序:波乱
私と、この国、グロリア王国の王太子コルト殿下との婚約破棄が成立してから、数日が経った。
私は変わらず平穏な学園生活を送っていたが、一つ以前と変わったことがある。
「スカーレット様、どうぞ、お手を」
授業終了と共に恭しく私に手を差し出してくるのは、クラスメイトの男子生徒数人。
私が王太子妃候補から外れたことで、てっきり周りは腫物扱いをしてくるだろうと思っていたが、その予想は大きく外れた。
そもそも婚約破棄は全面的にコルト殿下に非があることが認められている。
私に落ち度がない以上、王妃教育が完了している完璧な淑女である侯爵令嬢を手に入れたい貴族は、掃いて捨てる程いる、ということらしい。
「ありがとうございます。しかし、急ぎますので、失礼いたします」
私はやんわりと断って、級友であるジェーンを伴って教室を後にした。
「……スカーレット様、すごい人気ですわね。まぁ、こうなることは予想しておりましたけれど」
ジェーンが困ったような、はたまた呆れたような顔で頬に手を当てた。
「そう、なの?」
私はこんな状態、微塵も想像しなかった。
寧ろ、王太子との婚約を破棄した、もしくは破棄されたという曰く付きで遠巻きにされるだろうとさえ思っていたのに。
「ええ。それはもう、スカーレット様といえば、その美貌はさることながら、絵に描いたような完璧な淑女として有名ですもの。コルト殿下との婚約が白紙になった以上、スカーレット様と結婚したい殿方は、それこそ星の数ほどいますわよ」
笑顔で私を褒めてくれるジェーンにこそばゆい心地になりつつ、私は寮へ戻るために昇降口へ向かう。
と、その時、背後から声を掛けられた。
「スカーレット嬢」
落ち着いた大人の声に振り返ると、そこには新任教師のジャック先生が立っていた。
「ジャック先生、何か御用でしょうか?」
「ああ、話しがあるんだが、少し良いだろうか?」
先生にそう言われては、断る理由はない。
私はジェーンに別れを告げて、先生について行くことにした。
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