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虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 雪途かす
第二章 第二王子
23/24

拾:決着

 騎士団への指示を終えたコルト殿下が、急いで私の元へ駆けてきた。


「スカーレット……! 大丈夫か! 怪我は?」

「ありません。シャルロットさんのおかげで助かりました」

「そんなそんな。御礼は不要ですので是非私にも平手打ちを……」


 咄嗟におかしいことを言い出す彼女を黙殺して、私はグレイヴを振り返った。


「グレイヴも、来てくれてありがとう」


 彼が駆けつけてくれただけで安心できた。

 私は心から礼を言うが、彼は表情を曇らせて唇を噛んだ。


「いいえ……今回の俺は、全く貴方を守ることができませんでした……不甲斐ない自分が情けないです」

「そんな……強制召喚魔法は防ぐのも難しいし、グレイヴのせいじゃないわ」

「それでも、貴方を守るのは俺の役目でありたかったのです」


 推しのしょんぼり顔に、不覚にもきゅんとしてしまった私は慌ててかぶりを振った。


「……それより、帰りましょう」


 私の言葉に、グレイヴが頷く。

 緊急事態につき、コルトの一存で学園を飛び出してきたそうなので、皆で先生にことのあらましの報告と、無断外出の謝罪をしなければなるまい。

 まぁ、私は強制的に引っ張り出されたので、流石に咎められることはないと思うけど。


 コルト殿下が馬車を手配してくれていたので、騎士団の指揮がある殿下を残し、私たちはそれに乗って学園まで戻ることになった。


 三人で馬車に乗り込むと、妙に重い沈黙が流れ始めた。

 それを破ったのはシャルロットだった。


「……あの、マリクス殿下はどうなるんでしょうか?」


 その質問に、グレイヴが肩を竦める。


「処分は国王陛下が決めるが……今回の件は罪が重すぎる。王位継承権の剥奪や、生涯独身のまま幽閉される可能性もあるだろうな」


 国内有数の貴族であり、現宰相の娘である私を強制召喚し、無理矢理結婚を迫るなんて、国王陛下としても揉み消しようがないスキャンダルだ。

 しかも、取り込んだ派閥の令嬢が私の暗殺を企てたのだから、少なからずマリクス殿下にもその責は問われるだろう。


 少なくとも、今回の件を受けて、マリクス殿下が王位を継ぐ可能性はなくなったと見ていいだろう。

 彼が王位を継ぐなんて、宰相である私の父が絶対に許さないだろうから。


「つまり、マリクス殿下が来年学園に入学してくる可能性はほぼないってことですか?」

「……今回のことを考えたら、来年二年生として在学しているスカーレット様がいる学園に入学することを、国王陛下もセレラトス侯爵も良しとしないだろうな」

「……そう、ですよね」


 シャルロットが頷きつつ私を一瞥する。

 彼女の言いたいことはなんとなくわかる。


 マリクス殿下が来年度に学園に入学してこないとなると、続編のゲームのシナリオはそもそも始まらないということだ。


 私の憂いがすべて払拭された訳ではない。

 まだグレイヴからの求愛を受け止める覚悟はできていない。


 しかし、少しは前向きに考えられる気がした。


 戻ったら、父に婚約の承諾を打診してみようか。

 いや、いきなり承諾するのもまだ不安だから、とりあえず前向きに検討中としておこうか。

 承諾するのは、本当に私がグレイヴと結婚しても何も起きないと、確信を得られてからでないと。


 私は、臆病だ。

 この期に及んで、グレイヴに何か良くないことが起きる可能性に怯えている。


「スカーレット様、ところで、私のお願いを聞いていただけけませんか?」


 唐突に私を振り返って目をキラキラさせたシャルロットに、私は思わず半眼になる。


「虐めてくださいとか、殴ってくださいとか、そういうのでなければ」

「もうそんなことは言いません! 私をスカーレット様の下僕にしてほしいんですっ!」

「げ、下僕?」


 この世界ではあまり聞き慣れない単語にぎょっとすると、シャルロットは興奮気味に語り出した。


「そう、この数日間ずっと考えていたんです! 憧れのスカーレット様にご迷惑をお掛けすることなく、スカーレット様の幸せのために尽くす方法を!」

「それが、下僕になることだと?」

「はいっ! 勿論、私が何かミスをしたらとことん叱っていただいて、時には罵っていただいて構いません!」

「貴方の場合は罵ることがご褒美になるんじゃ……」


 思わず呟くと、シャルロットはこほんと咳払いをした。


「も、勿論、私が故意に何かをミスしてスカーレット様のお邪魔をしたりすることはありません! 私はあくまでも、スカーレット様の幸せのお手伝いがしたいのです!」


 鼻息荒く頼み込んでくる彼女に軽い眩暈を覚えつつ、ヒロインと懇意にしておけば、今後何かと役に立つかもしれないという打算もあって、私はそれを承諾することにした。


「わかったわ。ただし、下僕という表現はやめて、お友達ということにしてくれる?」

「えええ! 私なんかが、スカーレット様のお友達を名乗って良いんですかっ?」

「それは構わないわ。今回、貴方のおかげで私の命が助かったのは事実だし、そのお礼ということで」

「スカーレット様ぁ! 一生ついていきますぅぅぅ!」


 感動の余り大号泣するシャルロット。彼女の前世があのドMオタクの男だと知ってしまってから何となく敬遠していたけど、実際今の彼女は男爵令嬢なのだ。級友として交友関係を築くことは問題ない。


 そんな私とシャルロットのやり取りを、グレイヴが何か言いたげな顔で見ていたことに、私は気付かなかった。

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