第七十六話 この世界の獣人
シアンの事を知って、オレはこの世界でやりたいことが出来た。
難しいことはない。ただ、彼女たちと同じ境遇にある人達を助けたいと思っただけだ。
大人になってしまいさえすれば問題は無いのかもしれないけど、そんなことにならない国や世界に変えていけたらいいなと思っている。
まだシアンの過去だけしか聞いていないから、彼女がイレギュラーなだけなのかもしれない…。だけど、もしも多くのケモミミ様たちが同じ状況ならオレは黙っていられない。ちゃんとケモミミ様が笑って生活できるようにするのが、オレがこの世界に来た理由なのかもしれない。
悠長にハーレムとか言ってる場合じゃないな。
「「ん-…」」
「レスト?ポミナ?」
彼女たちは、イレーナとシアンの尻尾を見て何やら唸っているみたいだ。
「しっぽ…」
「尻尾?」
「いつもと違うの!」
「だよね!わたしもそう思う…」
「昨日信希に乾かしてもらったんです」
「上手だったのっ」
どうやら、昨日お手入れした尻尾にいつもと違う何かを感じたのだろう、自分の尻尾を触っている二人に詰め寄っていた。
「「ずるい!」」
「ふふっ。信希に言えば、すぐにお手入れしてくれますよ」
ぶんっ!と、すごい勢いで振り返る二人にたじろいてしまうが、尻尾のお手入れであればオレにとってはご褒美と同じだ。何の問題もない。
「ああ。お風呂上りだったらいつでも言ってくれ。ちゃんとお手入れさせてもらうよ」
「やったぁ!」
「お願いしますっ」
喜んでいるケモミミ様には慣れたつもりだけど、やっぱりケモミミや尻尾が動いているのはとても魅力的だ。
どんなに嫌なことがあっても、この幸せな空間にいれば一瞬で元気いっぱいになるだろう。
そんな彼女たちだが、シアンと同じように悩みやこれまでにツライ経験をしてきたのではないだろうか…。
今のオレは、彼女たちへ気にせずそんなことを聞く自信なんて持ち合わせていない。でも、このままにしておくことも当然できるはずもない。
シアン、レスト、ポミナは、どこか子供っぽいというか、他の女性たちに比べても独りで生きていけそうな安心感を感じさせるものは無い。
シアンの事もあるように、トラウマになるほどの記憶なのであれば、子供のころに両親から捨てられてしまったのではないかと予想できる。
もしかしたら、全員が似たような境遇にあるのではないだろうか…。自分の疑念が事実ではないことを祈りつつ、これからの課題にしていこうと誓った。
まずは、そういった獣人の孤児問題の事実があるのかという確認だな。
だからと言って、この三人にいきなり問いかけるわけにもいかない。出来るだけ早く対応しないといけない問題なのに、デリケートな話題でもある…。オレは真剣に考えれば考えるほど、行動しにくくなることに憤りを覚えつつ、これからどうするか考えていくことにした。
──。
「信希…?シアンさんの事を考えていますか…?」
「ん?ああ。そうだけど、シアンだけの事じゃないよ」
「…?」
今はイレーナと二人で、イダンカへ向けて馬車を進めているところだ。
どうやって彼女たちの過去や、獣人たちのことを聞こうか考えているところに、オレが考えているのを勘付いたのかイレーナが聞いてくる。
「この世界の獣人たちは、シアンに似た境遇の人が多いのかと思ってね」
「そうかもしれませんね…。国によるかもしれませんが、ワタシが見たり知り合ったりした獣人の人たちは、彼女たちと同じように少しだけ子供っぽい人が多かったりしますから…」
「なるほどな…」
イレーナの言葉に、自分の考えていたことがどんどん現実味を帯びていく感覚を覚え、不安と同時に恐怖を感じてしまう。
これまで、自分の事だったらこんな感情を感じることなんてなかったのに、その対象がケモミミ様だと考えると居ても立っても居られなくなってしまう。
「まいったなぁ…」
「今すぐに解決するのも難しいでしょうから…。少しずつ、助けられる人を増やしていきましょう…?」
イレーナは、オレの考えなんてお見通しみたいだった。
「そうだな。イレーナ…確認したいことがあるんだけど…」
「はい?何でも聞いてください」
「イレーナも、同じだったりする…?」
「シアンさんとですか?」
「そう…。捨てられた相手にそんなことを聞けないと思ったんだけど…、イレーナとは一緒に居続けるかもしれないんだ。遠慮なんてできなかった」
「大丈夫ですよ。ワタシは両親から愛して育てられていると思っていますから」
「そっか…」
これまでの不安が一気に抜ける思いになり、少しだけ脱力を感じる。
「それに、白狐人族は少ない種族で集落も限られていますからね。ワタシたちの種族の女性は、自分と同じように子供を教育できるようになるまで両親たちに仕込まれますから」
「イレーナたちの種族はしっかりとした教育の基盤があるんだな」
「そうですね。この世界では珍しいのかもしれませんね」
イレーナの言葉で、散りばめられていたピースが揃っていくような感じがする。
「イダンカに着いたら、やることも増えちゃったなぁ」
「しばらく滞在することになりそうですか?」
「そうだなぁ…。今考えていることをやろうと思ったら、ローフリングよりも長く滞在するかな」
「何をやりたいんですか…?」
「これ以上…いや、シアンみたいに孤児になってしまう獣人を一人でも減らせたらと思ってね」
「そうですね…何か良いことを思いついたって言ってましたね」
「できるか分からないけどね、少しだけ頑張ってみるよ」
「ローフリングの時みたいに『信希の力』を見せすぎるとどうなるか分かりませんよ…?」
「ああ、分かってる。あの時は失敗したと思ってる…他にもやり方はあったはずだからね。今度はみだりに魔法は使わないように気を付けるよ」
「だといいんですけど…」
イレーナは心配性かなとも思ったが、ローフリングの時を思い出したら明らかに自分の行動が問題で、その心配をするのは当たり前だなとも思った。『ケモミミ様』という言葉を聞くと暴走してしまうからな…。
「この世界に来てそれなりに経つし、ケモミミ様にもだいぶ慣れたから…ダイジョブダイジョブ……」
「本当ですかぁ…?」
こちらをジト目で見つめるイレーナは、御自慢のケモミミをぱたぱたさせてオレの言葉が真実か試している…。
「だ、だ、だ…大丈夫です…よ…?」
「確かに、以前はこれだけでも暴走していましたよね」
「ソウダヨネー?」
「視界に入れないようにしていませんか?」
「……」
ケモミミとイレーナが、オレの理性を破壊しようとしている…。
そんなやり取りをしていると、馬車の中からレストが顔を出してきた。
「まさきぃー、少し暇なのぉ」
「んー。そうだよな…外を歩いてもいいけど、出来れば馬車でゆっくりしたいよな」
「さっきまで歩いてたのぉ」
「本当?気付かなかったよ…」
「何かやることないかなぁ?」
「あ、じゃあゲームでもやってみる?」
「なにそれ!」
オレは馬の手綱をイレーナに託して、簡単なボードゲームを創造してみることにした。
まずは、ルールも分かりやすいオセロ辺りが良いだろうと思ったので、作るためにどんなものだったかを思い出していく。
思い描いた通りにすぐ完成したので、レストにゲームの内容を説明してみんなと遊ぶように促した。
「すごーい!これで遊ぶ!」
「うん。ちゃんとみんなで交代するんだよ?」
「はーい!」
こんなに簡単に暇つぶしのアイテムを作れるのであれば、最初から色々準備しておけばよかったなと思ってしまう。
「信希…?先ほどのやつ、ワタシも気になるんですけど…」
「夕食のあと、一緒にやってみようか」
「はいっ」
イレーナであれば、すぐにルールも理解してオレよりも強くなってしまうだろう。
それにオセロのルールは単純だからな…。他にも考えるゲームを用意すれば、シアン、レスト、ポミナにも教育という意味でも良いのかもしれない。
「今作ったのは簡単なゲームだから、もう少し難しいのを作ってもいいかもね」
「ああいうのが、いくつもあるんですか?」
「そうだね。オレの元居た世界だったら、数えきれないくらいのゲームが作られていたな」
「その『ゲーム』というのは何なのですか?」
「そう言われると難しいな…。本来は遊ぶためのものなはずだけど…、元をたどるなら教育とか娯楽に近いのかもね」
「なるほど…遊びながら学ぶですか…」
「オレの居た世界では、そういった考えが当たり前すぎたのかも」
「勉強になります…」
オレは再び御者に集中して、旅路を進めて行く──。
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