第五十八話 馬車魔改造計画Ⅴ
オレはユリアと共にテントを出て、イレーナが見張りをしてくれている馬車の方へ向かう。
ユリアはまだオレの腕から離れてはくれないみたいだ…。
「ゆ、ユリアさん…?このままじゃイレーナに…」
「後ろめたい事じゃないのじゃ。イレーナも安心するのじゃ」
「そ…そんなもんなのぉ…?」
「女同士だから分かることもあるんじゃ」
なんだか押し切られてしまった…。
「あ、信希。おはようございます。体調はいかがですか?」
「おはよう、うん。随分よくなったよ問題ないと思う」
「それはよかった」
腕にしがみついているユリアよりも先に、オレの事を心配してくれているのは、流石イレーナと言った感じか…?
「ユリアさんも上手くいったみたいですね?」
「イレーナのおかげじゃ。体の方はまだじゃが、そこは信希さまの返事待ちということじゃな」
イレーナとユリアは嬉しそうに笑い合っていた。
オレの感覚からすれば、かなりの修羅場になってもおかしくないんだけど…。
本当にこの世界ではこういったことが普通で、全部オレの杞憂ってことなんだろうか…。
どこか居心地の悪さを感じていたオレにイレーナが告げてくる。
「信希、黙っていてすみませんでした。でも、ユリアさんの気持ちをワタシから告げるのは筋違いですから」
「余も…信希さまの気持ちも考えずに…申し訳ないのじゃ」
「そ、そんなことないよ。オレが心配していたのは、二人の関係が悪くなっちゃうことだけだ…。ちゃんとお互い納得してるならむしろ嬉しいっていうか…」
「流石は信希さまじゃな?」
「ええ、そうですね」
二人はそう言いつつ見つめ合って笑っていた。
本当に親友という言葉が似合いそうだ。
「その…オレも自分の常識っていうか、二人の事も真剣に考えているから少しだけ時間をくれない?中々、自分の中で折り合いをつけるのが難しくて…」
「はい、もちろんです。この世界の分からないことは聞いてくださいね?」
「余の事もそれだけ想ってもらえるのなら、勇気を出してよかったですじゃ」
「二人とも本当にありがとうね」
オレの言葉に、彼女たちはにっこりと笑い返してくれる。
「では、余はそろそろ眠らせてもらいますじゃ。朝まで休みますじゃ…」
「ああ。見張りありがとうね、ゆっくり休んでくれ」
「おやすみなさい」
ユリアはそのまま天幕に向かっていった。
─。
残されたオレとイレーナは再び夜間の警戒を続けていく。
「信希は魔法具を作りますか?」
「ん?魔法具?」
「はい、馬車を魔改造するんでしょう?」
「いいの?出来るなら早く完成させたいけど…」
「いいですよ、信希が居れば警戒も完璧でしょうし」
「そ、そうだよねー…」
先日の女性陣の話し合いの時に、内緒で魔法具を作っていたことを言っているんだろうか…。イレーナは鋭いからな…、誤魔化すこともできないだろうしオレは馬車の魔改造用に水晶で魔法具を作ることにした。
「ワタシも見ていますから、すこしだけ説明しながら作ってもらえますか?」
「そういえば、魔法を教えてほしいって言ってたね。もちろんいいよ」
「ありがとうございます」
「分からない時と聞きたいことがあったら言って?」
「わかりました」
少しだけ恥ずかしいような気もするが…、イレーナのお願いはできるだけ叶えてあげたい。
これまでのお礼…というわけじゃないけど、彼女は大体のことが一人で出来てしまうからな。頼られているのが素直に嬉しい。
「そうだなー。必要になると思っている魔法具の残りは『炎の生成、水の生成、お湯の生成、異空間収納(排水用)、水質浄化、火力調節用の空間、冷蔵庫用の冷気生成、馬車の中用に認識阻害』こんな感じか」
「ま、信希!いきなりですけど…」
「ん?どれかわからない?」
「水質浄化と冷蔵庫と冷気生成って何ですか…?」
「あー、この世界には無いものばかりかな?水質浄化は汚かったり汚れたりした水を綺麗な飲める水か海とか自然に戻しても問題ない水にすることだね」
「そ、そんなことが出来るんですか…?」
「ああ、オレの元居た世界だったら水質を決められた基準まで綺麗にしてから海に戻すなんてことが日常的に行われていた」
「その知識を信希は持っているんですか…?」
「ん-、詳しくは分からないけど、簡単な構造なら分かるよ?」
「す、すごい…」
「次は冷蔵庫だね。とっても簡単に言えば、食べ物とかが腐りにくいように食べ物とか飲み物を冷やして置ける小さな部屋みたいな感じかな」
「氷室のような感じですか…?」
「ああ、それが近いね。でも氷が必要じゃなかったり、そもそも氷自体を作れたりするのが便利なんだよね」
「そ、そんなことが…本当に出来ると…?」
「これも詳しくは分からないけど、原理を知っている。それに元居た世界だったら、一家に一台は必ずあるものだな」
「信希はすごく高い技術の世界に居たんですね…?」
「そうだね、世界の中でもかなり高い水準の国に住んでいたね」
「だったら、この世界は過ごしにくくありませんか?」
「ん-どうだろう。オレはそこまで苦に感じないけど、ダメな人は発狂しちゃうかもね」
「ですよね…」
「それにこの国も魔法と魔物が存在していることで、あっちの世界とは別の進化をしてるからな、それはそれで興味深いよ」
「な、なるほど…」
「最後は冷気生成か、一応冷蔵庫用に使おうと思っている。これは原理の説明だからな…オレも詳しいわけじゃないんだ。空気を圧縮することで空気を冷やす方法と、ガスを使って冷却する方法と、気化熱を利用したものだったかな…。これくらいの知識しかないんだ」
「…?どれも理解できないんですけど…」
「そうだな…」
オレはイレーナに説明するために、あれこれ考えてみる。空気圧縮と断熱膨張の説明って出来るんか…?
「あっ。そうだ」
オレは鞄の中から捨てずに取っておいた空のペットボトルを取り出す。
「それは?」
「これはね、この世界に来た時に持っていたペットボトルってものだね。本当はあっちの世界で作られているモノなんだけどね」
「ペットボトル…。それをどうするんですか?」
「まずはしっかりキャップを閉めまして、この中に空気を沢山送り込みます」
オレは自分の能力を最大限活かしていく。
簡単な手押しのポンプを創造してみた。これをペットボトルに接続できるようにチューブも作る。爆発だけしないように気を付けよう。
「このポンプは空気を送ることが出来る装置みたいなもの」
オレはイレーナの手に向かってシュコシュコと空気を送って見せる。
「なるほど。理解できます」
「それでこのペットボトルの中にどんどんと空気を送り込む」
「…」
イレーナは真剣な眼差しで見つめていた。
「触ってみて?」
空気でパンパンにしたペットボトルをイレーナに触ってもらう。
「温かいですね…」
「そう、次はこの空気を一気に抜いてみるよ」
オレはそう言いつつキャップを緩めていく。
─プシュ!
空気が勢いよくペットボトルから抜けて、ペットボトルの中に煙のようなものが発生する。
イレーナは初めての経験に、思わず体がビクッとしていたのが可愛い。
「触ってみて?」
「今度は冷たい…」
「この原理を利用して空気を冷たくする方法が多く使われていたね」
「す、すごい…」
「ガスは危ないし創造できるかどうかも分からないから説明できないけど、最後の気化熱も簡単だよ」
「…」
オレの言葉に集中しているのか、イレーナは話に夢中と言った感じでワクワクしている。
「この水を使おう。イレーナ手を出して?」
「はい」
そしてオレはイレーナの手に水を軽く落として引き延ばす。
「どう?」
「冷たい…ですよね」
「そう。水の温度は普通なのに、引き延ばすだけで一気に冷たく感じるよね」
「はい。そんな感じです」
「これが気化熱っていう現象だね」
「…?」
イレーナは納得できないような表情を浮かべていた。
「水を温め続けると、どんどん無くなっていくよね?」
「はい…」
「この水が無くなっていく現象を蒸発って言うんだ」
「蒸発…」
「その蒸発を起こりやすくするのが、今やって見せた感じだね。お風呂上りとか、濡れたままでいるとすぐに寒くなるだろ?あれが今やったことに一番近い」
「なるほど…信希は本当にすごいですね…」
「オレの居た世界では、こういったことを子供の時に勉強するんだよね」
「な、なんてこと…全員ですか…?」
「そう。義務教育って言うんだ。この国に生まれたらこれだけは勉強してくださいねーっていうことだね」
「驚きの連続です…」
「だろうね。オレもこの世界に来た時に同じ感覚になっていたよ」
「少しだけ分かる気がします…」
イレーナは本当に勉強熱心なんだろうなと思わせるので、オレもつい夢中になって教えることに集中していた。
「これを使って冷気生成をするんですね」
「いや、多分難しいから…氷をイメージして魔法具を作ろうかと思っているんだけど…」
「ええ…?ふふっ。じゃあ、今のはなんだったんですか?」
「イレーナが楽しそうだったからつい…?」
使わないことをわざわざ説明しているオレに、イレーナは呆れたように笑っている。
それに集中しているイレーナも可愛いかったからな…。ケモミミもピクピクとオレの言葉に反応していたし…。
ある意味で暴走していたのかもしれない…。
──。
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