第九十七話 報酬
「信希さん、個人的にもお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
「まぁ、素直に受け取っておこうかな。あんたが食わせ者だということは理解できたしな」
「ははっ、勘弁してください。あなたなら上手に立ち回ってくれると思っていましたから」
「よく言うよ…。まさか貴族連中を吊り上げることになるなんて思いもしなかったし…」
「あれは本当に見事でした。獣人たちの問題は根が深く、我々だけではずっと対処できずにいたのです。お恥ずかしい話ですが…」
「まぁ、獣人たちのためならしょうがないよな。これまで苦しんだ人たちの報いを受けさせてやってくれ」
「もちろんです」
「だからこそ、あんな質問をしていたんだな?」
「ええ、失礼ながら信希さんを試させてもらいました」
「信希?何の話ですか…?」
「ああ、この王様とはねヨーファとカフィンと出会ったときに、一度出会って話してたんだ」
「えっ…?」
「いやぁ、信希さんが孤児の獣人たちを保護しようとしている時には驚きましたから、確認の意味も兼ねてお話を少々」
「そう。この人はオレがこの国に入っていることにすら気付いてたんだろうし。優秀な隠密に加え、長けた情報戦もできる。これでこそ、本当の王様って感じだよな」
「いやはや手厳しい。数々の無礼もお許し願いたく」
「いや、気にしないでくれ。オレを試すためにはどれも必要なことだ」
「えっ、えっ…。つまり信希は、それも込みでこの交渉をしていたんですか!?」
「いや、王様がルーファーだって知らなかったよ。だから、会場に入った時にはびっくりしたんだ」
「ほほう。信希がこれだけ人の事を褒めるとは珍しいな」
「それは私も思っていた。一国の王という感じがするな」
「そう言っていただけると幸いです」
「あー。ルーファー?それで報酬ってどういうこと?」
「我々からの感謝を受け取ってください」
「ふむ…。何をくれるの?」
「信希さんが一番欲しいのは、金銭でお間違いないと思われますがいかがでしょうか?」
「まぁ、そうだな。他に必要なものはこれと言ってないが…」
「では金貨でご用意しますね」
「ああ。それから、オレからの感謝も受け取ってくれ。これは獣人たちを大切に思ってくれていた、あんたへのお礼と言ってもいい」
「それならば遠慮なく、何をいただけるのでしょうか」
「そうだなぁ…。イレーナ何か良い物があるかな?」
「そうですね…。あっ、魔法具などはいかがでしょうか?」
「魔法具ですか?なにか良い物をお持ちになっているとか?」
「あー。オレは魔法具を作れるんだよね、欲しい物とか必要なものがあれば作るよ」
「魔法具ですか…」
「急に言われても思いつかないだろうから、考えた後でもいいぞ?それか今の手持ちだったら見せられるけど」
「お見せいただいても?」
オレは自分の持っている魔法具を、テーブルの上に並べていく。
「鑑定の魔法具、異空間収納、発動場所記憶型の転移の魔法具、魔力を詰めた水晶、認識阻害の魔法具に…まぁ、今の手持ちはこんな感じだな」
「ちょちょ!鑑定!?転移!?とんでもない言葉が聞こえた気がするのですが!!」
ようやくこの王様に一発喰らわせてやったな。満足した。
「ああ、魔法具は使える?鑑定の魔法具を使えば、魔法具の事も調べられるから使ってみてくれ」
「ええ、使えます──」
ルーファーへと鑑定の魔法具を渡し、鑑定するように促していく。
「なんならオレの事も鑑定してくれていいぞ」
「……」
鑑定を使っているルーファーの表情が、どんどん苦しそうになっていく。
「大丈夫?」
「ま、まっ…。信希様!私はこれまで何という失礼をっ!!」
「やめてくれよー。この世界に来て初めてできそうな友達候補だったのにぃ」
「ふふっ、信希の事を知れば普通はこうなりますって」
「それもそうじゃな。信希は友達が欲しかったのか」
「ははっ、先ほどまでの王の威厳は完全になくなってしまったな」
嬉しいような悲しいような、そんな気分に包まれているとルーファーは冷静さを取り戻したのか、話を出来るようになっているみたいだった。
「こ、これを作ることが出来ると…?」
「そうだよ?これは全部オレが作ったものだ。魔力の関係もあるから、これだけを一度に作ることは出来ないけどね」
「なんと…。で、では大臣と一度相談をして──」
「いや、それはダメだ。ルーファー、あんたがここで今決めたのなら魔法具を作るよ」
「理由を窺っても…?」
「そうだな。この力を知っている人間を出来るだけ減らしておきたい。オレからの信頼の証と思ってくれていい」
自分の言葉と、ルーファーを真っすぐに見つめることで、真剣に言っていることを伝えていく。
それを見て冷静になったのか、見て分かるくらいに呼吸を整えている。
「かしこまりました。では、鑑定の魔法具をいただきたく」
「分かった。一つでいいの?」
「複数頂けるのですか…?」
「あんただけが使ってくれるならいくつでもいいよ」
「では、鑑定と居空間収納と認識阻害をお願いします」
「ああ。分かったよ。異空間収納はどれくらいの大きさがいい?このテーブルの上の広さで天井くらいまでの大きさだったら、すぐに用意できるけど」
幅は二メートル、長さは五メートルくらいのテーブルを使って空間をイメージしてもらう。
「そんなにデカいんですか!?」
「いらない?」
「で、では、それでお願いします!」
「分かった。すぐに作るよ」
今日は疲れているけど、魔力は使っていない。だったらこの三つくらいなら問題なく作ることが出来るだろう。最悪の場合、転移の魔法具を作るために準備していた魔力を引き出そう。
すぐに空の水晶を取り出し、これまで通りに魔法具を作っていく。
「ほい、できたよ」
「もうですか!?」
驚きっぱなしのルーファーを余所に、出来上がった魔法具を手渡していく。
「ありがとうございます。この魔法具に対するお金も金貨で──」
「いや、それはやめてくれ。これは感謝と言っても、孤児院の運営に必要な金銭も含めて頼んでることでもあるんだ」
「な、なるほど…」
「それに、この魔法具に値段をつけるとしたら、とんでもないことになるだろ?」
「そ、それもそうですね…」
「もっと便利なやつとか作れたら持ってくるから、運営に必要なお金とかはお願いしようかな、と思ってるんだけど大丈夫そうかな?」
「そうですね。そこまで大きな金額なることは無いでしょうが、最終的には孤児院で自給自足のような形をとれることを目標にしたいと思います」
「うん。それがいいね」
とりあえず必要なことはこのくらいだろうか。
確認しておきたいことなんかが無いか、思い出してみるけどこれと言って思い浮かぶことは無かった。
「他に打ち合わせておくことがあるかな?なかったらこれで失礼するよ」
「そうですね…。無いかと思います」
「そうだ。ヨーファとカフィン、前に保護した子供たちはこっちの準備が出来そうな明後日くらいに連れてくることにするよ。あの子たちにもそう伝えておくから」
「かしこまりました。こちらも手早く準備を済ませておきますので、いつでもお越しいただいて構いません。そうですね…、メイドのユフィーナも必要でしたらお使いいただいても構いませんが…。準備など大変でしょうし」
「ええっ?この城のメイドなんだろ?流石に迷惑になるしいいよ?確かにいてくれたら便利…?だったけど…」
「ははっ、お気持ちとても分かります。彼女たちが居てくれると私生活が一気に楽になりますからね。ユフィーナは少し特別な立ち位置ですので、お連れいただいても構いませんよ」
「ど、どうしよっか…」
思ってもいなかったルーファーの言葉に動揺してしまい、ついイレーナたちの顔を見比べてしまった。
「…はぁ。信希が必要だと思ったのならお願いしたらどうですか?」
「やれやれ…これ以上、女子が増えてライバルが増えるのは困るんだがなぁ」
「仲良くなれるかは分からないからな?ミィズの言うことも分かる」
「何を言っているの…?そんなつもりじゃないし…」
「はっはっは。信希さんはモテモテというやつですねっ」
この状況を見ながらケタケタと笑っているルーファーは、少しだけ性格が悪いのかもしれないと思ってしまった。
「どうしたらいいんだ…」
「ユフィーナ、君はどうしたいかな?」
入口の前で待機していたと思っていたユフィは、いつの間にかオレたちの背後に立っていた。気配を気にしていなかったとは言え、気づけなかったのにとても違和感を感じた。
「信希様はとてもお優しいお方ですので、主としてお仕えしても良いと思っています」
「そ、そこまで…?」
「やれやれ、本当の主人を前にそんなことを言えるのは、君くらいのものだよ…。まぁ、彼女もこう言っていますし、このまま連れて帰ってください。もちろん帰りも馬車でお送りしますので」
そんな感じで、メイドのユフィーナを預かることになってしまった…。
──。
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