第七十一話 少しの旅
みんなと気持ちを確かめたあの時に、とりあえずイダンカまで進もうということになった。
みんなと過ごしやすい場所を探していることを説明すると、みんなも同意してくれて、このままの道なりに国を進んでいこうという話になった。
その旅の中で、良いところがあったらそこへ家を建てることに決まった。
「なぁイレーナ?イダンカってあとどのくらいで着くかな?」
「そうですね…、もう少しだと思います。このあたりの地理にはそこまで詳しいわけではないので、ちゃんとした距離はわかりませんけど…」
「早く到着して、水晶の補充もしないとね」
「そ、そのことで少し心配していることがあるんですけど…」
「心配?」
「また強い魔法を…?」
「そうなるね。でも、少しだけ考えていることがあるんだ。みんなに心配をかけることはしないよ」
「考えていることですか?」
「ああ。魔法具を作るためには沢山の魔力を使っているみたいなんだ。そこで別の水晶を使って魔法具に魔力を保存できないかと思ってね」
「魔力の保存ですか…」
「そう。もしもそれが出来たら何日かかけて魔力を貯めて、大きな魔法も使うことが出来るんじゃないかと思ってね」
「それは良い考えですね」
「あの日作った魔法具は、博打みたいなところがあったからな…。次からはあんな使い方はしないようにする」
「約束ですよ…?」
「ああ。約束だ」
彼女が心配してしまうのも無理はないだろう。イレーナ自身が儀式を経験して、魔力が使いすぎている状況を体験してしまっているからな。
あの時はオレが魔力を送ってあげることで、すぐに楽になることが出来ているはずだ。あの状況が続いていると思うと、イレーナにも心配をかけてしまうことになる。
それに…また『あんなこと』になってしまう可能性もある…。
あの時は勢いに任せて色々やってしまったが、少しだけ後ろめたい気持ちもあるから、なるべくなら自分の意思で行動できるように頑張りたいものだ。
「ワタシにも手伝えることはありませんか?できれば言ってください」
「そうだな…分かったよ。家の事とか聞きたいことがあるから、作るときに協力して?魔法具は難しいとか大変っていうよりも、魔力の事とかも心配だからオレに任せてほしい」
「わかりました」
すっかり『これからのこと』をみんなで考えるようになっていた。
他にも心配なことは色々あるけど、みんなの体力的な部分も心配だ。
馬車の中が快適とはいえ、旅が続くとそれだけで体力を消耗するものだ。オレ自身がそうだからな…、みんなは慣れているかも知れないけど、出来るだけ早く定住地を見つけたいと思っていた。
「早くイダンカに着くといいなぁ」
「せっかく馬車を作ったのに、また家を作るなんて大変じゃありませんか?」
「いやいや!あれは便利にしてるだけだからね。家にはもっとこだわりたいんだ!例えば──」
そんな話をしながら馬車を進めて行った。
──。
神に会ってから幾度目かの食事の時に、その会話が話題になった。
「信希、他のみんなとはいつになったら関係をはっきりさせるのだ?」
「え…」
「今はイレーナとユリアだけじゃろ?ワシらはいつなのかと思ってな」
「え、えー…」
「ボクもボクも!」
「ど、どうしよー…?」
また自分の悪い癖が出ているが、流石にここに居る全員の女性に囲まれると動揺が…、そんなことを考えながらイレーナとユリアに助けを求めようと視線を送るが──。
「頑張ってください?応援してます」
「うんうん、応援していますじゃ」
そんなことを言いつつガッツポーズをしていた…。
つまり自分で解決するしかないわけで…。
「あー…えっとー…」
「話しにくい事かの?」
「そうじゃない。これは元居た世界の時からで…、恋愛は得意じゃないんだ。お願いだからゆっくり…」
「そうなんですのっ、わたくしてっきり…」
「てっきり」って何やねん!オレはイメージとは違うみたいだった…。
「でも、この人数だ…。ぽんぽん決めて行かないとな?」
「ぽんぽん決めるって…」
「まぁまぁ、信希自身の意見も聞いてみようじゃないか」
「あ、ありがとう。オレはまだみんなの事あんまり分かっていないと思うんだ!その中でイレーナとユリアだけこんなに早かったのは、これまでの旅で親密になっていて理解できている順番だったんだ」
「なるほど、それもそうだな」
「えー?ボクは気にしないのにぃ…?」
「レストも気にしないのぉ」
「まぁまぁ、二人とも。信希の事も理解してあげないとな?この先ずっと一緒にいるんだ。甘えてばかりもいられなくなるんだぞ?」
「そ、それもそっか!」
「なるほどぉ!じゃあ信希といっぱいおしゃべりしてデートすればいいの!」
「そうそう。そういうことだな」
流石はロンドゥナ!とも思ったが…、おしゃべりとデートか…。でも確かにそれも必要だな。
「そうだな…。二人一緒に…ってのもいいんだけど、出来れば一人ずつにしてくれないか?オレのわがままばかりだけど、ここだけはお願いだ」
「そういうものか?」
「そうなの!」
「理由を窺ってもよろしいですの?」
「そうだな。イレーナと出かけている時に感じたんだ。二人でいる時だったらその人に集中することができるから…、魅力や良いところを見つけやすいって。どんな人かも分からないで結婚はできないよな…?」
「なるほどなるほど、確かに他の皆は二人以上で行動していることがほとんどじゃな。じゃあこれからは出来るだけ信希と二人で会話できる機会を設けることにすればいいのか?」
「そう…だね?」
「ワタシもできるだけ意識してみますね。気付いたらいつも隣にいることが多かったですから…」
「余もみんなのために頑張るのじゃ!」
「二人もああ言っているのだ、問題あるまい?」
「わ、わかったよ…」
妥協というか…、最大の譲歩というか、そんな感じでこれからは他のみんなの事も、もっと知る事が出来そうで安心した。
──。
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