第六十九話 すべてはみんなのために
この世界に来てから、本当に自分が変わっていくのが分かる。
控えめに言っても、元居た世界でオレはこんなにアグレッシブに行動していたとは思えない。何かにつけて言い訳を考えていた、女性の付き合いに対しても仕事に対しても、そして自分に対してもだ。
だが、その中でも唯一アニメやゲームの世界にだけは、真っすぐ自分の意思で行動出来ていたようにも思う。
その力を今こそ発揮する時だ。他でもないイレーナとミィズやロンドゥナのために。これは頼まれているわけでもない。彼女たちならば神の望みならと、再度召喚の儀式を執り行うだろう。だがそんなのをオレが見過ごせるはずもない。イレーナが倒れてしまっているのだって本当に憤りを覚えている。今すぐにでも彼女の元へ向かいたいくらいだ。
それでも彼女が『会わせる』ことを選んだから従っているんだ。もしもまた。こいつらを呼ぶために力を使うんだったらそれはオレの役目だ。
「難しくない。落ち着いてやればできる。みんなのためにオレは力を使うんだ…」
これまでに使ってきた魔法と、これから使おうとしている転移の魔法。この世界の常識で言えば、とてつもなく難しい事なのかもしれないが、オレにしてみればそんなのはどうでもいい。最終的に『そうなっていれば』いいんだ。
この空間をイメージした時に、空間の情報を記憶として水晶にも刻み込んだ。魔法そのものを投影するよりも、そちらの方がイメージしやすかったからだ。
今思い描いている『水晶に刻み込む』魔法を作る。そうすることで、移動先で魔法具を発動させれば、あちらの情報を水晶に刻み込むことが出来るはずだ。加えて、その魔法具に連動するようにこの空間への転移の魔法をイメージする。
「記憶させた場所への移動か…」
問題はここだろう。
誰かに力を貸してもらうか…?いや信希、自分の事を信じるんだイレーナたちを大切に思うならできるはずだ!
「この空間への転移のイメージを反転させたらどうだ…?」
かなり緻密な魔法になりそうだ。
これまでに使ったことのないイメージだ。
落ち着いて考えよう…。向こうの場所を記憶させるために一度魔法具の発動がある。その時に合わせて、場所の記憶に加えてそこへ戻ることの出来るように転移の魔法も組み込もう。発動時にはかなりの魔力消費も必要になるな。
あちらの場所を記憶と戻るための転移魔法、こちらへ転移してくる魔法を一度に発動させる。
「大切なのは最後にそうなっていることだ…。いくぞ…!」
自分の実力を信じる。みんながこれ以上無理をしなくてもいいように…。
これまでにない熱と水晶から発生する光に、オレの体力と魔力は信じられないくらいに奪われていく。
「う…どうだ…」
酷く消耗しているのがすぐに理解出来た。
だが今優先すべきはこの魔法具が完成しているかどうか…。
「鑑定の魔法具で…」
すかさず完成した魔法具を調べてみる。
魔法具:転移の術(想像された空間へ行くことが出来る)と使用場所を記憶させ再び戻ることもできる水晶。
一度目の使用で完成する。
使用するためには、発動のために魔力を用いる。
「なんとかうまくいったな」
これは自信作だ。
イレーナが隣に居たらどんな反応を見せてくれるだろうか…。
「これをあなたたちが普段居るところで使用すればいい。それにこの魔法具を量産すれば、さっき言っていた世界を見て回るためにも使える魔法具になっている」
「なんという男だ…」
「こんなに強い力は見たこともない」
「ああ?これは渡しておくからな。そっちのタイミングでこの空間に転移してくればいい。常識的な時間に来てくれよ?」
「も、もちろんだとも…」
「創造神…彼をこのまま、この世界に置いていてもいいのですか?」
「良くはない…が、もしも獣人たちから離すようにしてみろ。その力が我らに向くことになるぞ」
「ど、どうすれば…」
「彼の優しさを信じるほかあるまい」
「そうするしか…?」
あんたらは神と呼ばれているんだろ…。オレくらいの力を見ただけでそんな風になるなよ…。せめて偉そうにしていろよな…? なんかオレがいじめているみたいじゃないか…。
それから、少しだけ問題が発生していた。
この転移の魔法具を創造してからというもの、ローフリングで獣人を治療した時ほど酷くは無いものの頭痛や倦怠感を感じている。この魔法や魔力を使いすぎた時に感じるのは一体なんなのだろうか…。
魔力枯渇とかそういった類だと思うけど、儀式のあと倒れてしまったイレーナにも似た症状があったことからも、魔法の使いすぎには注意した方がよさそうだ…。
「そろそろ時間のようだな」
「では、信希殿。こちらの準備もありますので、ある程度期間を空けて訪れることにします」
「ああ、わかったよ。それまでに転移の水晶をいくつか準備できるようにしておく」
「では、また。くれぐれも世界を破壊しないようにお願いする…」
「そんなことはオレに言わないでくれ。ケモミミ様を害するものに向けた方がいいと思うぞ? もしもそんな現場を見つけてしまったら、オレは正気じゃなくなるからな?」
「ああ。承知した…」
自分のことを神だといっていた彼らは、この世界に居ることのできる時間が無くなったと言いつつ、自分たちのいた世界へと帰っていくみたいだった。
魔法具を作成して、自分の限界を超えてしまっているオレからすれば好都合だ。みんなに心配されるだろうからすぐに休むことになりそうだが、神たちと会話している時、ずっと黙ってしまっていた彼女たちにも話を聞こうと思っていた。
みんなと軽く話をしたのを覚えているが、早く休みたいこととイレーナの事が心配になっていたせいか、会話の内容をあまり覚えていない。
自分の体調の回復とイレーナの様子を確認するために、自室に戻りイレーナがすやすや眠っているのを見て安心したところで、オレは倒れるように眠りについた…。
──。
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