当てて思案するような仕草を見せながら言葉を絞り出した。

 金髪に翠の瞳を有する彼は、二歳上の三年生。ゲームの設定上ではアンニュイで物憂げ、ミステリアスな雰囲気で人気があったキャラクターだ。


「そうですね。スカーレット様とは委員会の関係でよくお話しますが、とても他者を軽んじるような方には思えません……」


 そう庇ってくれたのは、同じく三年生、神官候補のミュラーだ。

 長い銀髪に淡い蒼の瞳、中性的な美貌の持ち主だが、優しそうな見た目とは裏腹に、ゲームの設定上は実はドSなんだよな。


 というか、シャルロットも、虐められたいならミュラーに頼めばいいのに。

 まぁ、ミュラーの性格がゲームの設定通りとも限らないんだけど。


「私は魔法の合同授業で一緒になったことがある程度ですが、スカーレット様の魔法技術を拝見するに、かなりの努力をなさっておいでです。それほどの研鑽を積まれて魔法を習得されている方が、物理的に他者を痛めつけるような真似をするとは思えません」


 二年生で魔法学科主席のレイン。黒髪に黄金の双眸、インテリ系のヤンデレキャラという位置づけだ。

 本来ヒロインが親密度を高めていれば、最もヒロインを盲目的に溺愛するはずのキャラなのに、この時点でシャルロット信じていない。つまりはまだ親密度はさほど高くないということだろうか。


「そうだな……クラスも違うから直接話したことはないが、スカーレット様の噂はよく聞く。その全ては、スカーレット様の言動を賞賛する内容だ」

「教師の間でも、スカーレット嬢の日頃の態度、言動共に文句のつけようがない優等生という評価だ」


 資産家伯爵家子息のフランクと、新任教師のジャック先生が頷き合う。


 この場に集まっている時点で、既に皆シャルロットに懐柔されているのかと思ったが、実際は彼らも不信感を抱いていて、彼女の言葉の真偽を確かめるために集まったのかもしれない。


「……スカーレット、君には失望した」

「……え?」


 コルトが、突然そう口にした。私だけでなく、その場の全員が驚いて彼を振り返る。


「失望……? 私に、失望、ですか……?」


 聞き返すと、彼は私を見て、切なそうに目を細めた。

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