第三十二話 目的
シアンとポミナの服を購入してから、すぐに宿に戻ってきた。
「じゃあ、まとめている荷物を持って街を出よう」
「はーい」
オレたちは、予め街を出るために荷物をまとめていた。
なので、みんな手早く準備を済ませて宿を出る準備は出来た。
「じゃあ、行こうか。ここからは接敵の危険もあるから、みんなオレから離れないでね?」
「うんっ!」
「「はーい」」
そしてオレたちは宿から出る。
扉を開けたその時に、やはりというか『奴ら』はそこに居た。
「─信希殿、少し時間をいただけませんか?」
声の持ち主は、どこか偉そうな雰囲気を纏った如何にも貴族といった感じの男だった。
その後ろには騎士風の連中が十名程度付き添っている。
この世界の身分にはさほど詳しいわけではないので、遠慮などせずにいつも通りに返事をする。
「どなたですか?」
「失礼。私は、ルイベルト・ナージ・コグミヤ侯爵です。信希殿に、王より王城へ出向いてほしい旨を伝えるため参上致しました」
「王様が?」
「ええ、先日のフォレストバジリスク討伐の件を是非ともお礼したいと」
「…」
どうするか…。ここで断るのも手ではあるが、街中で暴れるわけにもいかない。
それに戦いにくい場所での戦闘の経験も、守りながらの戦闘の経験もないオレにとっては『ケモミミ様を守りながら』戦うのは難しいと思う。
だが、このままついて行ってしまっていいのか…?
「信希さま、このまま逃げてしまうのも手ですが、隣国などに連絡されると厄介なことになるかもしれません。最悪入国できなくなる可能性も…」
ユリアが近くに寄ってきて小声で伝えてくる。
「なるほどな…」
「よければ、御一緒に王城に行かれませんか?馬車も人数分用意できていますので」
とりあえず着いて行っても害になりそうな話ではないから、ここは相手に従うことにした。
「わかりました、行きましょう。彼女たちも一緒しても?」
「もちろんです。では参りましょう─」
そうしてオレたちは、この国の王様に会うことになってしまった。
──。
オレたちはそれなりに豪華であろう馬車に揺られて、二十分もしないうちに王城にたどり着いた。
遠くからしか見えていなかった王城を近くで見ると、やはりというかかなりの大きさがあってどこか威圧感を感じる建物だった。
「謁見の用意は出来ています。どうぞ中へ」
謁見…?なんだか引っかかる言い方だな。
そもそもオレはこの国の民でもない。こんないきなり呼びつけておいて上から目線とは言い度胸だな、王様だか何だか知らないがどこの国でも偉そうなのは変わらないのか。
「みんな、離れないでね」
「「はーい」」
オレはたちは貴族の男に案内されるまま、城の中を進んでいく。
王城の中は外見よりも更に広く感じ、王様の居るところまでは結構歩いてきた気がする。
「では、こちらに。中で王がお待ちです」
「はい」
さくっと終わらせて帰ろう。
こんな国はすぐに出る。
─ガチャ
少し乱暴とも思える感じでオレはドアを開けていく。
流石というか、かなり立派は謁見の間ではあるな。と感心しつつも、周囲の状況をしっかりと確認していく。
この部屋の一番奥、玉座が置かれているところは数段高くなっておりその玉座には如何にも王様風な男が、その左右に少し幼そうに見える少女と見目麗しい青年が座っており、息子や娘なのかと予想される。
玉座の置かれているところから下に降りたところへ強そうな騎士が二人…、あれは先日助けたデストとか言われていたケモミミ様ではないか。改めてみると美しい!──いや、それどころではない。
その反対側にはがっしりとした体形の、騎士団長と言われても納得できる見た目をしている男が、玉座を挟むようにしてこちらを見ている。
玉座まで続くレッドカーペットは二十メートル程あるだろうか…。その左右にこれでもかと言わんばかりの立派な鎧を身に纏った騎士が整列していた。
オレはお構いなしにズカズカと王の居る方へ進んでいく。
「オレに何か用で─」
「─おいっ!王に対してなんて口のきき方をするんだっ!!」
なんか騎士の中からそんな声がして振り返ろうとした時─
「よい!これはワシが自ら礼を告げたいと言って参上してもらったのじゃ、余計なことは言うな!」
王と思われる人物がそう言い放つと騎士はすぐに黙る。
っち。こんな茶番には付き合ってられないな。
オレはいつも疑問に思っていた。こうしたシチュエーションはよくあるが、物語の登場人物たちは『王を良い人』だと錯覚する。
こんなのは茶番に過ぎない。予めヒール役を決めておくだけで、簡単に『感じの良い王様』の出来上がりだ。
「それで?何か用?」
「信希殿、ワシはこの国の王、エルネス・パンネ・ローフリングである。貴殿に来てもらったのは他でもない。この街の危機でもあったフォレストバジリスクの討伐をしてくれたこと、感謝申し上げる」
「別に、襲われているのが獣人だと聞いてすぐに飛び出しただけだ。礼を言われることなんてない。それに、オレが出向かなくてもアイツは討伐されていたさ」
オレの言葉に、本当にこの場に大勢の人が居るのかと思える程静まり返る。
「そうであるか…。だが、国王としてこの功績には感謝で礼を告げなくてはならぬ。そこで、ワシのできる最高の感謝の品を用意した。頼む─」
王がそう告げると、先ほどオレを呼びに来た男が袖の方から出てくる。
「信希殿には、国王より感謝の品として、この国の貴族位『騎士の爵位』と、王城近辺の屋敷、ならびに屋敷の使用人や管理人、最後に金貨百枚を進呈する」
明らかに周囲がざわつくのを感じる。
だが、困ったことになったな…。
このままこれらを受け取ってしまえば、間違いなくこの国の飼い殺しになる。そんなのはごめんだ。
だからと言って断ってしまってもいいんだろうか…。
先ほどもユリアに言われたように、隣国までオレの情報が伝わってしまえば人間の生活圏での買い物や生活は出来なくなる…。
オレは短時間で結論には至れず、ユリアの方を確認すると、オレは自分のしていることを反省することになる。
ユリアは目を閉じ、何も言わぬ表情をしていた。
そうだ、これはオレが自分自身で決めなくてはいけないこと…、何かにつけて誰かを頼ろうとするのは間違っている。特に今回みたいな状況は全てオレが招いた結果だ、ならばここは堂々と自分の意見を貫き通すのが正解だろう。
「必要ない。この国の貴族なんかに興味は無いし、金にも困っていない。それにオレたちはすぐにこの街を出るつもりでいる」
「で…あるか。だが、このまま発たれてしまっては、我々の面子にも関わる。どうか何か受け取ってはもらえないだろうか?」
まぁ、確かにこの王様の言うことも一理ある。体よく断るにしても、あまりに無欲だと逆に怪しいか…?
「承知しました。では、金貨だけいただけますか?他の物は私には身に余るものばかりですので」
「感謝する。すぐに用意させよう、出来れば別室にて待機してもらえると助かるのだが」
「もちろんです」
上手く収まったのかどうかは分からないが、とりあえず金だけは貰っておこう。何にでも使えて便利だからな。
はたから見ていると、オレがすっごい悪者みたいに見えないか?とも思ったが、これも全てはケモミミ様と常に一緒に居るためだ。
もしも貴族になんてなってみろ、必ず何かにつけて仕事や厄介ごとを押し付けられて毎日てんやわんやの生活をすることになるだろう。
そんなのはごめんだ、オレはこの世界ではケモミミ様のために生き、ケモミミ様のために働き、そしてケモミミ様のために死んでいくんだ。それ以外は認められない。
「─では、ご案内いたします。こちらに」
オレたちは廊下に出ると、来た時はいなかったメイドの様な格好をした人からそう告げられ、待機する部屋へと案内されていく。
──。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




