第五十一話 女性陣の密会Ⅲ 閑話(インターミッション)
「それで、信希が御使い様だと?」
「はい…これまでの情報で『かも?』ってみんなで話していたんです」
ワタシの種族の中でも御使い様については少し謎が多い話だった。いくら物知りな種族と言えど限度というものはあるわけで…。
「ふむ、なるほどな。確かにあそこまでの強大な力を持っているのであれば御使い様の可能性は十分に考えられる」
「ロンドゥナさんも、御使い様についてはそこまで詳しくは無いのでしょうか?」
「む、どれほどの知識を持っているのか知らないがそこそこに詳しいと思うぞ」
「本当ですか!?ワタシたちの中では、『役目を持たれているのでそのお手伝いをする』くらいの知識しかありませんので…」
「まぁ、そうだろうな。我ら竜族が御使い様について詳しいのは、その知識を皆に伝えるためでもある」
「そ、そんなことが…」
ロンドゥナさんの知識は本当にすごい。
信希が彼女を引き連れてきた時から、只者ではない雰囲気を感じていたが竜族というのはそこまで影響力のある種族なのかと、あらためて思い知らされる。
「それよりも、その信希たちは遅いですね…」
「まぁ、信希の事だ。大きな問題こそ起こさないだろう。信じて待っているしかできまい…。明日の朝になってもここへ来なければ迎えに行こう?」
ミィズさんはワタシが心配していると理解して、それ以上に強く言うことはなく落ち着かせてくれているのが分かる…。
「ここまで来ることが出来ない何かが起こっているんだろう。街を出た時に門が閉じられていたのが関係していそうではあるがな」
「そうですね…」
そう、信希との約束通りに今夜はここで待つしかない…。心配だけど…、ケモミミ様を連れている信希は本当に何をするか分からないから…。別の意味でも心配になる。
信希のことについて三人で話している時に、聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえてくる─
『あそこだよっ!』
「─信希こちらです!」
一目散に声のする方へ向かっていく。
──。
「今晩、時間が取れそうだから女子全員で話し合うか?」
「そうですね…。夜間の見張りを信希にお願いして話し合いましょう」
急に天候が悪くなりそうだったので、今日はここで野営することになった。
そこで天幕などの野営設置しているときに、ロンドゥナさんから提案されるままに夕食後に話し合いすることになった。
──。
「信希、少し女性だけで話をしたいのですが…」
「ん?ああ、構わないよ?いつも通り就寝用の天幕を使って?オレは見張りをしているよ」
「ありがとうございます。では、みなさん行きましょうか」
「「はーい」」
ワタシの言葉で、皆さんが天幕に入っていく──。
「さて、何から話そうか」
「みんなが誤解無く理解できるように最初からでしょうか…」
「そうだな、それがいいだろう」
「なになにー?何の話ぃ?」
「信希のことです」
「信希の?何かあったのぉ?」
「以前に信希が御使い様かもしれないという話はしましたね?ロンドゥナさんが御使い様にも詳しいようなので、今後の信希とのことを考えようって話になったんです」
「なるほどっ!」
「も、もしも信希が御使い様だったらどうなるんですか…?」
「そうだな…、どうなるかは信希次第になるが、そもそも御使い様には『役目』が与えられている。他ならぬ神からの使者だからな、世界を救いになったり大きな災いから守ってくれる存在でもあるわけだ」
「それってすごい人だよね…!」
「確かにその通りですじゃ。じゃが、そんな重要な役目を持たれているのであれば…余らが一緒じゃと迷惑が掛かるんじゃないのかの…?」
「何それ!?ボクは信希と一緒がいいんだけど!」
「そうなんです…。そこをみんなで話し合おうっていうことですね」
「ふんふんっ」
シアンさん、レストさんは本当に信希と一緒に居たいんですね…。信希と出会ったときから、本当にべったりでしたから…。
「こればかりは我らだけでは判断できないから、信希にも聞いてみる必要があるんだが、そのあたりも決めないとな」
「このまま…というわけにはいきませんよね…?」
「そうだな…。もしも信希が御使い様だった場合に、このままで役目を果たせるのなら問題ないが…、最悪の場合も想定されるからな。その確認はしておいた方が良いと思うぞ?」
「です…よね…」
「何を悩む必要がある。信希の事を信じるのだ。信希が御使い様であっても、ワシらを連れて行ってくれるようにすればいいじゃあないか」
「どうやって!?どうすればいいの!」
「そうじゃな。この中で一番の適任はイレーナ以外にはおらんじゃろう。シアン、レスト、ポミナあたりでも良いが…手早くとなるとイレーナ以外居らんな」
少しだけ笑っているミィズさんが何を考えているのか、少し分かるだけに、確かにそれがみんなの要望を叶えるのに一番合っているような気もする…。
「イレーナおねーちゃんが?何をするの??」
「まぁまぁ、こればかりはイレーナ次第だ。信希ともかなり仲が良くなっているみたいじゃないか」
「…そうですけど…」
「不安かの?信希さまなら心配せずとも大丈夫じゃ。ちゃんとイレーナの事を好いておるよ」
ユリアさんは優しくそう告げてくる。
「まぁ、なんてことですの…。みなさま信希様の事がお好きなんですのね」
「かっかっか、そうじゃな。ロンドゥナは分からんが、他の皆は信希と一緒に居るために行動しておるの?」
「うん!信希と一緒がいい!」
「レストも信希以外の人は考えられないのぉ」
「やっぱり信希様は只者ではありませんの…、わたくしも加えていただこうと思いますの」
「ついに人族の女性も信希の魅力に憑りつかれてしもうたか!かっかっか」
ミィズさんは愉快そうに笑っているけど…。本当に大丈夫だろうか…、ここで信希との間に距離が出来て、もう元に戻らないのかと考えてしまう…。
ワタシはこんなに憶病だっただろうか…。確かに信希のことは好き…、出来ればまだまだ一緒に居たい…。でも…ギクシャクして、信希様が御使い様の役目を優先させてしまったら…。
その時、不安と恐怖で冷え切っていたワタシの手に温かい温もりを感じた。
「イレーナ、大丈夫じゃ。もし何があっても余が支えてあげよう、信希さまの眷属で一番深い仲じゃからこそ分かることもあるじゃろ、信希さまはイレーナの事を好いておるよ。愛していると言ってもいいじゃろ」
「ユリアさん…」
「余がここまでしているのじゃ。おなごならちゃんと男の一人も虜にして見せよ?ここでうまくいけば、ずっと一緒に居られるかもしれぬしの?」
彼女は信希に向ける笑顔とは違う、とても優しく、そしてワタシの事を本気で応援してくれている…。
虜にして見せよ…か、今までこんなこと考えもしなかった…。
それに、これはワタシのためだけじゃない…。ユリアさんもきっと一緒に居たいに決まっている。なのにその役目をワタシに託してくれている、この人たちを裏切るようなことはしたくない!ちゃんと信希に伝えよう…!
「ユリアさん、ありがとうございます。ワタシ頑張ってみます!」
「そのいきじゃ!」
ワタシたちは見つめ合い笑いあった。
「あー、イレーナ。そのまま最後まで行ってしまってもいいぞ。ここから見ておるから馬車を使えばよい、見張りはワシとロンドゥナが引き受けよう」
「なっ!いきなりそんなことになりませんっ!」
「ん-。それはどうじゃろうな。あまりの可愛いイレーナに信希さまが我慢できなくなる、なんてことは十二分にありえるのじゃ」
「ちょ…ちょっと…」
「まぁまぁ、なんてこと…とっても大切な瞬間に…イレーナ様、わたくしも応援してますの!色々なことを無視して一人の人間として応援してますの!」
「ボクも応援してる!」
「それが上手くいったら信希と一緒に居られるならレストも応援するのぉ!」
「が、頑張ってくださいっ!」
「とりあえずは、一旦みんなで戻ってから信希が御使い様かの確認だな。それからは、イレーナに任せよう。見張りの件も引き受けた、覗き見るようなことはしないから安心していいぞ」
ワタシは皆から後押しされて、自分の気持ちを伝える覚悟を決めた。
どんな結果になるか分からないけど、後悔はしないようにしよう。
「…じゃあ行きましょうか…」
「「はーい!」」
──。
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