4.初めてのスキル使用⭐︎
翌朝、洗濯場で石鹸の匂いに包まれながら、私はシーツの山に隠れるようにして腰を下ろした。
日差しが窓から差し込む中、他の使用人たちは忙しなく動き回っている。
シーツを置きに来た使用人が去り、もう一人は物干しに行ったので、今は誰もこちらに注意を払わない。
「……よし、今がチャンス。」
シーツの山の間で身をかがめ、念のため一枚かぶっておく。
人目を避けると、私は静かに右手を握りしめた。
心の中で【創造】と唱えると、体の中心から温かいものがじんわりと湧き上がる感覚がした。
目の前に現れたのは、ゆうべ食べた粗末な黒パンだ。
「本当に出た……!」
感激と安堵が入り混じる。
昨日、聖杯に触れた時に得たスキルが本物だと証明された。それでも、実際に使ってみるまで不安だった。目の前のパンに震える手を伸ばし、そっとつかむ。
「……硬い。」
試しにひとかじりすると、口内がもそもそする。
だが、空腹には勝てない。
私は夢中でそれを食べ進めた。
黒パンを食べ終えると、念のためステータス画面を確認する。
MPの値が1減っていた。
名前:ヴァイオレット・グレンダリング
職業:使用人
レベル:1
スキル:【創造】
HP:20 / 20
MP:4 / 5
STR:5
CON:4
INT:6
DEX:3
LUC:1
「1回使うとMPが1減るのね……。」
そうつぶやき、少し考える。
まだ余裕があるなら、もう少し試したい。
次に何を創造するか思案し、直感的に思い浮かんだのは――肉。
「……こんがり焼けたソーセージ!」
再び【創造】と唱える。
すると、目の前に湯気の立つソーセージが現れた。
肉の香ばしい香りに、胃がぎゅるると鳴る。
何も考えずに手づかみで掴むと、私は夢中でそれを貪り食った。
「……これ、幸せ……!」
しばらく肉を食べていなかった体が、温かさと栄養を歓迎しているのがわかる。
心が満たされ、疲労感が少し和らいだ。
「次は……。」
思い立ち、もう一度スキルを試そうとする。
今度は日本で食べたことのある、あの甘いチョコレートだ。
「……【創造】!」
だが、何も起こらなかった。
どうやらこのスキルで作れるのは、この世界でヴァイオレットが実際に食べたことのあるものに限られるようだ。
名前:ヴァイオレット・グレンダリング
職業:使用人
レベル:1
スキル:【創造】
HP:20 / 20
MP:3/ 5
STR:5
CON:4
INT:6
DEX:3
LUC:1
「うーん、残念。」
それでも試した甲斐はあった。
何が可能で何が不可能かを少しずつ把握することが重要だ。
それに、失敗してもMPが減らなかったのは嬉しい。
食料以外のもの、たとえば服や小物を試してみたいが、日中はさすがに人目があって落ち着いて実験できそうにない。
私はシーツから抜け出し、洗濯の作業に戻ることにした。
黒パンとソーセージを食べただけで、体が暖かくなり、気分がぐっと上向いている。
夜が訪れた。
使用人たちが寝静まり、屋敷が静寂に包まれる頃、私は薄暗い自室でベッドの上に座っていた。
ここは唯一、心置きなくスキルを試せる時間と場所だ。
昼間、他の使用人から聞いた噂によれば、聖杯の儀までの残り期間はあと一か月。
その間に十分な準備を整え、この屋敷を出る計画を立てなければならない。
どうやら、十分な食事がとれ、時間も経過したため、MPは1回復したようだった。
「まずは食べ物以外もできるか試してみよう。」
慎重に、隣で寝ているマギーの洗い替え用の服に目をつけた。
ヴァイオレットが普段着ている服よりはマシなものだ。
ちなみにこの世界ではメイド服は存在していないらしいので、白いエプロンにぼろいワンピースを着ている。
あれはあれでちょっと憧れたんだけどな、と思いながら、私はマギーの服を手繰り寄せ、心の中で【創造】と唱えた。
目の前に同じ服が現れる。粗末ではあるが、少なくとも穴は開いていない。
「よし、これなら前掛けで隠せば服が変わったとはバレないはず。」
次に、靴を試す。
ヴァイオレットのものは穴だらけだったが、マギーの靴は多少なりともマシだ。
サイズは少しだけ違うが誤差の範囲内。
こちらも同じように【創造】を試し、予想通り、使い物になる靴が手に入った。
薄い掛け布団も試してみる。
これも【創造】で増やし、寒さ対策に少しでも役立てようと考えた。
「……さすがに疲れた。」
スキルを連続して使ったせいか、MPが尽きてきたようで頭がクラクラする。
ステータス画面を確認すると、MPが0に近づいている。
名前:ヴァイオレット・グレンダリング
職業:使用人
レベル:1
スキル:なし
HP:20 / 20
MP:1/ 5
STR:5
CON:4
INT:6
DEX:3
LUC:1
私は布団に潜り込み、目を閉じた。
スキルを得てまだ1日だが、ワクワクする気持ちが止まらない。
この力を使えば、これまでの不自由な生活を少しずつ改善し、いずれこの屋敷を出ていくことができる。
限られた時間でどこまでやれるか――挑戦は始まったばかりだ。
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