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虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 雪途かす
第二章 第二王子
16/24

参:転生者

 昼休みになり、私はシャルロットに声を掛けた。


 私から嫌われているとでも思っていたのか、シャルロットはたたでさえ大きな目を更に見開いて私を見つめてくる。


「少し、話がしたいのだけど、昼食をご一緒しても良いかしら?」

「は、はい! 勿論ですっ!」


 前のめりで頷く彼女を促して食堂に行く。


 食堂は窓口で食べたいものを注文して料理を受け取り、各自好きな席に座って食べるスタイルだ。

 私は注文した料理を受け取って、隅の席を確保した。


 向かいに彼女が腰を下ろしたところで、遮蔽魔法を発動させる。

 これで私たち二人のことは周りから認識されなくなり、大声でなければ会話を聞かれることもない。


「シャルロットさん、貴方以前に、前世の記憶があると仰ったましたね?」

「は、はい」

「その話を、詳しく教えてくれないかしら?」


 私がそう切り出すと、シャルロットは少しだけ戸惑った様子を見せつつも、小さく頷いて話し始めてくれた。


「私、前世はマンガやゲームばっかりで……あ、マンガっていうのは、前世の世界特有の本で、絵がたくさん描かれているものなんですけど……ゲームはテレビゲームっていって、この世界にはないテレビという機械に映像が映し出されて、コントローラーで操作するんですけど……」


 それは知ってる。私も前世では大変お世話になったのだ

 そしてやはり彼女はオタクだったか。


「そのゲームの中に、この世界が舞台になっているものがあったんです。恋愛シミュレーションゲームっていう、男性キャラクターと疑似恋愛をするゲームです。私、シャルロット・プリンシパルは、その主人公でした。コルト殿下や、ベイル様、レイン様、グレイヴ様も登場人物です」

「そのゲームは、最終的にどうなるの? 結末があるのでしょう?」


 私も転生者であるということは悟られたくないので、あえて回りくどい聞き方をする。

 と、彼女は申し訳なさそうに眉を下げた。


「……実は、私はそのゲームについて知っているだけで、プレイをしたことはないんです」

「そうなの?」

「はい……以前、殿方は好きになれないと言ったこと、覚えてらっしゃいますか?」

「ええ、勿論」

「殿方を好きになれない理由は、私の前世が男だったからなんです」


 ごふ、とスープを飲もうとして最大に咽せる。


 シャルロットの前世が男だったとは。

 その可能性は考えていなかった。だが、そうだとすると男を好きになれないというのは納得できる。


「前世の私は男で、妹がいたんです。そのゲームは妹が大好きで、色々聞かされていたので、私はキャラクターとあらすじは知っていて、その中でスカーレット・セレラトスというキャラクターが好きだった、という訳です」

「なるほどね」


 それはそれで納得だ。

 女性向け恋愛シミュレーションゲームでも、一定数男性ファンが付いていたのはスカーレットのキャラクターが一部の男性に受けたからなのだ。


「……実は前世の私には、好きな女性ひとがいたんです」

「うん?」

「とても、強い女性ひとで……スカーレット様を見ていると、その人のことを思い出して……だから思いが募るあまり、あんな失礼なことを……」


 シャルロットが、ごめんなさいと呟きながら頭を下げる。


 待てよ。

 シャルロットは、前世が男で、オタクで、強い女性が好きだったと言ったか。


 妙に嫌な予感が、胸を掠めた。


「その人は、男性相手に殴り合いの喧嘩をしても勝ってしまうくらいで……不良に絡まれていた前世の私を助けてくれたんです」


 嫌な予感が、どんどん大きくなる。


 そうだ。前世の私は、曲がったことが嫌いで、大人しそうな人が不良に絡まれているのを見ると放っておけず、つい助けてしまうことが多かった。

 そして、その中で一人、いやに懐かれて纏わりつかれたっけ。


 そうそれが。


「その人に、私の女王様になってくださいと膝を衝いてお願いしたんですが、断られてしまって……せめて一度でいいから殴って踏んで蔑んでくれとお願いしたんですが、それも駄目で……まぁ、その時の嫌そうな顔はとても美しかったのですが……!」


 なんてことだ。

 シャルロットは、前世で私に土下座して虐めてくれと頼んで来たあの男だったのか。


 愕然とする私に、シャルロットは私がドン引きしていると思ったらしく、慌てて咳ばらいをし出した。


「こほんっ! ええと、まぁ、前世の私はそんな感じでしたが! この世界では既に一度やらかしてスカーレット様にも多大なご迷惑をお掛けしてしまって反省しましたので、もう性癖は出しません。ご安心ください」


 性癖って言っちゃったよ。

 一応、れっきとした男爵令嬢なのに。


「……あまり安心はできない気はするけれど……それより、そのゲームについて知っていることは他にないかしら?」

「……あ、ゲームには続編があるんです」

「続編?」


 それこそ私が聞きたかった話だ。

 聞き返すと、シャルロットは小さく頷く。


「ええ。続編は一作目の一年後の話で、主人公はシャルロットではなく、また新入生としてこの学園にやってきます」

「続編の主人公は、貴方ではないと?」

「ええ。名前まではわからないのですが……攻略キャラもほとんどが入れ替わっているって、妹が話していました」

「そう……ほとんど入れ替わっているってことは、継続して攻略キャラになっている人もいるってこと?」

「はい。コルト殿下とジャック先生は、人気のあるキャラだったからか、継続して攻略キャラとして登場するらしいです」

「コルト殿下が……? その続編の主人公が貴方でないなら、続編の時間軸では貴方は誰と結ばれたことになっているの?」

「続編の設定では、シャルロットはベイル様と結ばれていて、コルト殿下はスカーレット様との婚約を継続しているそうです。スカーレット様が再登場するって聞いて、私も胸が躍りました」


 つまり、現時点で続編の前提となる設定条件を全て逸脱していることになる。

 シャルロットが今後ベイルと結ばれる可能性はゼロとまではいかないが、現時点ではほぼないし、私とコルト殿下の婚約は既に白紙になっている。


「……つまり、その続編では、私は再び悪役として登場するということですね?」

「はい……そういうことになります」


 私を前にはっきりと悪役と言うのは気が引けるらしく、シャルロットが消え入りそうな声で答える。


「……そう。ありがとう。参考にさせてもらうわ」


 そう話を切り上げて、私は遮蔽魔法を解除し、食事を再開することにした。

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