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第四話 いたずら好きの猫

 どれだけ倒れ込んでいただろうか。


 ケモミミの彼女が、全部のカコリーメイクを食べ終わるくらいだから、そこまで長い時間ではなかったように思う。


「お兄さん、全部食べちゃって平気だったの?」

「大丈夫、すぐにお金を稼ぐ方法を見つけるよ」


「ごめんなさい…」

「大丈夫だよ、心配しなくて平気だから。とりあえずこの世界のこと色々聞きたいから、食事できるところと宿を探そう」


「宿ならわかるよ!10ゴールドで泊まれる!ご飯も一緒に食べられるんだよ!」

「ゴールド?お金の単位かな?」


「そうだよっ!」


 オレは自分の持ち物の中にあった『銀色の硬貨のようなもの』を差し出して確認することにした。


「これってお金かな?」

「お兄さんお金持ち!これは銀貨!1000ゴールドだよ!」


「じゃあ、宿に行こうか」

「うん!」


 ふぅ、とってもかわいいな。


 それよりも、なんとかお金を持っていたみたいで助かった。彼女が1000ゴールドと言ったものが計5枚あるから、5000ゴールドは持っているみたいだった。

(しばらくは平気そうだな)


 彼女を引き連れて宿へ向かおうとしたとき、再び問題が発生してしまう。

 ケモミミ美女が大切そうに抱えていた2リットルのペットボトルが、盗まれてしまう。


「きゃっ!」


 想定外の事態にケモミミ美女が驚いてしまう。


「二ヒヒッ!無防備だから悪いのぉ」


 若干薄暗くなってきていた周囲のせいで、声の持ち主の正体が正確に確認できないが、どうやら子供か女性のようだ。

 奪われたことにも驚いたが、その速さにもかなり驚かされるものがあった。一瞬で10mほどの距離へ離れていった。


「人間じゃなさそうだな」

「やーい、悔しかったら取り返してみろぉー」


 うっざ、始末するか。こともあろうに『至高のケモミミ様』から物を奪ったことを後悔させてやろう。


「ここは夢の中だからな、多少は強引に行っても平気だろ」


 これまでは、全身に力を入れることが無かったので気付かなかったが、どうやらとても身体能力が上がっているみたいだ。

 走り出すために力を入れても、せいぜい1mも進まないと思っていたが、とんでもない速度で走ることができた。


 ほぼ1歩とも思えた距離で、ペットボトルを盗んだ悪ガキとの距離を一瞬で詰めることができた。


「ふえっ?」

「おい、ケモミミ様への献上品返してもらうぞ」


 悪ガキは短めのフード付きのマントを纏っていた。しゃがんでいたせいと細身の体つきから子供に見えていたが、どうやらその正体はかなり大きいようだった。


 そんなことはお構いなしに、マントの胸ぐらをつかみ上げる。


「これはケモミミ様の大切な御馳走だ、てめぇが好き勝手に手を出していいもんじゃない」


 掴み上げた手を上へ掲げると、思っていたよりも軽くすんなりと悪ガキの体が持ちあがる。


「ひぃ!やめてなの、あやまるの、ゆるしてえぇ」

「おいおい、誤って許される問題だと─」


 オレが罪を問い質そうとしたとき、悪ガキが暴れたおかげでフードがとれる。


「ケモミミ…」

「お願いぃ、許してなのぉーー」


 ひどくおびえてしまった彼女を下ろしてあげる。


 ケモミミが付いているのなら話が変わってくる。


「悪かった、でもどうしてこんなことをする?」

「ご飯もらってたから恨めしかったの、だからいたずらしたくなったの…」


「それなら、そういえばいいのに…」

 オレはそう言いつつ1人目のケモミミ様へ、返してもらったペットボトルを渡す。


「お兄さんは優しくて強いんだねっ」


 …。かわいい。


 それよりも、2人目のケモミミ様だ。


「ほい、これ飲んでいいから」

 まだ持っていたペットボトルを差し出す。


「いいの?許してくれる?」


(畜生…かわいいなこいつ)


 最近は、チョロいヒロインがもてはやされているみたいだが、十分にオレもチョロいみたいだ。チョロ主人公だな。ケモミミだけで平和になる。


「ああ、いいよ。ちゃんとごめんなさいしような?」

「うん。ごめんなさいなの」


 かわいい。


「これからオレたちは、宿でご飯を食べるんだが君もくるかな?」

「いいの!?」


 かわいい。


「うん、いいよ。一緒に行こうか」

「うんっ!」


 猫っぽいケモミミを持つ彼女は、すぐさまオレの腕にしがみついてきた。

(胸が当たってますよ。ケモミミ様)


 同時に、1人目のケモミミ様もしがみ付いてくる。


「ボクもここがいいっ!」


ふぅ…。かわいいな。


「2人には名前はあるのかな?」

「ボクはね『シアン』って名前っ!」

「レストは『レスト』っていうのー」


 はい、自己紹介もかわいい。ボクっ娘に、一人称は自分の名前呼び、最高。


「シアンにレストだね、とっても良い名前だね」

「お兄さんは何て名前?」


「ああ、オレは信希まさきだよ」


「マサキ、マサキかぁ!」

「信希…とっても素敵な名前なの」


「じゃあ、宿に行こうか」

「「うんっ」」


 はい、最高の展開になってきました。


 ──。


 少しだけ問題が発生してしまった。

 この町では、獣人が少しだけ差別されているみたいだ。


「獣人がご一緒ですと、宿の料金が10倍になりますねー」


 この野郎…舐めやがって


「信希、私たちはいいの外で寝るの慣れてるから、信希だけ泊まってなの」

「ボクも外で平気だよ」


 無理に作った笑顔に、オレの『常識』が音を立てて崩れていく。

「2人とも大丈夫、安心していいから」


 振り返る。

「んんっ!店主よ、オレの聞き間違いかな?獣人に対する差別が見受けられるが?」

「ええ、だから。獣人を宿に泊めるのは─」

「ほう、つまりオレの同伴であろうが『獣人であるだけ』で、泊めることができない、入るなら金をもぎ取ると、そういうことでいいな」


「そう、だが」


「はん、分かった。では、この町には滅んでもらう。すべてぶち壊して皆殺しにする。まさかオレの大切なケモミミ様たちを迫害するなんてな、殺すだけでは足りないかな、人類すべてを根絶やしにするか。ここは、どうやらオレの夢の中のようなので、好きにさせてもらうぞ。お前ごとき、いやこの町程度であれば、20分もあればぶち壊せるだろ。手始めに、この宿を吹っ飛ばす」


 そう言い放ったオレに店主は「何を馬鹿げたことを─」と言うので、力を示すことにする。


─ブォンッ!


 まさかここまでになるとは、想像力が足りなかったみたいだ。

 オレは、本気で手を振りかざした。たったそれだけで、宿の壁、それどころか隣の家の外壁まで吹き飛ばしてしまった。


「おっと、やりすぎたか」


 ─ッドッドッド、と大きな音をさせている心臓を落ち着かせるために、無理やり平静を装って見せる。


「こ、こ、これは失礼しました。こちらの手違いだったようです。すべてお客様のご自由に、この宿をご利用くださいぃ!」


 怯えすぎた店主に、申し訳なさを覚えつつも『ケモミミ様』のためだ。仕方がない。


「じゃあ、支払いを済ませたい。その後に3人分の食事もお願いする」


「宿泊3名様、10ゴールド。食事は2ゴールドで!!」


 どうやら随分と安くしてくれるみたいだ。ありがたい。


「じゃあ、早速食事を用意してくれ」

「かしこまりましたあぁ!!」


 店主が慌てて奥へ引っ込んでいく。


「信希すごいの…。こんな力見たことないの」

「ボクも初めて見た!信希っすごい!」


「今日は泊まれるみたいだ。ゆっくりしよう?まずはご飯だな!」


「「やったー!」」


 シアンは先ほどカコリーメイクを食べたのに、まだ食べられるみたいだ。

 最高だな。いっぱい食べさせてオレ好みの体格にして、いっぱい可愛がってあげるからねぇ。


 宿の中では、すでに食事をしている人が何名かいたが、オレの力を見てから黙々と食事をしている。


 力を見せるだけで折れるなんてな、それくらいの度胸しかないなら、差別なんかするなよな

 そう、無視していただけで『そちらからも』ケモミミ様に対する罵声が聞こえていた。一緒に牽制するには良い方法だったかも。



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