第八十四回 ちょっとだけのお願い
「か、可愛い…」
お風呂に入って綺麗になったカフィンが、リビングに居た。
オレとヨーファは話をしていたので、時間が掛かりすぎていたみたいだった。
「遅かったですね?」
「ああ。色々話していたからな」
そういうオレの事を見ていたヨーファに『内緒だぞ』と合図を送ると、彼は頷き拳をオレに向けていた。
「そ、それより!」
「…?」
「その、カフィン様を乾かす権利をいただきたく…」
「……」
イレーナのジト目は可愛いが…、これはダメな流れかもしれない…。
「お、お願いします」
オレは何とかなれ!という思いで彼女に向かって頭を下げてみる。
「怪しいです。それに、前科が消えているわけじゃありませんよ?子供にあんなことを経験させるわけにはいきませんよね?」
「ぐっ…厳しい…」
「それに、ヨーファさんも乾かしてあげないといけないの分かってますか?」
「ぐぬぬ…」
かわいくないと言えばウソになるが…。どうして野郎のお手入れなんか…。
「わ、分かったよ…お手入れ用の魔法具は必要…?」
「えっ。作ってもらえるんですか?」
「その代わり終わったら返してよ!?」
「はぁ…。信希は本当に…。分かりましたからお願いします…」
オレは心配になりつつ、温風が出る魔法具を作っていく。込める魔力の量によって温度と風量を調節できる機能付きだ。
「これ使って?使い方は分からなかったから聞いてくれ。魔力で調整できるようにしてみた。ブラシも準備しないとな」
「ありがとうございます」
「ほら、ヨーファ。こっちに座って尻尾と頭を乾かすぞ」
「う、うん」
それから、ヨーファとカフィンは横並びになって、オレたちからお手入れされることになった。
──。
尻尾とケモミミのお手入れが終わるころには、二人とも安心したのかコクリコクリと舟を漕いでいた。
「今日はこのまま寝かせておこうか…?」
「それがいいかもしれませんね。どんな環境で生活していたのか…、考えるだけで…」
「そうだね、子供たちがこんなことにならないように、オレがこの国をちゃんとするよ」
「それは、自分の望みですか…?それとも…」
イレーナが何を言いたいのか、すぐに理解することが出来た。
「もちろん、これはオレの意見だ。あいつらとの約束とかじゃないよ?その立場は利用させてもらうけどね」
「ちゃんと、信希のままですね」
「こんな立派なケモミミ様を放置なんてするわけないだろう」
「それもそうですね…」
今にも眠ってしまいそうな二人を抱えて、オレの部屋で寝かせるために連れていくことにした。
「ゆっくり休んでくれ、おやすみ」
「おやすみなさい」
ヨーファとカフィンをベッドへ下ろすと、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。
──。
「それで信希…、あの子たちをどうするつもりなんですか…?」
「まずはこの国の王様に会ってくるよ。そんで、孤児院を作るようにする。教員と仕事をさせるやつに料理が出来るやつもいれば完璧だろう、そんでかなりの人数がそこに住めるように手筈するつもりだけど」
「なるほど…」
オレは彼女たちが心配してしまうのも無理はないので、予めどういう風にして子供たちを守っていくか考えていた。
「そんなことが出来るんですかね…?」
「出来るとも、オレが御使いを利用するって言ってたのはこの事だから」
「そういうことだったんですね」
「イレーナやメキオンたちからの話を聞いた限りじゃ、人間でも同じことだよね?御使いが優先されるっていうのは」
「その通りですの、どんな国であっても御使い様に逆らうようなことがあれば、死刑すらあり得ますの。それがこの世界のルールですの」
「なるべく死者を出さないように気を付けるよ。ただ、ヨーファ達みたいな子供は、どうやら他にも居るみたいなんだ。それに、突然いなくなることがあるとか言ってたから…、オレは結構イライラしてる…冷静でいられるように気を付けてないと暴走しそうだ」
「そ、そんなことが…」
「なるほどのぉ、この国も暗い部分があるということだな」
「……」
「シアン?ごめんね?嫌なことを思い出してるよね」
シアンは、ヨーファたちを寝かせてからずっとオレに引っ付いてた。
ふるふると頭を振って、何かを言いたそうにしている彼女の言葉を聞いてみることにした。
「ボクの時も信希が居れば…って思っただけ…」
「そうだな…つらい思いは消せないからな…。これからはオレと幸せな思い出で上書きできるようにしよう?」
「うんっ」
先ほどまでの悲しい表情が嘘だったみたいに、彼女は満面の笑みを見せてくれる。
「信希、それはいつから始めるつもりですか…?」
「そうだな、出来れば今すぐ行きたいんだけど」
「分かりました。準備しましょう」
「一人でも大丈夫だけど…?」
「はぁ…信希を一人にしていたら、この国が無くなってしまうかもしれません。絶対ダメです」
呆れられてしまった…。確かに、さっきの自分の言動を考えれば当たり前か…?でも、ヨーファ達がこの国で生活できるようにするのが目的だから、そんなことをするつもりはないんだけど…。
「人数が多くても良くありませんから、ワタシとロンドゥナさん、信希で行きましょうか」
「それがいいだろうな」
「じゃあ、ワシとメキオンが責任もって二人の事を見ていよう」
「まかせてくださいですの」
「ボクは何をすればいいの!?信希一緒に行く?」
「出来ればここで待っていてほしいかな…?ヨーファとカフィンの面倒をお願いしたいかな。ちゃんと守ってあげてほしい」
「わかった!ボク頑張るよ!」
「ありがとうね」
「みんなもお願いね」
「「任せてぇ」」
このメンバーであれば、かなり心強い。
それに、馬車の中に居ればかなり安全なのは違いない。オレが離れても認識阻害の魔法具を発動させていれば、そもそも見つけることも難しいだろう。
「じゃあ、準備が出来次第、出発しようか」
「はい」
「ああ、わかった」
──。
いつもありがとうございます!




