第四十八話 御使いⅢ
まだ可能性である部分を否定できないが、オレが御使い様でこの世界に来たのには『何か役目』を与えられるためだとロンドゥナたちから教えてもらった。
神に会うなんて、絶対に面倒なことになるので望んではいないが、もしもケモミミ様の住む世界に何かあったら、それはオレにとって無視できない問題になってくる。
「それで、なにかすることがある?手伝ったり準備したり?」
「そうだな。神を呼ぶ儀式には、色々な準備が必要になる。今すぐにというのは難しいから、後日ということになるな」
「儀式の準備か…。それは皆に害があったりしないよね?」
「ああ、問題ない。体力を使うだろうから旅路には影響が出る程度だ」
「分かった。でも無理だけはしないでね?」
「もちろんだとも、そうだな…。数日中には準備が整うと思うからその日が近くなったら教えよう」
神を呼ぶ儀式とやらに何が必要なのかは、終ぞ分からなかったが数日中には神に会うことになりそうだった。
今すぐにならなくてよかったのか…、少しだけ心の準備を整える時間が出来たのはうれしいことだった。
「イレーナ…?大丈夫?」
「…大丈夫です」
明らかに大丈夫そうではない…。
オレが御使い様だとロンドゥナが告げてから、イレーナは明らかに様子がおかしくなっていた。
動揺しているような…、心配しているような何かを考えているのは間違いないだろうといった様子だ。
「心配?」
「…え?い、いや…そういうことじゃ…」
イレーナが何を考えているのか…、オレに何かを伝えたいのか…。
どんなに強力と言われている力を持っていても、愛しているケモミミ様を不安にさせたり悲しい顔をさせるなんて…自分の弱さに腹が立つ…。
元居た世界で、もっともっと人間関係の勉強をしっかりしていれば、今イレーナの事が理解出来ていたのではないか…。
彼女のことが心配だけど、今のオレの力ではどうすることもできないと、とても惨めな気持ちになる。
「とりあえず、今日は休まないか?色々考えて疲れちゃった」
「そうだな、見張りはどうしようか」
「ん、最初はオレがするよ。みんなは先に休んでくれ」
「分かった。ではイレーナも一緒にお願いできるか?」
「ロンドゥナ、イレーナも休んだ方が─」
「分かりました。信希と見張りをします」
オレの言葉を遮るように、彼女は何かを覚悟するようにロンドゥナを見つめていた。
先ほどからイレーナの言動が理解できずに、自分でも動揺しているのが分かってしまうくらいに彼女に振り回されていた。
「そ、そう?わかった。じゃあみんな、ゆっくり休んでくれ」
「「おやすみー」」
──。
オレとイレーナは焚火に当たりながら周囲の警戒をしていた。
二人とも会話をしないままどのくらいの時間を過ごしていただろうか…。出会った頃に比べると、無言でも気まずくなるなんてことはなくなったが、今夜のイレーナは話しかけにくい雰囲気があったから何となく居心地が悪く感じていた。
焚火の薪を弄りながらそんなことを考えているとイレーナから会話を振ってくれる。
「信希は驚いていませんか…?」
「ん?どういうこと?」
「いきなり御使い様と聞かされてです」
「んー。あんまり自覚が無いし、そもそもまだ確定しているわけじゃないんでしょ?だったら悩むのも面倒だからね」
「そうですけど…普通は可能性すらありませんから…」
「それもそうか。でも自分の境遇的には御使い様とやらでもおかしくない状況だからね。本当にそうならしょうがないかなって感じはしているけど」
「…」
もし本当にオレが御使い様の役目とやらを受けることになると、イレーナが心配するようなことになるんだろうか?
こういう状況になった時って、大体自分の心配をするのが常だと思うけどオレはケモミミ様以外のことは頭になかった。
「もしも御使い様の役目をオレが貰ったとしたら、イレーナは心配?」
「え、えっと…実はワタシもそこまで詳しいわけではありません…。もちろん、危険な役目もあるでしょうから心配にもなります」
「大丈夫…とは言えないよね。オレもこの世界の事に詳しいわけじゃないし」
「そう…ですね」
やはりイレーナは少しおかしな雰囲気のままだ。
オレはもう少し踏み込んでみる。
「もしかして、まだ他にも考えていることがある?」
「…」
俯き黙ってしまったイレーナに、もう喋ってくれることは無いのだろうかと思っていると─
「信希は…、御使い様の役目を与えられるとワタシたちから離れていってしまうのでしょうか…」
「え…」
一瞬だがイレーナが何を言いたいのか理解できずに戸惑ってしまう。
「この世界で、御使い様の役目は何よりも優先されるものです。どこか遠くの国に行くことになったりしたら、ワタシたちはきっと足手まといに─」
「待ってくれイレーナ。オレがケモミミ様を放って御使いの役目をやると?それはあり得ない話だよ。もしも、神がそんなことを強制してくるようなら、オレは神だって殺すよ?オレの全てはケモミミ様のためにあるんだ。イレーナは理解できないかもしれないけど、オレにとってはそれほどに重要なことなんだよ」
「ケモミミ…。このために信希は一緒に居てくれるんですか?」
やはりイレーナはオレのケモミミ愛を理解できていないのか、納得は出来ないような表情を浮かべている。
それに、ケモミミも大切だがもちろん理由はそれだけではない。
「それも待ってくれ。ケモミミがついていることでオレは皆のことが大好きだ。でもね?それだけじゃないんだよ、シアン、レスト、ポミナ、イレーナに他の皆が魅力的な人だから一緒に居たいんだよ?ローフリングでも何人かケモミミ様を見たけど、一緒に居てくれる皆ほど魅力的に感じなかったんだ。だから、ケモミミがついてるだけで一緒に居るわけじゃないよ」
「はい…」
イレーナはまた俯いてしまう…。
オレの力ではイレーナの心配を解消させることは出来ないのだろうか…。
「ま、信希!」
「ん?どうしたの?」
突然イレーナが大きな声でオレの呼ぶので、少しだけ驚いてしまう。
「た、大切な話があります!」
「お、おう?」
急にどうしたんだろうか。イレーナは真剣な眼差しでオレのことを見つめている。
──。
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