第八十六話 面会
男に案内されるまま王城の中へと進み、かなり豪華だと感じる部屋へと案内された。
「立派な部屋だな。この世界にもこれだけの技術があるんだな」
「恐れ入ります。ところで、今日は王への面会が目的だと伺っておりますが…」
「ああ。少しだけお願いしたいことと確認したいことがあるから、出来るだけ早く取り次いでほしいんだけど?」
「御使い様だと伺っておりますが、王もすぐに動けるような御方ではないのはご了承いただければ幸いなのですが…」
「御使い様ってのはやめてくれ、信希って呼んでくれていいよ」
「かしこまりました、信希様ですね。お連れ様のお名前も伺ってよろしいですか?」
「白狐人族のイレーナです」
「竜人族のロンドゥナだ」
「イレーナ様、ロンドゥナ様ですね。ありがとうございます。そして、王への面会なのですが…、どうしてもと仰られるのであれば、我々としてはすぐに王へ用事を繰り下げる報告と手続きを今すぐに行わせていただきますが…それでもかなりの時間お待ち必要があるかと思われますので…」
「なるほどね。いつだったら時間取れるの?別に今日じゃなくてもいいけど、出来るだけ早くしてほしいな」
「かしこまりました。王の予定は私が管理しておりますので、今日以降であれば問題なく対処することが出来ますので、明日などはいかがでしょうか…?」
「明日か、何時頃?」
「お昼ごろにお越しいただけるととても助かります…」
「朝一番でもいいよ?」
「あ、あのですね…。我らの国としましても、御使い様である信希様と王との面会になると、それなりの準備や面子というものがございまして…」
終始申し訳なさそうに見た目の割に随分と腰の低い男は、なんとしてもオレの機嫌を損なわないように接してきているのが分かるくらいに丁寧な対応だった。
それに、オレが知らないであろう知識も、嫌味なく伝えてくるあたりかなりのやり手ではないかとすら思い、この国のレベル自体が高いと感じた。
「なるほどね?じゃあ昼頃だったら問題なく王に会うこともできるかな?」
「それはもうっ!もちろんでございますっ」
「じゃあ、今日は一旦帰って、また明日の昼頃に来るようにするよ」
「かしこまりました。信希様はどこかに居を構えられておりますでしょうか?差し支えなければ、この後もお送りさせていただきます。明日も時間前に、こちらから迎えの者を向かわせますので、よろしければこの後馬車をお使いくださいませ」
「本当に?この後に用事はー…」
オレはイレーナとロンドゥナの方へ視線を向けて、何か用事があるか思い出そうとしてみる。二人は何も言わずに首を横に振る。
「用事は無いから、宿泊している宿まで送ってもらおうかな?」
「かしこまりました。お茶とお菓子を用意させていますので、馬車の準備が整うまでお休みください。私もすぐに戻って参ります」
男はそう言うと部屋から出ていき、オレたちが帰るための準備をしてくれるみたいだった。
部屋の隅には、給仕をしてくれたメイドが一人立っていて、用事があれば声をかけていいみたいだった。
「これまでにないくらい丁寧な対応だな」
「それだけ御使いという立場が重要だということです」
「まさか、自分から正体を明かすなんて思ってもみなかったぞ」
「うん。これは自分のためじゃないからね…。シアンみたいな子を増やさないためになら、すぐ利用させてもらうよ」
「ふふっ、どこまで行っても信希ですね」
「うまく行くといいな、せっかく御使いの立場まで使うんだからな」
「そうだね、オレも頑張るよ」
そうだ。まだ王に会えると決まっただけで、問題解決のためにはここからの方が重要とも言えるだろう。
幸いにも、どんな話をしたいのか聞かれていないので、明日の面会まで考える時間は沢山確保できた。
「この飲み物にお菓子も食べて大丈夫だよ」
「…?頂きますね」
「私も頂こう」
流石に毒を入れたりはしていないと思ったが、万が一何かがあるかもしれないので、すぐに使えるようになった鑑定の魔法を利用させてもらった。
「それより、二人がついてきてくれて助かったよ。白狐人族と竜人族の役目とかすっかり忘れてたから、門番と話している時少し驚いちゃった」
「いきなり王様へ会うのは難しいでしょうからね…。流石に分かってるかと思ってました…」
「ははっ。信希は大事なところで抜けているよな」
「たしかに…。それを言われると痛いな」
イレーナは、オレが王城へ行くと言っている時からここまで考えてくれていたみたいだった。だから他の人じゃなくて、分かりやすく立場を示せる二人で付いてきてくれたみたいだった。
「それにしても、このお茶はおいしいですね」
「ああ、ほんとうに。これまでに口にした中で一番と言っていい」
二人の言葉につられて、オレも準備されていたお茶とお菓子を食べてみる。
「たしかに…」
元居た世界でも食べたことがあるかもしれないような感覚だった。
でも、お菓子や紅茶に割いている時間が少なかったから、これがどれだけ良い物なのか比べるものが無かった。間違いなくこの世界に来てからは一番良い食べ物だというのが理解出来た程度だった…。
自分が、彼女たちよりもこの場所に相応しくないことを示されているようで、少しだけ居心地が悪くなっていたところに先ほどの男が戻ってくる。
「お待たせいたしました。準備できておりますのでこちらへお越しください」
「じゃあ、二人とも行こうか」
「はい」
再び立ち上がり歩き出そうとしたときに、イレーナはまたオレの腕にしがみ付いてくる。
「もういらないんじゃない…?」
「いえ、大切なことですので」
「信希様とイレーナ様は大変仲がよろしいのですね」
ほらぁ…。この人にも勘違いされてるじゃないか…。確かに離れないように言ったけど…、ここまで密着してくるとは思っていなかった。
もちろん悪い気はしないから全然かまわないんだけど…。かわいいし。
「では私も」
「ソウダネ。アリガトウ…」
そんなやり取りをしながら部屋を出ようとしたときに、違和感…いや視線のようなものを感じた。
「二人とも待って──」
オレは二人が部屋から出ないように、少しだけ強引に腕を部屋の中へと押しやる。
そして、部屋の中から視線の感じる方へ少しだけ顔を出す。
「何かいるのか…?」
明らかに不自然な視線を感じた。だが、その廊下には誰もいないように見えた。
「信希様…?」
「……」
男の声を無視して、オレは『違和感』を感じた方へ向けて自分の思いつく限りの認識に必要なイメージで魔法を使っていく。
感じたのは『監視する視線』のようなものだった。それなら人間だと思う。だったらサーモグラフィーがいいかもしれない…。
熱源を感じ取れるように、自分の視界にサーモグラフィーの機能をイメージしていく。
そして力を使うと同時に、その違和感の正体を見つけることが出来た。
「お前はオレたちに害を加えるのか!?」
そう問いかけたのは、ここが王城だからだった。
オレの視線は、その違和感の正体をまっすぐに射抜き既に見つけていることを告げている。
そして、その言葉に反応するように、見つけられた者が天井あたりから降りてくる。
「失礼いたしました。まさか気付かれるとは思わず…」
「もう一人も出て来いよ、そんなに見られていると気分が悪いぞ?」
「おいっ!出てこい──」
そして、もう一人も姿を現す。
言葉こそ発しないものの、頭を深く下げてオレに見つかったことを理解しているみたいだった。
「まさか、隠密に気付かれるとは…。信希様、これは大変失礼いたしました。この者たちは、この城の中を警備している者たちでありまして、害を加えるつもりなど一切ございませんっ」
ここまで案内してくれた男は、再び噴き出している汗を拭きながら謝り続けていた。
「そうか?確かに、殺意とかではなく普通に監視のような視線だったからな。今回は大目に見るけど、もしも今のがオレたちの後ろから感じたものだったら、あんたら死んでもおかしくないと理解してくれるよな?」
「に、二度とこのようなことが無いように徹底いたします!」
「二人とも、もう大丈夫だよ」
「じゃあ、もう一度ここでいいですね」
「そうだな」
体よく、腕にしがみ付いていた二人を離すことに成功したと思っていたが、そんなに甘くなかったみたいだった…。
「いいんだけどね…」
「じゃあ、行きましょう?」
「こちらですっ」
『隠密』と呼ばれていたやつらがいる方と、逆の方向へ歩き出した男へ連れられるようについて行く。
「二人は気付けた?」
「信希の反応が早かったので気付けませんでした…」
「瞬間的な違和感は感じたが、多分これは信希のおかげか?しがみ付いていたおかげで信希が反応しているのに気づいた程度だと思う」
「なるほど…」
二人にも見つけられないとなると結構な手練れではないのだろうか。
イレーナは実際に、ローフリングの時にオレが見つけていなかったメキオンの監視に気付くことが出来ていたはずだ。
ロンドゥナも、そんなイレーナが認めているくらいの実力者だから、まさかとは思うが…今の人たちって、結構すごい人たちなんじゃないの…?
それに…、今オレたちの後ろについてきているメイドも、足音一つしないしなんか強者のようなオーラを感じるような気がする…。
「本当に申し訳ございません。お許しいただけなければこの首を差し出すつもりでしたので…」
「そう…。そこまでしないで良いと思うけど、この二人はオレにとって大切な人たちだからね、それを理解してくれると助かるよ」
「かしこまりました。明日はこのようなことが無いように準備しておきますので…」
「そうしてくれると助かるよ」
そうして、案内されるまま馬車へと乗り込んでいく。
──。
いつもありがとうございます!
日曜日なので、何話かまとめて投稿していきます!




