5.レベルアップ
ヴァイオレットはレベル2に上がった。
それはベッドの上で【ステータス】を確認していて気づいたことだ。
昨夜、こっそり【創造】を繰り返していた結果、スキルの熟練度が上がり、画面には新たな表示が追加されていた。
名前:ヴァイオレット・グレンダリング
レベル:2
HP:22 / 22
MP:8 / 8
STR:8
CON:7
INT:9
DEX:6
LUC:4
スキル:【創造】
「レベルが上がると能力が向上するのね……」
腕を軽く振ってみたり、立ち上がったりして感覚を確かめると、確かに体が軽くなっている。
何より、MPが8まで増えているのが嬉しい。
これで試せる範囲が広がる。
STR、CON、INT、DEX、LUCの項目はそれぞれ3ずつ上がっているようだった。
レベルアップで一律3ずつ上がる仕組みとは考えにくいので、そのうち上がりやすい項目や上がりにくい項目が出てきたりするのだろうか。こちらも要検証だ。
まだ創造できるものには限りがあるが、昨夜の経験である程度法則がわかってきた。
例えば、自分がこの世界で見たり触れたりしたことのあるものなら、比較的簡単に作れる。
逆に、日本で食べていたチョコレートや、機械のような複雑なものはうまくいかない。
「次はもっと大きなものに挑戦したいなあ。そうすれば逃亡に必要な物も用意できるはず」
ヴァイオレットは逃亡計画を加速させるため、今夜も【創造】を試すことに決めた。
日中、彼女はいつも通り洗濯の仕事に追われた。
シーツの山に埋もれながら、逃亡に使うためのもの――靴や鞄、それから食料――を頭の中でリストアップする。
だが、その計画を練る時間を奪うような出来事が起きた。
洗濯場で干したシーツを取り込んでいると、男の使用人がいやらしい目つきで彼女をじっと見ていたのだ。
「……なんだか、視線が刺さる」
ヴァイオレットはさりげなく視線の主を見返した。
やせ細った受け口の男で、以前から仕事中に軽口を叩いてくることがあった。
だが、今日の目線はやたらねっとりとしており、今までとは異質だった。
「……気持ち悪い」
血の気が引くのを感じながら、その場をやり過ごす。
周囲にいる他の使用人たちもその男の態度に気づいた様子だったが、見て見ぬふりをしている。
(……娼館に売られるのだけはゴメンだな)
ヴァイオレットは以前耳にした噂を思い出す。
年頃の娘が娼館に売られたという話も聞いたことがある。
その記憶が真実味を帯び、彼女の胸に逃亡への強い動機を与えた。
夜が訪れ、ヴァイオレットは静かに屋敷を抜け出した。
向かったのは庭師が使っている小屋だ。
昼間、男たちの視線に晒されながらも観察しておいた場所だった。
小屋の扉をそっと開けると、中には簡素な家具や道具が並んでいる。
「この小屋の構造を覚えれば、創造で複製できるかもしれない」
ヴァイオレットは小屋の隅々を観察し、その作りを頭に叩き込んだ。
柱や壁、天井の形状、収納箱の配置などを注意深く確認する。
再び屋敷に戻り、使用人たちが寝静まったのを見計らって森へ向かった。
「さて、試してみましょう」
彼女は森の中、周囲に人がいないことを確認してから【創造】を唱えた。
頭の中で庭師の小屋を思い描き、集中する。
次の瞬間、目の前に木製の簡素な小屋が現れた。
「やった……できた!」
小屋は庭師のものとそっくりで、中に入ると暖かみすら感じる。
残念ながら収納箱や小物までは再現されなかったが、十分な成果といえる。
数日であれば小屋さえ発見されないかもしれない。
私物を置く場所すらないヴァイオレットは、ここを逃亡準備の拠点にすることに決めた。
彼女はまず鞄を創造した。
「逃亡には、荷物を入れるための鞄が必要よね」
庭師の小屋にあったずた袋だが、ヴァイオレットの持ち物をまとめるには十分なサイズだ。
鞄を小屋の隅に置き、さらに庭師の小屋にあった木の器や水筒を試してみた。
【創造】
次々と器や水筒が現れる。
試しに水筒に水を創造してみると、うまく中に注ぐことができた。
「これで当面の飲み水には困らないわね」
満足した彼女は、次に庭師のブーツを試すことにした。
今履いている靴は履き口が浅く、逃亡には向かない。
「少し大きいけど……靴下を重ね履きすればなんとかなるわね」
ヴァイオレットは新しいブーツに履き替え、感触を確かめた。
少し大きいものの、以前の靴より遥かに頑丈そうだ。
「もう少しレベルが上がれば、微調整もできるかもしれないけど……今はこれで十分」
彼女はそう自分を納得させ、小屋を後にした。
逃亡計画は着実に進んでいる。
この夜の実験と準備は、ヴァイオレットにとって成功だった。
次はさらに必要な物資を揃え、周囲に気づかれないように動かなければならない。
「あと二週間……その間に準備を完璧にして、ここを抜け出す!」
ヴァイオレットの胸には、新たな決意とほんの少しの希望が灯っていた。
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