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虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 雪途かす
第二章 第二王子
17/24

肆:初デート

 翌日、私は朝食後、集会棟へ向かった。

 時間ピッタリに現れたグレイヴが馬車を手配してくれていたので、私は彼の手を借りてそれに乗り込む。


 学園は王都の校外に位置していて、劇場があるのは王都の中心部。

 馬車で一時間程かかる距離だ。


 動き出した馬車の中で、私は向かいに座るグレイヴを見た。

 窓の外に視線を投じる姿も格好いいからズルい。っていうか私服も格好いいな。

 

 と、私の視線に気づいた彼が振り向き、優しく微笑む。

 あー、ズルいな。格好いいってズルい。


 ぼんやりとそんなことを考えつつ、ふと昨日のシャルロットとの会話を思い出した。


「……ねぇ、聞いてもいい?」

「勿論です。何ですか?」

「この世界の男の人って、皆好きな女の子に踏まれたいとか縛られたいとか殴られたいとか、そんなこと考えているのかしら?」


 私の問いに、グレイヴは虚をつかれたような顔をした。

 それから、ふむと何かを考える仕草をしてから、ゆっくりと首を横に振る。


「他の男がどうかはわかりませんが、俺は好きな女性は守りたいので、殴られたいなんて考えたこともないですよ。まぁ、スカーレット様になら踏まれても軽そうだからいいですけど、あえて踏まれたいとまでは思いませんね。まぁ、物理的な意味ではなく、気持ちの話でしたら、好きな人の心は縛りたいですけど」


 最後にそう言って不敵に笑う。

 それは、前世の私が大好きだったスチルを彷彿とさせる表情だ。


 あー、本当に、心臓に悪い。


 その後も他愛ない会話を交わして、あっという間に劇場へ辿り着いた。


 グレイヴのエスコートで劇場に入っていくと、周りの貴族たちがグレイヴを見て眉を顰めた。

 彼は慣れている様子で気にしない素振りを見せるが、幼少期からそんな目を向けられていたのだと思うと心が痛む。


 彼の鮮やかな緋色の瞳は、まるで宝石のように美しいのに。


 嫌悪の念を隠そうともしない貴族に吐き気がしてくる。

 そもそも、彼は伯爵家の嫡男だ。しかも父親は現王立騎士団の団長という、この国を守る上でなくてはならない存在。

 そんな人の息子を、よくそんな目で見ることができるな。


 そう考えて、気付く。

 そういえば、彼の父にも会ったことがある。グレイヴととてもよく似た面差しではあったが、瞳の色が青だった。緋眼は母親からの遺伝か。


「……貴方がそんな顔をする必要はありませんよ。行きましょう」


 グレイヴは少し切なげな表情を浮かべ、私を促す。


 それに応じて歩き出す一瞬、私はこちらを見てひそひそと何か話す貴族たちを一瞥した。

 その視線に気付いた者たちが一斉に息を呑む。


 ガン飛ばしなら前世で習得済みだ。

 これ以上何か言ったらぶっ潰すからな、と無言の圧力を放って、ふんと顔を背ける。


 これでも私は侯爵令嬢だ。王太子の許婚約者であることと、この目立つ真っ赤な髪のおかげで貴族のほとんどに顔と名前が認知されている。

 グロリア王国でも有数の名門貴族であるセレラトス侯爵家を敵に回す度胸はないようで、皆そそくさと目を逸らして去っていった。


 そんなことを数回繰り返しながら客席へ向かう。

 ジェーンが譲ってくれたチケットは、一等席のペアシートだった。


「……こんないい席、プロディトル伯爵令嬢には御礼をしないといけませんね」


 そう言いながら、グレイヴが私を椅子に座らせる。

 何から何までスマートだ。ゲームの中の彼は、どちらかというとやや粗暴でぶっきらぼう、だけど優しい、みたいなキャラだったと思ったんだけど。


「……スカーレット様?」

「え? あ、ごめんなさい。グレイヴが随分慣れている様子だったから」


 ちょっと棘のあるような言い方になってしまった。

 と思ったが、グレイヴは照れた様子で頬を掻いた。


「必死で勉強したんですよ。貴方に求婚するにあたって……マナーも礼儀も知らないままじゃ、貴方には吊り合いませんから」


 つまり、他の令嬢とのデートで慣れているという訳ではないのか。


「……俺には、今まで婚約の話さえ持ち上がったことはありません。皆、この眼を忌み嫌って避けていきますから。当然、デートだって、これが正真正銘初めてですよ」


 ゲームでは、彼の瞳の色について言及するエピソードはなかった。ファンブックのキャラ設定のページに裏設定として、緋色の瞳であることに劣等感を抱いている、とだけ書かれていた。

 だからファンの間では色々な憶測や考察がされていた。

 まさか、この世界に緋色の瞳が忌避されるという風潮があるだなんて思わなかった。

 学園内には他の国から来た生徒がいたりする関係で、差別は校則でも厳重に禁止されている。だからゲームのシナリオだけでは知りえなかった。


 照れ臭そうにする彼が可愛くて、思わず笑みを零してしまう。


 と、その時、照明が消え、上演が開始されたのだった。

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