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第五十二話 朝食

「イレーナ?起きられそう?」

「はい…信希おはようございます…」


「その…昨日はありがとう。嬉しいことがいっぱいだった」

「はい、こちらこそです…」


 彼女のカワイイ寝顔をもっと見ていたい、独り占めにしておきたいけど、こんなに来なくていいと思った朝は人生で初めてじゃないだろうか。


 オレが起きようと体を起こそうとしたとき、イレーナがオレを呼び止める。


「信希?」

「ん──」


 彼女の方へ振り向くと不意に口づけを交わしてくる。


「これからも、よろしくお願いします…」

「ああ、こちらこそよろしくね」


 オレはその可愛らしくて愛おしい彼女の頭を優しくなでる。


「耳を触るときは言ってくださいね…?」

「ああ、あの時みたいに絶対にしないよ」

「ならよかったです」


 イレーナはこれまでに見たことのない、ふにゃっとした笑顔で返事をしていた。

 かわいいな。本当に最高だ…。


「馬車を出ようか、朝食の準備もしないと」

「そうですね」


 オレたちは起き上がり、軽く身支度を整えて馬車の外へと出る。

 雨は既に止んでいるようで、今日の天気はとても良く快晴といった具合だ。まだ太陽こそ上っていないが空を見上げれば、もうすぐ周囲も明るくなってくるだろうと思えた。


「今日は進めそうだね」

「そうですね、晴れてよかったです」


「イレーナ体調は大丈夫そう?無理そうならここでもう少し休んでもいいけど」

「馬車に座っているくらいなら大丈夫だと思います…。途中で体調が悪くなったら言いますね…?」


「ああ、遠慮しないで言ってくれ」

「はい」


 そんな会話をしつつオレたちは、朝食の準備をするべく昨日設営していた休憩用のスペースに到着すると─


「信希さま、おはようじゃ。イレーナもおはよう」

「おはようユリア」

「おはようございます」


「今、朝食の準備をしておるからの、少しだけ待っててほしいのじゃ」

「何か手伝おうか?昨日の見張りもしてもらってるし」


「なになに、気にすることないのじゃ。イレーナもゆっくりしておれ」

「ありがとうございます」


 イレーナはそう言うと、緩やかに燃えていた焚火の近くに座っていた。


「ほれ、信希さまもじゃ」

「あ、ああ。ありがとう?今日はえらく優しいな…?」


「なに当然じゃ。余も嬉しいのじゃ」


 さすがにみんなにもバレているんだろうか…。そもそも隠すつもりもないけど、どうやら女性陣の中では『そういうこと』になるのが前提のような打ち合わせがされていたみたいだし…。


 オレはユリアに促されるままイレーナの隣に座ることにした。


 そうすると朝食の準備をしていたユリアがこちらを見て、ぱたぱたとイレーナへ向かって駆け寄ってくる。そして、耳元で何かを囁いているようだった。


「はい…」


 イレーナがそう返事をしているのは聞こえたので、少しだけ気になってしまった。


「なになに?オレには秘密なこと?」

「そうですじゃ。いくら信希さまと言えど余たちにも仲というものがありますじゃ」


「そっか、じゃあしょうがないね」

「もうすぐ朝食じゃからゆっくりしておれの」


 イレーナは少しだけ照れているようだったが、全然嫌そうではない。むしろ安心したような、どこかそんなことを思わせる表情を浮かべていた。


 ──。


 二十分程経っただろうか、その頃には他のみんなも起きてきて朝食を食べる準備も整っていた。


「くんくんっ」


 オレの隣に座ったシアンが何やらオレのことを嗅いでいる…。可愛いけど…、できれば今はやめてほしいんだけど…。


「信希!前よりもカッコよくなってる!」

「え?そうかな?よくわかんないけどありがとうね」

「うんっ」


 シアンが何を言いたいのか理解できなかったが、褒められているので一応お礼を言っておく。


 そしてオレはユリアの作ってくれた朝食に手を付けていく。

 食べ始めた頃に、少しだけ昨日の事で気になることがあった。


「そういえば、その神を呼ぶ儀式みたいなやつ?あれはどのくらい準備が掛かりそうなの?」

「そうだな…準備といっても呼べる日が限られているといった方が正しかったかもしれないな」


「特別な日があるとか?」

「そうだな、満月の夜にイレーナの力が一番強くなる。その時に合わせて私たちも力を発揮できるように合わせる感じだ」


 満月の周期ってどのくらいだっけ…。そもそもこの世界に来てから、満月を見たっけ…。

 毎日毎日月を観察していれば分かったかもしれないが…、そこまで天体に興味があったわけではないので、元居た世界とは少しだけ月が違って見える。そのくらいしか今のオレには分からなかった。


「次の満月はいつ頃だろう?」

「それはイレーナが一番分かるはずだ。私も把握しているわけではない、白狐人族の女性が正確に把握できる」


「それはすごいな。イレーナはそういうの分かる?」

「そうですね。満月の日は特別ですから…」


「オレたちが出会ってから満月の日ってあったっけ…」

「一度ありましたね。出会ってすぐのころだったと思います」


「だとしたら…」


 オレは少し曖昧な知識で満月の周期を思い出そうとしていた。


「出会ってからもうすぐ一カ月経つよね、だったらそろそろ満月が来てもおかしくないな」

「そんなことが分かるんですか…?」


「いや、分かるんじゃなくて周期があるはず…。これも元居た世界の知識だから、こっちの世界でも当てはまるかは分からないけど」

「そうですか…でも満月は近いと思います。その日の朝には分かると思うので、準備もゆっくりできるかと」


「なるほど…。今は進むしかないか」

「そうだな。朝に分かり次第準備すればそれなりの環境で儀式をすることもできるだろう」


「分かった、それまでに色々考えておくよ」

「まぁ、気楽にな」


 そしてオレたちは朝食を済ませ、片付けと出発の準備をしてから再びイダンカに向けて歩みを進めていく。


 ──。






いつもありがとうございます。


今日は投稿数多めで頑張ります。

よろしくお願いいたします。

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