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第六十一話 最高の馬車

 イレーナと一緒に見張りをしていると、そろそろ明け方が近づいてきたのでオレは朝食の準備をすることにした。


「ワタシが準備しますよ?」

「いつもみんなにやってもらってるから、たまにはオレにもやらせて?」


「分かりました、ゆっくりしてますね」

「ああ」


 元の世界でも独り暮らしをしていたからな。ある程度の食事の準備であれば問題なくこなすことが出来る。

 ここまでの旅では、オレが長い時間夜間の見張りを引き受けていたから、代わりにみんなが朝食や夕食の準備をしてくれていた。


 最初はみんなに反対されると思っていた魔改造馬車が完成しそうなので、とても上機嫌だからみんなに色々してあげたいっていうのもあるんだけど。


 イレーナは焚火のそばでゆっくりお茶を飲みながら、オレが朝食の準備をしているのを眺めていた。


 ──。


 朝食の準備が終わりそうな時に、イレーナがみんなのことを起こしに行ってくれたので、料理が温かいうちに食事にすることができそうだ。


 みんなもすでに起きていたのかと感じるくらいに早く起きてきた。


「みんなおはよう」

「「おはよぉー」」

「おはようございます」


 みんなが揃ったところで、料理を取り分けて朝食をとっていく。

 そして、先ほどイレーナと話していたことをロンドゥナへ聞いてみる。


「なぁ、ロンドゥナ?オレたちがローフリングから脱出した時に使っていた認識阻害の魔法を教えてくれない?」

「ああ。構わないが?既にメキオン嬢の魔法で事足りと思っていたが」


「ちょっと別の事に使おうかと思ってね」

「ふむ?」


「今は皆で交代しながら夜間の警戒をしているけど、ロンドゥナの魔法を魔法具にすることが出来れば、それを馬車に使えば夜間の警戒が必要なくなるんじゃないかって話をしていたんだよね」

「なるほどな、確かに信希ならそのくらいの事だったらできそうだな?」


「任せてくれ」

「じゃあ食事が終わったらやってみようか」

「信希様と一緒に居るようになってから、わたくしの常識が狂っていきますの…」

「…そう?」


 そして、馬車の完成へ向けて必要なパーツがどんどん揃っていく。


「朝から馬車の事を済ませてから出発しますか?」

「あー…そうだな?急がないなら馬車を作っていきたいね」


「そうしましょう。じゃあ朝食をすませたら、信希が馬車を完成させるまでゆっくりしましょうか」

「「はーい」」


 ──。


 準備は万端だ。

 ロンドゥナから教えてもらった魔法も、最初に作った魔法具を応用したような内容だったのですぐに習得することが出来た。


「よし、じゃあ作っていこう」


 みんなが朝食を済ませて、お茶や談笑をしながらゆっくりしているのでオレは馬車の作成に集中していく。

 ほとんど組み立ての様な作業なので、そこまでの時間は掛からないと思う。


「改めてみると広すぎたか…?」


 元の馬車のサイズは、幅が二メートル長さが四メートルくらいの大きさだったけど、必要な大きさを考えていたら大体三十六倍ほどの空間を創造していた。


 内部の構造は、何かあった時にすぐ外に出られるように入口の方からみんなの個室がある。

 入って右側にはみんな用の個室がズラーっと並んでいる。

 左側にはオレの部屋があってその隣に洗面脱衣とトイレを準備した。これはオレ用で、女性用にはさらにその隣へ壁を作って大きめの洗面と、トイレを二つ、その奥に大浴場を作った。

 ここまでで大体同じくらいの奥行になったので、その先にリビングダイニングキッチンを作った。大体五十二畳ほどの大きな空間になってしまった。

 すこしデカすぎるかと思ったけど、用途に応じてリフォームなんかもできるようにしたかったからこんなことになってしまった。


「よし。まずは水回りを作ろう」


 水回りは、想像した空間と作っていた魔法具を組み合わせていくだけなので、作業はさくさくと進んでいく。

 全部の機能が同時に使えるかの確認も忘れない。

 元居た世界でも大体の家では、二つ三つと水道を使おうとすると出る勢いが弱くなったり、お湯を出しているのに冷たい水が出たりする。あれは本当にストレスになる、それに九人で生活しているならなおさらそういったところにこだわりたい。

 全部の水道を解放させてみるが何事も無いように、通常の勢いで水が出続けて稼動しているのを見て思わず感動する。


「やっぱり魔法具を創造する時に、大量に水が湧き出して水圧で停止できるようにしていたのは天才だったかもしれないな」

「これがそんなにスゴイ事なんですか…?」


「わぁっ!い、イレーナか…また集中して気付かなかったよ」

「とても楽しそうだったので、ずっと見ていました」


「そう…。ちなみにこれは、オレが元居た世界でも現実的に作れないと思うよ。ここを回すと水が出てくるんだけど、複数の場所で一緒に使うと水の勢いが弱くなったりするんだよね」

「なるほど…たしかに勢いは変わりませんね?」


「でしょ、匠のこだわりポイントだね」

「ふふっ、そうですね。それにしても広い部屋ですね…。これが馬車の中なんて思えないです」


「これもイレーナのおかげで成功したと言ってもいい。もう少しで完成するから、どんどん組み立てていこう」

「はい、見ていますね」


 次は床下に設置した魔法具の確認をしていく。

 既にある程度の水を流しているが、溢れたり想定しているところに水が溜まっていたり、問題がなければひとまずは完成にしていいだろう。

 あとは濾過の装置だったりにバクテリアが繁殖してくれれば、完璧に機能することになる。


「よし、溢れたりはしていないな」

「信希?何を見ているんですか?」


 おもむろに床を開け下を覗き込んでいたら、そんな風に感じるかもしれないな。


「ああ、これはトイレとかお風呂の水がちゃんと流れているか確認しているんだ」

「…?床の下を水が流れるんですか?」


「ちょっと違うけど…。見てもらった方が早いかな」

「はい、わかりました…」


 あんまり綺麗なところではないが、理想の家を作るためには必須の空間だからな。自信作とまではいかないけど、床下の配管スペースをイレーナに見せてみる。

 床下を覗き込んでいる彼女が、驚きの声をあげるのは無理もないかもしれない。


「な、なんですかこれは…」

「その筒みたいな中を水が流れているんだ」


「こんなことが出来るなんて…」

「本当に便利だよな」


「そして、この水を集めているわけですね…」

「その通り!」


 床下から頭を出したイレーナの髪が少し乱れていたので、気になって見つめているとケモミミが『ぱたたっ』と動いて…。ついついオレは頭を撫でていた。


「んっ…」

「少しだけ髪が乱れてる」


「はい…ありがとうございます…」

「…」


 くっ…。ケモミミに触りたいが…流石に今は止めておこう…。


「次はキッチンだな」


 オレは残りのキッチンと冷蔵庫を作るために、リビングのある方へ進んでいく。


「ここがみんなで食事や生活できる空間にしてみたんだ」

「…」


「イレーナ?」

「広すぎる…」

「大きい方が便利かと思ってね。じゃあキッチンを作るから、中を見ててもいいよ?」

「ワタシもキッチンを見ます」


 オレは既に創造していた、キッチンの本体と食器棚と冷蔵庫になる箱のところまで行ってみる。

 まずは水、お湯が出るかのチェック。問題なし。

 次にコンロを作っていく。作っていた炎の魔法具を設置して、手前で発動できるように水晶をはめ込んでいく。

 問題なく炎は発動できるので、あとは火力調整の魔法具を作る。

 鑑定の魔法具の様に、プレートが現れるようにしてタッチで火力の調整を出来るようにイメージする。炎は常に出続けるので、コンロの入り口を開閉させることで火力の調整を可能にした。


「よしよし、いい感じだな」

「これはどうやって使うんですか?」


「まず、こっちの調整用の水晶を起動して、全部の火力がゼロになってるか確認してから、炎の魔法具を起動させる」

「はい──」


「次にこの調整用のプレートが見えるよね、これを触って火力を調整する。簡単でしょ?」


 実際に起動させて使い方をレクチャーしていく。


「すごい…信希は先ほどの魔法具を作るときに、ここまでイメージ出来ていたんですね」

「まぁ、そうなるね」


「こんなに便利なものが作れるなんて…」

「これからは料理も楽に作れると良いね」


 最後に冷蔵庫を作っていく。これは魔法具を起動させるだけなので、何の問題もなく稼働させることが出来た。

 氷をイメージしているので、冷凍庫から冷蔵庫へ冷気が流れるように調整することでイメージ通りの冷蔵庫を作ることが出来た。


「これが冷蔵庫だね。下の箱は氷のように冷たくて、上の箱は食料を保存するのに適している温度になっている」

「本当に冷たい箱が出来ている…」


「氷室より便利でしょ?」

「ええ、はるかに…」


「よし、あとは入口に認識阻害を設置すれば完成だな」

「そして、早い…」


 本当に魔法ってやつは便利だな。こんな大仕事でもものの三十分ほどで完成させてしまった。


「問題はどうやって認識阻害を解除させるかだな…」


 魔法具に触れることで解除させるのは簡単だけど…、毎回触るのもなぁ…。家に入るときに絶対にしないといけないことって…。


「靴を脱ぐことで発動させるか」

「…?」


 不思議そうな表情をしているイレーナを余所に、オレは魔法具を作っていく。

 外から見えるのは元の馬車の中で、馬車の中に入って靴を脱ぐことで認識阻害を解除させる。靴を脱いだ本人だけでに設定するのも忘れない。


「よし、これでいいんじゃないか?」


 一度外に出て、魔法具を発動させていく。

 馬車の中にいたイレーナの姿が消えて、見慣れた馬車の中が現れる。


「よしよし、いい感じ」


 そして、再び中に入って靴を脱ぐ。


「すごいですね…」

「完璧じゃない?家の中では靴を脱いで生活するからね」


「この馬車は城よりも便利に出来ているかも知れませんね…」

「そうだね、この世界にはない知識モリモリの魔改造成功って感じだね」


「これが魔改造ですか…」

「魔法で改造したから魔改造じゃないんだよ?」


「…?」

「ま、まぁ!みんなにも完成の報告と設備の使い方を説明しようか!」


 みんなに完成した馬車のお披露目をすることにした。


 ──。





最後までお読みいただきありがとうございます!


原稿のストックはもう少し先まであるのですが、今日はキリがいいのでこのあたりにしておこうかと思います。

沢山投稿したので、楽しんでもらえるととても嬉しいです。


最後に、評価やいいねで応援していただけると泣いて喜びます。

いつもありがとうございます!よろしくお願いいたします!

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