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第八十一話 散歩

 今朝の目覚めはとても早かった。

 昨日の疲労を感じることはなく、すっきりとした寝起きによく眠れていたのかと実感していく。


「ふわぁー…」


 大きな伸びと欠伸をしつつ、少し早すぎる時間にもう一度眠るか考えていると、どのくらいの時間なのか気になって外を確認してみることにした。


「今日は誰も来てないんだな」


 少しだけ寂しい自分のベッドを眺めつつ、馬車の外を確認するために部屋をあとにした。


「少し寒いか…?まだ真っ暗だな。うっすらと明るくなってる気もするけど…」


 馬車の中に戻り、洗面を済ませようと思い洗面所をへと向かう。

 こんな便利な生活に慣れてしまうと、流石にこの世界の宿では物足りなくなってしまう…。ほぼほぼ、いや元居た世界よりも便利な気さえしているからな。


 そんなことを考えつつ、誰かが起きているか確認するためにキッチンの方へと向かう。


「まだみんな寝てるよな」


 昨日は結構盛り上がっていたし、久しぶりに旅の事を考えずにゆっくりできる状況だからな。無理に起こすのも可愛そうだし…。

 もう一度寝るかとも考えたが、しっかりと目は覚めてしまっていて眠れる気がしない。


「ど、どうしよう…」


 この国ですることはないか少し考えてみることにした。

 魔法具の準備が大切な用事だったからな、それ以外にしたいことってあったかな…。


 それからしばらく考えていたけど、これと言って思いつくものは無かった。どれも同行しているみんなのことばかりが浮かんできて、どうも自分の事になると思いつくこともない。


「少し散歩でもしてみるか」


 もしかしたら良い考えが浮かんでくるかもしれない。

 それに、この街の事は確認しておきたいと思っていた。このまま出ていくとみんなに心配されるので、しっかり置き手紙も準備していこう。


「えーっと。少しだけ朝の散歩に出かけてきます。朝食には戻るつもりだから心配しなくていいよ。港の方へ行ってみる。こんな感じでいいかな」


 そう、この街には港と海があるのだ。入国した時とこの街に来た方向から海を確認することは出来なかったが、先ほど馬車の外に出た時に潮風の匂いがしていたことで思い出した。


 軽く身支度を整えてオレは港の方へ向かってみることにした。


「早朝だけど、活動している人は居るかな」


 確か、漁業に関する仕事をしている人の朝は、とても早かったような記憶がある。

 朝早くからお店をやっていたりするのであれば、朝食用に魚なんて買っていきたいものだ。


 久しぶりの一人での行動になるけど、それまでの自分と考えることは違っていた。元居た世界で行動する時はいつも一人だったし、周囲の人たちを見て僻み尽くしていたあの頃が嘘みたいだった。

 散歩している目的も結局は自分のためではあるのだけど、その道中でみんなのことを考えるなんてあの頃のオレが知ったら発狂するだろうか。可愛いケモミミ様のために食材の買い出しをしてますよ。なんて夢の世界の話だったからな。


「お、海が見えてきた」


 この世界に来て初めての海を目の当たりにして、少しだけ興奮してしまう。

 朝日が顔を出すか出さないかくらいの時間に到着できた港には、沢山の船が停泊していて、フェリー程ではないもののそれなりの大きさの船が沢山見受けられて、少しだがこの世界の大きさが分かる気がした。


「まだここの海しか見てないけど、水平線が続いているな…」


 見える限りに島のような影は無く、どこまでもきれいな海が続いていた。

 周囲には大勢というには少ないが、数えるには多いくらいの人たちが魚を運んだり、店舗に魚を並べていたりとすでに働き始めている人たちがいた。


「…あれ?」


 そこで少しだけ気になることを目撃してしまう。


「獣人の子供か…?」


 この時間に活動するには少しだけ違和感のある子供たちを見つけたオレは、しばらく様子を窺っていた。断じてケモミミ様だからというわけではない。

 何かを探しているように、キョロキョロと辺りを見回している。


「男の子と女の子か…?」


 服装は普通だろうか…?少し貧しいのかもしれないと思わせるような格好をしていた。

 彼らを見ているオレには気づいていないみたいだった。

 可愛らしくて、今の時間にこのあたりに居なければ気にすることも無かったのかもしれない。


「あ…?」


 彼らの見つめている先にいた大柄の男が、魚の入っているであろう木箱を運び始めた時を狙ったかのように二人は駆け出した。


「やめろ…やめるんだ」


 オレの予想は的中してしまう。

 獣人の子供たち二人は盗みを働いていた。その状況を見てしまったオレは、流石に無視することは出来ない。

 ケモミミ様を愛するのであれば、魚を必要としている彼らを見逃してあげるのがいいかとも思ったが、シアンの事が頭をよぎって気付いた時には体が動いていた。逃げられないように、オレはその二人の所まで少しだけ力を使って早く駆け寄った。


「キミたち?その魚は買ったのか?」


「え…」


 目の前に急に大きな男が現れたんだ、流石に動揺するのも無理はない。


「お、お兄ちゃん…」


 小さな女の子は、どうやら男の子と兄妹で妹みたいだ。


「ものを盗むのは良くないって分かってるから、隠れながら魚を取ったんだよね?」

「……」


 返事こそしないものの、その少年はオレの事を睨みつけて今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を出している。

 そこへ、先ほど木箱を運んでいった男が戻ってきた。


「おいおい。アンちゃんその魚はウチのだぞ?盗んでるんじゃないだろうな?」

「ああ、悪い。少しだけ見させてもらっていたんだ。朝食に魚を使いたいから、三匹くらいおいしそうなやつを譲ってもらえないか?」


「金を払うなら文句ねぇ」


 男はそう返事をすると、少年の持っていた魚に加え木箱の中から二匹を取り出し、綺麗そうな葉っぱに包んでくれた。


「残りはあんたが取っといてくれ、その代わり黙っておいてくれな」

「もちろんだ!あんたならいつでもここへ来ていいぜ!」


 オレは明らかに多すぎる代金として、金貨一枚を男に差し出した。

 黙っておいてくれというのは、もちろんこの少年たちの事だ。一見すれば家族のように感じるかもしれないけど、大人だったら誰でも分かることだ。

 人間と獣人の子供たちがいるのは少しだけ不自然だろうから。しかもこんな時間に、魚を握っているのは少年で怪しまないやつの方が少ないだろう。


「じゃあ、ちょっとついてきてくれる?心配しなくてもご飯は食べられるようにしてあげるから」

「お、お兄ちゃん…」

「わ、わかった!」


 終始心配そうに見つめていた少女は、まだ兄を頼らないといけないくらいに弱弱しい感じで、この二人はどういった状況で今ここに居るのか確認することにした。


「なぁ、少し聞きたいんだけど」

「…?」


 返事こそしないものの、こちらを見つめて『なに?』と言っているような感じがした少年に聞きたくない質問をする。


「お父さんとお母さんは?」

「…い」


「……」


 何かを言っているみたいだったけど聞き取れない…。


「いない」


 オレに再び衝撃が走る。


「居ないってのは…?亡くなったとか?」

「違う。捨てられたんだ、怖い男たちから逃げるためにオレたちを置いて居なくなったんだ」


「そう…か…」

「お兄ちゃん…」

「カフィン。大丈夫だ、兄ちゃんが付いているからな」


 この二人は、もしかしたらシアンと似た境遇にあるのかもしれない。


「オレはこの街に来たばかりなんだけど、二人は?」

「ずっとここにいる」


「なるほど…」


 そして、自分たちの飯を手に入れるために、人の少ない時間を狙って魚を取っていたということか…。


 オレは少し…いや、かなりこの国も深刻な状況にあるんじゃないかと思ってしまった。


 ──。



いつもありがとうございます!


少し時間が遅くなりました!

どうやら80話も超えているみたいです。

これからもよろしくお願いします!

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