第八十三話 やりたいこと
「それで信希、この子たちは?」
「い、いやぁ…」
港で保護?した少年たちを、いきなり馬車の中に連れてきたら流石に怒られてしまうのも無理はなかったか…。
勢いでどうにかなると思ったけど、どうにもならなかったみたいだ。
「両親が居ないみたいで、港で盗みを働こうとしてたから魚を買って戻ってきたんだ」
「でも、連れて来ることにはなりませんよね?」
「放っておけない…でしょ?」
「はぁ…。どうするつもりなんですか…?このまま連れて行くわけにもいかないのでは?」
「ああ。それは任せてくれ、オレに考えがある。こいつらがちゃんと生活できるようになんとかしてみるよ」
「もう…。また無理はしないでくださいね?すぐに力を使いすぎるんですから…」
イレーナは大きな魔法のこと言っているんだろうか…。オレの元居た世界の知識を言っているんだろうか…。
「分かってる。今回は政治的な解決をするって約束するよ」
「政治的ですか…」
「そ、それより!ご飯を作ろう。少年たちは出来るまで座って待っててくれ」
「信希…?お名前も知らないんですか…?」
「そういえば聞いてなかったな。色々あったから忘れてた。二人は自己紹介できるかな?」
「オレはヨーファ」
「カフィンはカフィン」
「ヨーファにカフィンね。どのくらい一緒に居るか分からないけど、とりあえずよろしく。お姉ちゃんも怒ってるけど、良い人だからね。オレの奥さんになるかもしれない人なんだ、分からないことは彼女にも聞いていいからね」
「ワタシはイレーナです。ヨーファさんにカフィンさん、よろしくお願いします」
二人は少しだけ緊張しているような感じだった。でも、不安そうな感じではないのでとりあえず安心することが出来た。
「すぐに準備するよ。イレーナは二人と待っていてもいいよ」
「じゃあ、温かい飲み物でも準備して待ってますね」
馬車に戻ってきた時は、日が昇っていてかなり明るくなっていたが、馬車の中は太陽を感じることが出来ないので、みんなまだ眠っているみたいだった。
イレーナだけはリビングのテーブルで寛いでいたので、帰ってきてすぐに問い詰められてしまった。
でも、流石はイレーナといった感じで、オレが説明するとちゃんと理解してくれる。少しだけ強引だとも思ったが、今回は魔法を使ってはいない。オレもちゃんと進歩しているのだ。
全員分の食事を準備しながら、そんなことを考えていた。
イレーナたちの方をちらちら見ていると、彼女が二人になにやら色々質問したり、二人からの質問に答えていたみたいだった。なんとも和ましい雰囲気だとも思ったが、もしも『オレたちに子供が出来たらこんな感じになるのだろうか』という考えがよぎったところで、我に返る。
「今は、他に優先することがあるだろ」
「信希?」
「そろそろ準備できるから、みんなを起こしてきてくれる?」
「わかりました」
食事の準備はすぐに終わりそうだった。
魚たちは手早く塩焼きにすることにした。そんなに臭みも感じることもなく、新鮮そのものといった感じだった。種類は白身魚の様だったので、朝ごはんにするのもさっぱりしていて良い感じだと思われた。
──。
「おやおや、ここに幼子が居るとは…またまた何かあったのか?」
「可愛らしいですじゃ、獣人の子供ですから信希さまが連れてきたのじゃろて間違いないのじゃ」
「ごはーん」
「まだ眠ってたいのぉぉ」
「この匂いはお酒を飲みたくなります…」
「可愛らしいお子様たちですの、どこからおいでになったんですの?」
「少々汚れているな?朝食が済んだら風呂で磨いてやろう」
「ロンドゥナ、妹のカフィンのお風呂頼める?ヨーファ、兄貴のほうはオレが風呂に入れるよ。服も入る前に準備するよ」
「ああ、任せてくれ。カフィンか、よろしくな?私はロンドゥナ」
「…うん……」
流石にこの人数に囲まれてしまうとビックリしてしまうよな。
「さっ。ご飯できてるから、運んでくれ」
「「はーい」」
──。
朝食も食べ終わり、オレはヨーファと一緒に風呂に入っていた。
使い方は分からないだろうから、オレが洗ってあげる。
体も洗い終わったところで、二人で並んで湯舟に浸かる。
「妹のことは心配しなくてもいいぞ。連れて行こうなんて考えてないから、それに他のみんなも優しいから安心してくれ」
「うん…」
「それに、男同士だ。少しだけ大切な話をしておこう」
「…はなし?」
「ああ。両親がどこにいるのか分かるか?」
「…分からない」
ヨーファはツラそうな表情になってしまうが、オレは大切なことなので落ち着いて続けることにした。
「妹のことは大切か?」
「もちろんだ!」
その気持ちだけあれば十分だと思うが、こいつは生き方を知らなさすぎる…。そして、それ以上に不安の種がこの世界にある。
「ヨーファたちみたいに、親から捨てられた獣人は他にも居るのか?」
「…いる。でも、気づいたら居なくなってたりするんだ…」
「なるほど…」
まさかとは思うが、ヨーファの言っていることが本当なのであれば、オレが一番許せないことをしているヤツがこの国に居るのかもしれない。
「金は…持ってるわけないか」
「うん…」
「じゃあ、一つオレと約束をしよう」
「約束…」
「簡単だ。ヨーファは妹の事を守ってやるんだ。これは兄貴の務めだ」
「うん!」
「そしてこれは、オレとヨーファの男の約束。もしもヨーファが大人になって子供を作ることになっても、絶対捨てたりしないって約束してほしい」
「オレが、子供を作る…?」
「今はまだ難しいかもしれないけど、オレくらい大きくなれば分かることだ。ちゃんと大切にしてあげると約束してほしい。カフィンの子供たちもだ」
「わかったよ!」
今のヨーファには難しい話かもしれない。
でも、自分の親と同じような考えになってしまうのは、十分に考えられる可能性だった。今のオレに出来るのはこれだけかもしれないけど、少しでも減ってくれるように行動していこう。
「ヨーファは良いやつだな。じゃあオレも二人のために頑張ってみるよ」
「…?」
オレの言ってることを聞いてはいるものの、難しいんだろう理解は出来ていなそうな表情だった。
「この国の王様に会って、ヨーファみたいに大変な状況にある子供を助けられる施設を作るから、そこで働くんだ。勉強もできるようにして、ちゃんとした大人になれるように環境を整えてやる」
「働く…勉強…それをすれば、大人になれるのか!?」
「ああ、もちろん。大変かもしれないけど、頑張れるか?」
「カフィンのためだ、オレが頑張るよ!」
「ヨーファ、それは違う。カフィンも一緒に頑張るんだ。二人で協力すればいい」
「わかった!」
「それが出来るまで、オレたちと一緒に居れば良い。飯の心配もしなくていいから」
「で、でも…。マサキは王様に会えるのか…?偉い人には会える人が少ないって知ってるぞ…」
「任せろ、オレは無敵だからな。男の約束はちゃんと守ってやる」
「オレも約束守るよっ」
純粋で真っすぐ見つめてくるその瞳に、オレはまだまだこの世界は捨てたものじゃないと改めて実感した。
ヨーファに笑いかけている自分は、嬉しかったのか安心したのか、初めての感覚で無意識に拳を突き出して、ヨーファと約束を交わしていた。
──。
いつもありがとうございます!




