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第八十二話 謎の男

 朝の散歩をしている時に、親に捨てられたという二人の獣人の子供に出会った。

 オレは、すぐに解決できる問題ではないけど、真っ当に彼らに食事を振る舞うことで彼らに何かを伝えられたらいいと思った。


「オレたちの人数は多いかもしれないけど、戻って朝食の準備をしよう」

「なんで…そこまでしてくれるんだ」


「あ?子供が何言ってんだ。お前らみたいに困ってるやつを助けるのが大人だぞ?」

「大人…でもっ!」


「あー。他のやつがどうとか、そういうのは言わなくていい。オレは人間の事も自分勝手な奴らも嫌いだから、多分少年が言いたいことはそういうことだろ」


 何歳ほどなんだろうか…。オレの見立てでは、小学生くらいじゃないかと予想できるほどの見た目だった。


「少年のような育ち方をすると、同じような人を増やしてしまうんだ。オレが、ちゃんとお前らが歩けるようにしてやるから心配すんな」


 それから少年は何も言わなくなってしまったが、オレの裾を掴んでいた。今はそれだけで十分な成果と言えるんじゃないだろうか。


 宿から港までの道のりは、こんなにも長かっただろうかと思うほど歩いたが宿はまだ見えてこない。

 そんなことを考えていると、知らない男から声を掛けられる。


「すまないが、少年たちは家族か何かか?」

「あー?オレのこと言ってる?」


「その通り」


 ぱっと見の印象だが、どこか不思議な雰囲気を感じる人物から聞かれたくないことをズバリと聞かれて少しだけ動揺してしまった。


「ああ。連れの子供たちだ。早く起きてしまったから、朝食用に魚を買いに行ってたんだ」

「そうか…。もし時間に余裕があるなら少しだけ話をしないか?」


 なぜ?と聞き返せばよかったのかもしれないが、その時のオレはこいつの話を無視するわけにはいかないような気がした。

 本当に根拠なんてものは無く、二人を連れているので早く帰るべきだったのに、そいつの話を聞くことにした。


「じゃあ。喉が渇いているから全員に飲み物をおごってくれ、それで話を聞こうじゃないか」

「もちろんだとも」


 打合せしていたかのように話が進んでいくオレたちを見て、少年たちは不思議そうな、怯えているようなそんな表情を浮かべていた。


「大丈夫だよ、少しだけ帰るのが遅くなるだけだから」

「わ、わかった…」


 話しかけてきた男は、近くで準備を始めていた店にズカズカと入っていき、すぐに飲み物を持って出てきた。


「まず、私の名前はルーファーという」

「オレは信希だ。それで何の用?」


 受け取った飲み物を鑑定する。万が一毒を盛られていることも想定したからだ。

 特に異変もないので、そのまま二人へ手渡していく。


「飲んでも大丈夫だよ」

「……」


 返事はしないけど、しっかりと頷いているのは分かった。


「シャイな子たちなんですね?」

「そりゃ、いきなり変な男に絡まれたら誰だってこうなるだろ?常識ないのかアンタ」


「ははっ、それもそうですね」

「で?話ってなに?」


「あなたはこの国をどう思いますか?」

「あ?この国…?」


「ええ。ここがすごいとか、もっとこうしたほうがいいとか」

「よく分かんないよ。オレは昨日この国に来たばかりなんだ。それに、国の事をどうこう言えるほど偉くないしな」


「まぁまぁそう言わずに、食べ物がおいしいとかでもいいんです」


 えらく押しの強いルーファーと名乗った男に、何と返事をすれば正解なのか分からずに戸惑ってしまう。


「昨日と今朝みた印象だから正確じゃないだろうけど、見た目や人々の生活はある程度の基準で豊かな国だと思ったかな」

「なるほどなるほど」


「でも、オレの感覚だとそういった『豊かさ』を感じる国っていうのは、裏の部分がとても根深く張り巡っていて、簡単に『良い国だ』とは言えないかな」

「何か心当たりでも?」


「ああ。まず他の国と比べて人間が圧倒的に多い所とかな」

「なるほど、良い目をお持ちですね」


「そんなことはないだろ、何か国か見ていればすぐに気づくことができるだろう」

「その闇の部分を見つけられたとか?」


「さぁ、それはどうだろうか。昨日の今日で、そんなのを見つけていたらオレは運がいいのかもしれないな?」


 こいつは、どこまでオレの事を知っているんだろうかと思ってしまった。ルーファーの質問は、的確に誘導して自分の聞きたいところで逃げられないようにするようなそんな力のある質問の仕方をしてくる。

 ここまで来れば、ルーファーはただの一般人じゃないと理解するには十分すぎた。


「それもそうですね」

「さっきから、そういった悪い部分の質問をしてくるけど、あんたは心当たりがあるのか?」


「私もそれなりにこの国に居ますからね…。強盗などは何件か心当たりがありますが…」


 彼は何かを考える素振りを見せている。

 上手く誤魔化されているような気がするけど…。


「ああ。そういうことを聞きたかったのか?事件とかは見てないし…。いい所って言うとさっきオレが言ってたような感じか?」

「その通りですね、この国の貴族は頑張っている人が多いですから」


「やたら詳しそうな言い方だな?」


 会話の流れを変えることは出来ただろうか…。あんまり得意じゃないからボロが出る前に撤退したいところだ…。


「そんなことはありませんよ、普通の人たちよりも多くの人と会話をして、少しだけ知識を多く持っているだけにすぎませんから」

「そんなもんか?聞きたかったことはそれだけ?」


「そうですね、ありがとうございます。最後に一つだけ、信希さんはこの国にどのくらい居られる予定ですか?」


 また変わった質問だな…。まるで出ていくのを知っているみたいな言い方だ。


「まだ決めていないんだ。明日出るかもしれないし、来月になるかもしれないし。少しだけやることが出来たから、その用事が終わるまでは居ないといけないかもな」

「なるほど。では私も戻る時間ですので、このあたりで解散にしましょう」


「ああ。飲み物ご馳走さん」

「いえ、また会えることを楽しみにしています」


 そういうとルーファーは立ち去って行った。

 変なやつだったけど、嫌な感じはしなかった。また会いたいと言っていたが、普段は一体どこにいるのやら…。


「じゃあ、行こうか」


 オレは、飲み物を飲み終わって暇そうにしていた二人に声をかけて、みんなの待っている馬車に戻るために再び歩き始めた。


 ──。


いつもありがとうございます!


また、日曜日に沢山投稿できるように頑張っています!

これからもよろしくお願いします!

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