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7.一人旅

冷え込む夜、ヴァイオレットは屋敷からだいぶ離れた森の奥で足を止めた。

まだ秋とはいえ、日本より緯度が高いらしく、朝晩の冷え込みは結構なものだ。

寒さが身に染みるが、この冷たい空気が自由になった実感をより強く感じさせた。


周囲の安全を確認し、ヴァイオレットは【創造】で例の小さな物置小屋を作り出した。

木の板で組み立てられた簡素な構造だが、外気を遮るには十分だ。

中に入ると、暖かさを取り戻すために椅子とテーブルを追加で【創造】する。


「これでよし」


黒パンと共に温かいスープを用意した。

薄いスープだが、コンソメの香りが鼻をくすぐる。

そして何より温かいまま食べられるのがうれしい。

ヴァイオレットはスプーンを口に運び、ゆっくりと体を温めながら考え始めた。


「そういえばグレンダリング公爵って、私のこと覚えてるのかな?」


ヴァイオレットは自問する。

公爵家で過ごした日々を振り返ると、彼女のような下働きの使用人が公爵の目に留まる機会などないに等しい。

ましてやヴァイオレットは、直接公爵と顔を合わせたことなど一度もなかった。

彼女自身が公爵を目にしたのも、屋敷の遠くからちらりと見ただけだ。

髪も眉もまつ毛も金髪なので遠めだとパーツがぼやけて「酷薄そうなオッサン」という印象だった。

今までのヴァイオレットはただの下女だった。

ただの、と言うには働きすぎていた気がしないでもないが、裕福な公爵家にとっては、なりふり構わず連れ戻すほどではないはずだ。

問題は、ヴァイオレットの【創造】というスキルの存在が知られてしまった場合だ。

あの公爵は人にはあまり興味がないが、能力や価値には執着したはず。


「ゲームでの公爵は執念深い性格だったからなあ……」


彼がこのスキルの価値を知れば、執念で追いかけてきて、再び屋敷に戻される可能性が高い。

そして再び閉じ込められ、監視下に置かれるだろう。そんな未来は耐えられない。


「安全な場所に行かなきゃ……」


ヴァイオレットは次の目的地を「エルムストン」に決めた。

そこはリンドウィッチ公爵領に属し、グレンダリング公爵領からヴェルトリッシュ伯爵領ともうひとつ子爵領をはさんだ、日本でいうと市にあたる。

距離的にもそれなりに離れており、何より別の「公爵」が治める地なので、グレンダリング公爵家の影響力が及ぶ心配は少ない。


「ここからエルムストンまでは……歩いて7日ってところかな」


ゲーム内で得た知識を頼りに地図を思い描きながら、道中で必要になる物資を頭の中でリストアップしていく。

水筒に十分な量の水を補充し、保存がきく干し肉と黒パンを【創造】する。

地図がないのが不安だが、周囲の景色や方角を頼りに進むしかない。


ヴァイオレットはスープを飲み干し、少し落ち着きを取り戻した。

次に考えたのは、自立した生活を送るための方法だった。


「冒険者になってみるのもいいかも」


実は、異世界らしいスキルを手に入れてからあこがれていた。

普通の仕事を選ぶのはもったいない。

冒険者なら、【創造】というスキルがどこまで通用するか試しながら生計を立てられる。

特にゲームで見たような「ファイヤーアロー」や「ストーンバレット」もどきを使えるようになれば、魔物との戦いでも大きな力になるだろう。

それくらいなら魔法適正のあるスキルを持たない人でも修練すれば身に付けられることも多いと聞く。


「ギルドに登録するとき、スキルのことをどう説明しようか……」


迷った末、「魔法使い」という肩書を使うのが妥当だと結論付けた。

魔法使いならスキルを説明する必要もなく、冒険者として受け入れられるだろう。


スープを飲み終えたヴァイオレットは、椅子にもたれながら思考を巡らせた。

ゲーム「トワイライトの瞳」に登場するキャラクターたちのことを思い出す。


ヴァイオレットの弟である、ふわふわの金髪に紫の目のティリアン・グレンダリング公爵令息。

波打つイエローゴールドの長髪が特徴的だった、ザンザス・ウィンスローン第三王子。

白銀の髪を持ち、氷の男と呼ばれていたアルバス・シルバーホロウ公爵令息。

騎士団長の息子で、燃えるような赤い髪のルーファス・ドレイムーア侯爵令息。

腹黒そうな眼鏡で、緑の髪を七三に分けたヴィリオ・オークンデイル侯爵令息。確か、宰相の息子だった。


ラベンダーがピンクの髪という時点で察せるものの、この世界にはたいそうカラフルな髪や目を持つ人がいるらしい。

きらびやかな色は、持ち合わせる能力の高さと比例することも多く、貴族に好まれるのだとか。

そういえば下男下女はブルネットや茶色い目が多かった。

ゲームの絵柄では違和感がなかったが、現実に存在するとなると、どう感じるのかちょっと興味はある。


「興味はあるけど、厄介事に巻き込まれるのはごめんだわ」


ヴァイオレットは再び心の中で彼らを「要注意人物」として認識し直した。


夜が更け、気温がさらに下がってきた。

ヴァイオレットは小屋の中で眠る準備を整える。

焚火はしないが、【創造】した布団の山にくるまれば十分暖かい。

欲を言えば毛布が欲しいところだ。


「明日はもっと遠くへ進もう」


ヴァイオレットは、そんな決意を抱きながら目を閉じた。

小屋の中は静寂に包まれ、外の風の音だけが響いている。新しい一日が彼女を待っていた。


お読みいただきありがとうございます!

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