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虐めたくない転生悪役令嬢と虐めてほしいヒロインの話  作者: 雪途かす
第二章 第二王子
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壱:不穏の影

 ジャック先生について行った先は、生徒指導室だった。

 優等生だった私が中に入ったのは初めてだ。


「……あの、私、もしかして何か……」


 とんでもないことでもやらかしてしまったのだろうか、と不安になって呟くと、先生は首を横に振りつつ、椅子を勧めてくれた。


「いいや。スカーレット嬢はとても模範的な生徒だよ。ここへ呼んだのは、他の生徒に聞かれたくないからというだけだ」


 言うや、先生はパチンと指を鳴らした。

 遮蔽魔法が発動したらしく、外の音が聞こえなくなる。つまり、部屋の中での会話も外へ漏れないようになったということだ。


「担当直入に話そう。ミュラーとフランクが自供したそうだ」

「……そうですか」


 先日の魔物脱走事件による、私の暗殺未遂。

 ゲームの攻略キャラである神聖学科で神官候補のミュラーと、資産家の息子で商業科の生徒であるフランクが逮捕された。

 二人は第二王子マリクス殿下を次期国王にと推挙する派閥に取り込まれていて、大神官の地位と王族御用達の称号欲しさに私の暗殺計画に乗ったと言っていた。


 そこまでは、学園内で捕らえた時点で自ら白状していたはずだが、わざわざ先生が私を呼びつけて自供したという報告をしてきたということは、また別の情報を引き出せたということだろうか。


「まだ、学園内に第二王子派が潜んでいるらしい」

「……え」


 つまり、また私が狙われるのだろうか。


 いや、それはない。

 前回私が狙われたのは、王太子の婚約者だったからだ。

 他の令嬢と恋仲になって婚約者の暗殺を企てたという罪をコルト殿下になすりつけ、王太子の座から引き摺り下ろす計画だったのだ。


 しかし、今現在私とコルト殿下の婚約は破棄されており、私を害したところで第二王子に利はない。

 まぁ、再び私の暗殺未遂の罪をコルト殿下にかぶせることができれば、コルト殿下から王位継承権を剥奪することは可能になるかもしれないが、一度露見した計画をもう一度遂行しようとするほど、第二王子派も愚かではないだろう。


「勿論、このことは殿下もご存知だ。君に伝えるように仰ったのも殿下なんだ」

「そうですか……」


 元婚約者である私に無用な接触はしないように、という殿下なりの配慮だろう。


 クラスメイトではあるので、毎日顔は合わせているが挨拶以外に会話をすることはなくなった。

 殿下のことを嫌いになった訳ではないが、婚約破棄をした以上彼と親しくするのは、色々な面でよろしくないからだ。


「……誰なのかはまだわかっていないのですか?」

「ああ。二人とも、相当の弱みを握らているのか、相手の正体については知らないの一点張りだそうだ」

「それでも、学園に第二王子派がいるということだけは白状したのですね?」

「ああ……そのことから、相手は伯爵位以上の高位貴族である可能性が高いとみている」

「……ミュラーとフランクを脅せるくらいなら、そうでしょうね……」

 

 ミュラー・サチェルドスの家は代々神官を輩出している家柄で爵位は賜っていないが、父親は現神官、王国内では子爵家と同等の扱いを受けている。


 フランク・メルカトラは伯爵令息だ。

 彼の父、メルカトラ伯爵は元々平民だったが、商才があって莫大な富を築き、地方の活性化に貢献したことと、数年前の飢饉の際に備蓄していた食料を提供したという功績が評価されて伯爵位になった成り上がり。


 彼らの父らは現状に満足しておらず、更に欲深く、サチェルドス神官は大神官の座を、メルカトラ伯爵は王室御用達の栄誉を欲して、息子達を私の暗殺計画の駒にした。

 そう思っていたが、もしかしたら最初から脅されていたのかもしれない。


 そして、もし脅されていたとすれば、その黒幕は伯爵家以上の権力をもっているということになる。


 何かしらの弱みを握っていても、弱小貴族や平民だったら、まずサチェルドス、メルカトラの両家には歯が立たないからだ。

 脅しのネタが、国が動くレベルの重罪でもない限り、両家から報復されて終わりである。

 両家がそれほどの重罪を過去に犯した可能性もなくはないが、それよりも、相手が両家と同等か、それ以上に権力を持った家柄である可能性の方が高いだろう。


「……それなりの家柄であることを考慮すると、容疑者は十名に絞られる」

「十名……」

「ああ、あくまでも、家柄のみの話だ。当然、第二王子派がその中にいるとも限らない」


 そりゃそうだ。

 だが、一応聞いておくにこしたことはない。


 すると、先生は一枚の紙を私に差し出した。


 そこには、ゲームの攻略対象である三人、公爵家ベイル・ドゥーラン、伯爵家レイン・ジーニオス、伯爵家グレイヴ・エクエス、を含めた十人の名前が記載されていた。


「家柄だけで言えば、スカーレット嬢の家も該当するガ、先の事件の被害者であるスカーレット嬢は、当然容疑者から除外される」

「それをいえば、ジャック先生もそうですよね」

「ああ。私の生家は侯爵家だからな。家柄だけで言えば該当する」


 ジャック先生の御実家はマジスタ侯爵家だ。

 

 マジスタ侯爵家は、代々王室付き魔法使いを多く輩出する名門貴族であり、実際に現王室付き魔法使いはジャック先生の兄君だそうだ。


 先生は先日の事件の時も解決のために動いていた。

 国王に忠誠を誓うマジスタ侯爵家が第二王子派だとも考え難いし、流石にジャック先生は容疑者からは外れるだろう。


 それをいうと、ベイルもレインもグレイヴも、先の事件の時には解決のために尽力していた。容疑者から外しても良い気はするが、自分の正体を隠すためにそう振舞っていたという可能性もある。


 勿論、私個人としてはグレイヴを信じたいのだけど。


「……とにかく、誰が第二王子派なのか判明するまでは、身の回りのことに注意するように」

「わかりました」


 話は以上だ、と言われたので、私は一礼して生徒指導室を後にしたのだった。


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