第八十九話 ロマンな食事
献立を考えるのが面倒くさい…?そんなときはロマンに溢れたものを作りましょう。
「少し手間だけど、全員分の鉄板を準備するかぁ」
「どこにあるのでしょうか?」
「ああ、今から作るんだよ」
ユフィはこのキッチンやリビングを見ても、驚く素振りすら見せないのだから大したものだ。
間違いなく大物になるか、すでにこういった特殊な状況に慣れているのが分かる。
「作る…?」
鉄板の上で焼きながら食べていたサイコロステーキなんてのは、子供にとってはご馳走で、自分もわくわくした経験があるからヨーファとカフィンにも食べさせてあげたくなった。
いつまで一緒に居ることが出来るか分からないし、出来ることなら楽しい思い出を作ってあげたいからな。
一人分の鉄板と、鉄板の下敷きに木製のプレートを創造していく。
「すごいですね…」
「くれぐれも内密にね…?」
「かしこまりました。あれ、一人分多いような気がいたしますが…」
「十二人分だよ?もちろんユフィの分も作るよ」
「わ、私の分は必要ありません…」
「まぁまぁ、ユフィが食べてないのにオレたちだけ食べてたら、オレが落ち着かないから」
「かしこまりました…、ありがとうございます」
「よーし、じゃあ付け合わせの下準備からするか」
遠慮がちなのは彼女がメイドだからだろうか、それともそういう教育をされているのかと考えていると、ユフィが近くに寄ってくる。
「どうした?」
「大切なことを忘れておりましたので、今夜、伽が必要であれば申し付けください。準備しておきますので──」
伽…、伽って言うとあれか…?つまりそういうこと?
流石にいきなりあった女性と──。
「ッ!!」
オレは見逃さなかった。そう、あれは確実にオレたちの会話が聞こえている動きだった。
イレーナのかわいいケモミミがこちらを向いている!特に気にしていたわけではないが、いつもと違ったと言えばいいだろうか…。
ぱたたっとユフィの言葉に反応して、オレとユフィの会話を聞き取るために全力でケモミミをこちらに向けている様に、愛おしさすら感じてくるのだから困ったものだ。
「信希様…?」
「ユフィーナ、とてもステキなお誘いだけど、オレの本懐は合歓綢繆にあるんだ。ユフィが魅力的な女性と前置きしたうえで、お断りさせてもらうよ」
「……」
「ユフィ…?」
あまりにも飾りすぎただろうか…?こういった場面は人生で初めてだったから動揺が無いと言えばウソになる…。しかし、これは漫画やアニメを読んだり見ていたりしたおかげで得た知識でもある。本当に感謝しています。
「こんなにステキな断り方をされたのは初めてでした。これだけの女性と一緒に居られるのですから当然ですね。配慮が至らず、申し訳ございません」
「ん…。みんなってわけじゃないけど…いやこのくらいにしておこう?」
「かしこまりました」
彼女の不意に向けられた笑顔に、思わずドキッとしてしまうのは無理もないだろう…。
イレーナのケモミミが気になってそちらを確認してみるが、彼女は再びオセロに集中しているみたいだった。
「付け合わせは、彩りが良くなるようにしたいな」
「こちらの野菜などはいかがでしょうか?」
「うん、それでいいね。ボイルだけで食べられる?肉のソースは同じ鉄板の上に乗せるから付けても食べられるけど」
「ボイルだけですと、素材の味だけですが食べられますよ」
オレの質問にもちゃんと答えてくれる。メイドっていうのはこんなにも多才なのか…?
「三種類くらいにしようか。子供でも食べやすい野菜がいいね」
「なるほど、ではこちらで」
元居た世界にはなかったような野菜だが、ニンジンやジャガイモやブロッコリーのような見た目だ。
「苦そうだけど大丈夫…?」
「お任せください、出来るだけ苦みを抑えるようにする方法で仕上げます」
「わかった。そっちは任せるね。じゃあ、オレは肉を切るか。鉄板も熱しておこう」
「かしこまりました」
先ほどの会話で、少しだけユフィの堅苦しい感じが抜けたような印象を受けた。
気のせいかと思ったが、明らかに横に立つ距離が近づいている…。キッチンに立っているからか…?た、多分気のせいだろ…。
「この肉おいしそうだな」
「そうですね。良い部位なので、焼くだけのシンプルな料理がとても相性が良いかと。信希様のチョイスは完璧です」
それもたまたまなんだけどね…。
それからは何事もなく、手早く食事の準備をすることが出来た。
──。
「はーい。みんな食事が出来たから食べる準備してねー」
「「はーい」」
肉を焼き始めたあたりから、シアンにレストと子供たち二人はキッチンの対面で肉にくぎ付けになっていた。
部屋中にいい匂いが充満して、オレも自分で料理しているのに食欲を抑えるのに必死だった。
それぞれの鉄板に肉を取り分けていき、配膳をユフィにも手伝ってもらう。
「鉄板が熱いから気を付けてね」
「「はーい」」
「おいしそーっ!」
「ごはんっ!ごはんっ!」
みんなで一緒に食事をとる。
なんだか、ずっとこんな感じで生活していければ幸せだなと思ってしまった。
イ、イレーナがこちらをジト目で見つめている…。さっきのアレを気にしているんだろうか…。こ、断ったんだけどなぁ…。
何か気に障ることがあったのかもしれない。あとで聞いてみよう…。
──。
食事のあとは片づけを済ませ、お風呂に入り、いつも通りオセロ大会が開かれて眠ることになった。
「私は部屋の前で待機しておりますので、いつでもお声かけください」
「へ…?寝ないつもり?」
「…?その通りですが…」
「この馬車の中は安全だし、出来れば寝てほしいんだけど。気になって眠れないよ…」
「かしこまりました。ご命令とあれば」
「じゃあ、命令ってことで…、どの部屋を使ってもらおうか」
「ワタシが信希の部屋で子供たちと寝るのでワタシの部屋を使ってください」
「そうだね、一人の方が落ち着くだろ?イレーナの部屋はあそこだから」
「主の側に控えておくのは仕事なので、出来れば私も同室でお願いいたします」
「え…。まぁベッドは広いからいいけど…。なぁイレーナ?」
「そうですね、別に構いませんけど」
イレーナは相変わらずご機嫌ななめみたいだ…。
「オレはイレーナの隣で寝るから、その横が子供たちかな?」
「は、はい。そうですね…」
「では、私は部屋の隅をお借りします」
ん、んー…。なんだか流れでこんなことになってるけど…。もしかして、オレが別の部屋で寝た方が良かったのか…?でもユフィは同室でとか言ってるし…。
「お昼寝してたけど、ヨーファとカフィンは眠れそう?」
「うん……」
「久しぶりのお布団…だから……」
うん。少し気になることを言っているけど、安心して眠れるみたいだ。
オレも非日常を沢山経験したから、思っている以上に疲れていたみたいだ。布団に入ろうと思ったときには随分と眠気を感じていた。
隣に誰かが居る温かさを感じながら眠りについた。
──。
ありがとうございます!
合歓綢繆
合歓はネムノキ(植物)を短縮したもの、本来は合歓木と変換されます。「ねむ」や「ねぶ」と言われているみたいです。
合歓には愛し合うという意味があります。
綢繆は絡み合うという意味だそうです。日本語の変換では出てこないみたいです。
知った時に素敵な言葉だなと思って使ってみたいと思いました。もしも違う使い方だとしたらお恥ずかしい。




