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虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 雪途かす
第二章 第二王子
24/24

終:約束

 学園に戻り、私達はジャック先生にことのあらましを説明した。

 コルト殿下が根回しをしてくれていたらしく、お咎めもなく解放され、職員室を出た私はほっと息を吐いた。


「……なんかどっと疲れちゃったわね」

「スカーレット様! それでしたら私が、購買部で疲労回復薬を買って寮のお部屋にお届けします!」


 言うが早いか、シャルロットは脱兎の如く走り出した。


「……張り切ってますね」

「友達と使いっ走りを履き違えてないかしら……」


 これでは本当に下僕じゃないか。

 まぁ、グレイヴと二人だけで話したいと思っていたし、丁度いいか。


「グレイヴ、この後少しだけ良いかしら?」

「はい、勿論です」


 グレイヴが快諾してくれたので、私たちは校舎の屋上へ移動した。


「スカーレット様?」

「グレイヴ、今日は助けに来てくれてありがとう」

「そんな! 実際に助けたのはシャルロット嬢で、俺は何も……」

「ううん、来てくれただけで嬉しかった……あのね、まだ正式回答は待って欲しいんだけど、婚約の申し込みは、前向きに考えるようにするから……」


 もう少し時間をちょうだい、そう言いかけて、言葉を呑み込む。

 グレイヴが、私を抱き締めたから。


「ありがとうございます……!」

「……お父様にもそう伝えるけど、当面は、その……婚約者候補ということでも、いいかしら?」

「勿論です!」


 グレイヴは嬉しそうに笑う。


「正式な婚約は、まだ私の中で決心がつかなくて……待たせてごめんなさい」

「いいえ。コルト殿下との婚約破棄からまだ日も浅いことはわかっています。どうか謝らないでください」


 私の両手を握って、私を見つめてくるグレイヴ。


 まだ正式な婚約者になっていないのに、この距離は本来なら絶対ダメなんだけど、離れたくないと、この手を放したくないと思っている自分がいる。


「……グレイヴ、一つお願いを聞いてくれる?」

「はい、何でしょう?」

「敬語はやめて。様も要らないわ」

「え……俺は嬉しいですが、正式な婚約者でもないのに、流石に……」

「二人っきりの時だけでいい。ね?」


 私がそう促すと、彼は少し躊躇いがちに頷いた。


「わかった」


 少し照れたように微笑んで、彼は私を見た。


「スカーレット」

「うん」

「……っはぁ……やばい、幸せ過ぎて死ぬかもしれない……」


 感慨深そうに額を押さえる彼の耳は真っ赤になっている。


 いかん、可愛い。


 改めて推しキャラに胸キュンしつつ、私はその手を握り締めた。


 私は悪役令嬢スカーレット・セレラトス。

 でも、きっとこれからのシナリオに、悪役令嬢は登場しない。


 私はグレイヴと、明るい未来を歩んでいく。

 臆病な私は、二人の関係をゆっくり深めていくしかできないけど、それでもその未来を信じたい。


 何より今は、この温かい手を放したくない。


 手の温もりを噛み締めながら、私は決意を新たにするのだった。

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