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虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 雪途かす
第二章 第二王子
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漆:襲撃

 白銀の線の正体は剣。覆面の男が、突然現れて私の首を狙ったのだ。


「なっ!」


 愕然とした矢先、グレイヴが右手を掲げた。


召喚魔法ヴォカーレ!」


 彼の手に、白銀の刀身の剣が現れる。

 今日は帯剣していないと思ってはいたが、召喚魔法で取り出せるようにしていたのか。


 グレイヴが剣を鞘から抜いて構えた直後、男の剣がそこにぶつかった。

 そこからは一瞬だった。


 学生とはいえ、騎士学科主席で次期騎士団長の呼び声高いグレイヴは、一撃で相手の剣を弾き飛ばし、剣のつかで相手の項を叩いて気絶させたのだ。


「え、すご……」


 やはりグレイヴは強い。

 改めて惚れ惚れしていると、彼は剣を鞘に戻してベルトに挿し、男を見下ろした。


「……この不届き者を憲兵に引き渡さないと……」


 グレイヴが馬車を操っていた御者に人を呼びに行くよう命じたので、男がもし目を覚ましても何もできないようにと、私は束縛魔法を掛けた。


「……俺の目の前でスカーレット様を狙うとは、命知らずな奴だ」


 嘆息しつつ、グレイヴは剣を収めて男の覆面を剥ぎ取った。

 褐色の髪の、見覚えのない男だった。年の頃は三十代くらい。


「……貴族ではないですね。それにしても、学園の敷地に忍び込めるなんて……」


 それは確かに不可解だ。

 この学園には、偉大な魔法使いである学園長が、強靭な結界を張っている。許可のない者の出入りは不可能なのだ。


「……学園内に、手引きした者がいる……?」


 それしか考えられない。


「……私を狙ったのだとしたら、今日私が学校の外に行くことを知っていたということになるわね……」


 私の呟きに、グレイヴが頷く。


 私とグレイヴが観劇に行くため、学園の敷地から出ることが決まったのは昨日の朝だ。

 あの時点で教室にいたのは、クラスメイトの半数ほど。


「黒幕は、昨日の私とジェーンの会話を聞けた人物……?」


 クラスメイトを疑いたくはないが、状況がそれを示している。


「まだわかりませんよ。スカーレット様のクラスの誰かが俺たちの会話を聞いていて、それを別の誰かに話しているところを、黒幕が聞きつけた可能性もありますから」

「それはそうね……」


 と、男が目を開けた。

 身動きが取れないことに気付いて、絶望した様子で青褪める。


「あら、お目覚めのようね。さて、洗い浚い話していただきましょうか?」


 にっこりと微笑みながら、男の前に屈みこむ。

 うっかり、前世の癖でヤンキー座りになってしまったが、丈の長いスカートのおかげで助かった。

 これはこれで、かつてのスケバンみたいだけど。


 男は、私なその顔を見て何故か「ひっ」と息を呑んだ。

 何だか腑に落ちないけど、怯えてくれるならこちらもやりやすい。


 私は、右手に魔力を集中させた。


「私が誰だか知っていて襲ったのよね? この学園でも有数の強い魔力を持つ私が、魔力の塊をぶつけたら、どうなると思う?」


 掌の上で魔力が小さく渦を巻き、バチバチと火花を散らし始める。そんなものを、生身の人間が喰らったら火傷では済まないことなど、アホにでもわかるはず。


 実際、男は状況を理解したようで、顔面蒼白でガタガタと震え出している。


「誰から依頼されたの?」

「し、知らない。酒場で飲んでいたら、黒いローブの男に声をかけられて……この学園に忍び込んで、赤髪の侯爵令嬢を殺せば金貨十枚くれるっつーから、報酬に釣られて引き受けちまったんだ」


 声を引き攣らせながら答える様子を見る限り、嘘をついているようには見えない。

 演技の可能性も勿論あるが、魔力もほとんどないようだし、おそらく黒幕に使い捨てられたのだろう。

 魔力が無さすぎることから、劇場でシャンデリアを落としたのはおそらく別人だ。


「黒いローブの男……顔は見ていないのか?」

「顔は影で見えなかった」

「お前は暗殺を生業としている訳じゃないのか? それにしては気配を消すのが上手かったが……」

「俺は猟師だ。獣相手に近づくため、気配を消すのは得意なんだ」


 なるほど。この世界では銃はあまり普及していないから、魔法が使えない庶民は剣やナイフで猟をするのが一般的だ。

 付け焼き刃で暗殺者を雇うなら、猟師は確かに打ってつけと言う訳だ。


 しかし、それはそれで気になる。


「……本物の暗殺者だって探せば見つかるはずなのに、そうしなかった理由は何だと思う?」


 私を暗殺しようとする動機。

 色々考えられるが、いずれもある程度高位貴族が、私というか、セレラトス家を邪魔に思って、というのが一番しっくりくる。

 しかし、高位貴族が敵対貴族を暗殺しようとしたとして、こんな暗殺は素人の猟師を雇うだろうか。


 プロの暗殺者は、探せばすぐ見つかる。ただし、プロは金貨十枚ではとても雇えない。

 それを考えると、この男の雇い主はそれほどお金に余裕はない、という可能性が高い。


 だがそうなると、動機がわからない。

 暗殺者も雇えないような懐事情の者が、私を害そうとする理由。

 しかもその人物は、この男を学園内に招き入れている、つまり学園関係者である可能性が高い。


「……成績の悪い生徒が、スカーレット様を妬んでの犯行、といったところでしょうか」


 確かに、その可能性はなくもない。

 学園の生徒のほとんどは高位貴族の令息令嬢だが、学園生活において現金はほとんど持たされていない。学費を始め、学校生活に付随して発生する料金の支払いは全てまとめて家に請求される仕組みだからだ。

 家を巻き込まずに自分で暗殺者を手配しようとしても、報酬不足で断られるだろう。


 うーむ、と唸った、その時。


 私の足元に、魔法陣が顕現した。


「えっ?」

「スカーレット様!」


 グレイヴが私に手を伸ばしたが、その手が届く前に、私の視界は真っ白になった。

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