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第五十話 契り

 どのくらいの時間が経っただろうか。

 いや、正確には自分が正気に戻るまでにどのくらいの時間が掛かったんだろうか。


 オレが覚えているのは、これまでに感じたことのない感触が無くなり自分の唇に冷たさを覚えたあたりではないだろうか。


「その…、勝手にごめんなさい…」

「あ、謝らないでくれ…」


 離れて行く彼女を見つめながらそう告げる。

 その視線に気づいたのか、イレーナはハッとして再びオレにしがみついてきた。

 恥ずかしいのか、表情を見られたくなかったのか、先ほどよりも力強く。


「嬉しいよ、イレーナ」

「そう…ですか…」


 なんだこれは…、彼女への気持ちが大きくなっていくのが分かる…。これが愛とかいうものか…?

 全部彼女がリードしてくれて…、どんどんと進んでしまったがオレは今とんでもないことをしているのではないのか…。

 愛しのケモミミ様とこんな…。


「座る…?」

「…」


「イレーナ…?」

「あ、あの…」


「どうかしたの?」

「もう少しだけ…」


「ああ。もちろんだ」


 ─。


 少しの間…、いやイレーナが自ら離れるまで、オレは彼女のことをしっかりと抱きしめていた。


「もう大丈夫?」

「はい、ありがとうございました」


「いやいや、オレの方こそありがとう」

「はい…」


「お願いはこれだけでよかった…?」

「も、もう一つだけ…」


「うん、いいよ。何かな?」

「ば、馬車に…」


「ん?馬車?」


 馬車がどうしたんだろうか。

 突然の事だったので呆気に取られてしまう。


「…馬車に行きましょう」

「い、いいけど?」


 オレはイレーナに連れられるままに馬車に入っていく。

 馬車の中は真っ暗かと思っていたが、小さな蠟燭に火が点いていて少し薄暗いといった感じだった。

 そして馬車の中はいつ準備したのか、両側にある椅子の間へ木板を並べることでベットのように使うこともできる。そして、丁寧に布団まで敷いてあった。

 な、なんだこれ…。


「見張りは大丈夫?」

「はい、ミィズさんにお願いしていますから」


「そ、そうなの…?」

「ですから…」


 どうなっているんだ…。ミィズにお願いしている…?予めこうなることになっていたということか…?

 そんなことを考えさせないように、再びイレーナが語りかけてくる。


「今夜はこのまま一緒に居たいです…」

「…」


 なんてことだ…。それはまずくないか…。オレだって男だ…、少し前にあんなことになってそれを意識しないで過ごせるわけがない…。

 絶対にまずいことになる…。主にオレの尊厳が…。


「ダメ…ですか…?」

「ちょ、ちょっと待って!」


「…?」


 イレーナはいつものように、何かをねだる子供のような瞳で…、オレの弱いところを知っている小悪魔のように、このままゴリ押ししますよと言わんばかりの表情でオレのことを見つめてくる。

 は、反則だ…。


「だ、ダメじゃないけど…」

「けど…?」


「抑える自信ないんだけど…」

「…」


 オレは何か間違いが起きないように、イレーナが納得してくれるまで説明しようと決めた…。

 この世界での常識をあまり知らない…、いや元の世界でもこういう状況になったことがない…。

 だからこそ自信がない…、もしも彼女を傷つけてしまうようなことになったらオレは後悔するだろう。


「今日は…別々でもいいんじゃないかな…」

「ですよ…」


「え…?」

「いいですよ…」


「別々に?」

「違います。抑えなくても…」


 いいって…なにが?え?待って待って!つまりそういうこと!?いやいや待て待て落ち着くんだ…。

 え?展開早くない?こんなもんなの?みんなはどうだった?あれ?オレおかしい?

 ま、まずくない?いや…まずくないのか…?つまりこれはあれではないのか。現実世界にはないとされる都市伝説的な『据え膳食わぬは男の恥』とかいう自分勝手な男の欲望のあれじゃないのか…?


「軽蔑しましたか…?」

「いや、ちがう…こういうのは分からないんだ…。どうしていいのかも…」


「ワタシも一緒です…」


 おい信希よ。お前は阿呆か?さっき自分でも言っていたじゃないか。全部イレーナにリードさせて恥ずかしくないのかと…。

 そして理解しているはずなのに実行できない。なんて情けない男なのだ、そのうえ一番大切な部分も彼女に押し付けて最低だな。

 彼女のことを本気で思うのであれば、もっと彼女のことを優先して考えないか?これは二人にとっても大切なことだぞ。しっかりしろ!


「イレーナ。ありがとう。とても嬉しいよ。でも、オレの常識で言えば少し早いような気もしているんだ。と、とりあえず!一緒に寝るくらいからでもいいかな…?」

「はいっ、もちろんです!」


 イレーナは満面の笑みで、これまでの不安そうな顔を忘れてしまうくらいの魅力的な表情を見せてくれる。


 ─。


 少しだけ離れて、横並びに彼女と布団に入っていた。

 緊張からか、焦ったりしているわけではないのに眠ることは出来なくて、イレーナと少しだけ会話をしていた。


「信希はワタシのことを卑しいと思いませんでしたか…?」

「ん?どうして?そんなことは思わないけど」


「もしも信希が御使い様だとしたら、必ずワタシたちから遠い存在になってしまいます…。それで、ワタシは信希の好きなケモミミのある自分を利用して信希を縛ろうとしました…。それでも卑しくないと言えますか…」


「なんだ、そんなことか。それは当然じゃあないか?もしもオレとイレーナの立場が逆だったとしたら、オレは自分が後悔しないように気持ちをイレーナに伝えていたと思うぞ」


「そう…ですか」

「ああ。だから自分のことを卑しいなんて言わないでくれ」


「はい…」


「イレーナ?」

「はい?」


「手を繋がないか?」

「はい…」


 イレーナが伸ばしてくる手を握りしめる。

 これまでの旅路で繋いできた時とは違う。今は何か別の感情が込み上げてくる。


「ワタシは信希がどんどん好きになっています…」

「ああ。オレもイレーナの事を好きよりも愛してるに変わっていくのが分かる」


「信希…」


 イレーナが布団の中で動いているのが伝わってくる。

 こちらを向いているのか、視線を感じたのでそちらを見る。


「ん?」

「嬉しいです」


「そうだね…、オレも自分がこんな気持ちになるなんて想像もできなかった。イレーナ本当にありがとうね」

「はい。ワタシもありがとうございます」


 オレは恵まれすぎているかも知れない。

 異世界に転移して、ケモミミ様たちと出会い、ケモミミ様たちと旅ができて、ケモミミ様たちとデートもできて、ケモミミ様と一緒に生活することが出来ているなんて、あまりにも幸運なことじゃあないだろうか。


 少しだけ思考に余裕が出来たのか、先ほどまでのイレーナとの出来事を思い出していた。

 この溢れるようなどうしようもない感情が好きとか恋愛の感情なんだろうか…。


「イレーナ…?」

「どうしましたか…?」


 オレは再びイレーナの方を向き、彼女の瞳を見つめる。


「その、もう一回しないか…?」

「…」


 オレたちはどちらからでもなく寄り添うと、先ほどが初めてだったのかと思うくらいに唇を重ねていく…。


 離れるのが名残惜しくも感じながら、また離れていく。


「ま、信希…」

「ん…?」


「その…、えっと…」

「どうしたの?」


「大きくなってます…」

「え」


 オレは別の所に意識を集中させすぎていたのか、イレーナと繋いでいる手が当たっているなんて気づくことが出来なかった。


「ご、ごめん…」

「謝らなくてもいいです…」


 そう言うとイレーナは繋いでいた手を離して─


「い、イレーナ…?」


 彼女はオレと密着できる距離まで寄ってくる。


 そして、その柔らかい体をオレに押し付けながら…。


「やっぱりしてみませんか…?ワタシも我慢できないかもしれません…」

「…」


 彼女の言葉がオレの脳を揺らしている…。


 そしてまた、彼女にリードされている自分に気付く。


「イレーナ」


 オレは彼女の体が密着している方へ自分の体を起こしていく。

 ベットに押し付けられるような状態になっている彼女は、少しだけ驚いているのかオレのことを見つめていた。


「イレーナ、愛してる」

「信希…ワタシも好きです」


 再び彼女の唇へ自分の欲望を重ねていく。


 こうしてオレたちは結ばれた。


 ──。



気づけば五十話です。

ここまでこれたのも、読んでくれる方がいるからです。

本当にありがとうございます。


これからも更新がばっていきますので応援の程よろしくお願いいたします。

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