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第二十四話 王都散策Ⅲ

 宿に戻ると、賑やかしい声の持ち主たちの中に見覚えのありすぎる面子が集まっていた。


「まさきぃー!待ってたのぉぉ!」


 真っ先に気付いたレストが、奥の席から小走りでこちらに向かってくる。

 それなりの勢いで、レストはオレに抱き着いてくる。


「二人だけでどこかに行ってズルいぃ」

「レストおはよう。みんなが寝ていたから、イレーナと一緒に王都を見てたんだ」


「ふーん…。まぁ仲良しならいっか!」


 レストは少し不機嫌そうな視線でオレたち二人を見比べて、手を繋いでいることに気付いてそう言うとニコッと笑い─


「レストも信希とお出かけする!」

「ああ、一旦みんなと合流しよ?」

「はーい」


 そうして、盛り上がっているテーブルにたどり着く。


「この時間から飲んでいるのか…?」

「信希さま、止めることができず…」


 ユリアはそう言うとばつが悪そうに、おどおどとしている。


「まあまあ、せっかくの王都だし全然問題ないよ。ユリアは素面かな?」

「はい。一応みんなを見ていようかと…」


「ありがとうね。どうしようか、今日はこのままここで過ごす?」

「余も信希さまとお出かけしたい…」


 かわいいな…。


「いいけど、どうしよっか。この酔っ払いたちを放置するわけにも…」


 そう言いつつ、すでに出来上がっている面子に目を向ける。

 シアンはご飯をいっぱい食べて眠くなったのかお酒のせいなのか、机に突っ伏して眠っている。

 ポミナとミィズは、飲み比べと言わんばかりに色々な種類のお酒を飲みつつ食事を楽しんでいる。

 ロンドゥナも飲んでいるようで、みんなの様子を見ながら楽しんでいるようだった。


「ど、どうしよ…」

「信希?ここはワタシに任せて二人と遊んできてください」


 繋いでいた手を軽く引っ張りながら、イレーナがそう言ってくれる。


「いいの?」

「ワタシばかり信希を独占するわけにもいきませんから」

「そう言われるとちょっと困るな…」


「ふふ、大丈夫ですから。夕食までには戻ってきてくださいね?」

「うん、わかったよ。何か買ってくるものとかあるかな?」

「いえ、特には。ご自身たちの欲しいものや見たいものを楽しんでください」


「わーい!信希いこいこー?」

「イレーナ、ありがとうございます」

「あ、ユリアさん。少しいいですか?」

「はい?」


 何やらイレーナがユリアに内緒話をしているようだった。

 オレはレストと見合わせ「なんだろうね?」と言いつつユリアを待つ。


 王都を色々な意味で楽しんでいる酔っ払いたちを、イレーナに任せて再び外出することになった。


「ユリア?イレーナが何か言ってたの?大事なこと?」

「いえ、信希さま。特に何も…」

「ほんと?気になっちゃうな」


「その、信希さまがまた具合悪くなるかもしれないからと…」

「そ、そっか気を付けるよ。気分が悪くなったらすぐに言うね?」

「はいっ!」


 流石はイレーナだ。本当に気が利いて助かるな。


「じゃあいこっ!」


 元気よくレストはそう言うと、オレ手を強引に握ってくる。


「では、こちらは余が…」


 レストが繋いできた逆の腕にユリアは抱き着いてくる。


「ちょ、ちょっと…」


 当たってるんですけど…。


「レストはどこか行きたいところはありますか?」

「お洋服みたい!」

「じゃあ、商店を探すのじゃ。多分あっち、行きましょう?信希さま」


 き、聞いてくれなさそうだ…。


「あ、ああ。分かったよ…」


「信希さま、お金など大丈夫なのでしょうか…?」

「大丈夫、心配しないで。ケモミミ様たちはオレが養います」


「余…は?」


 その上目遣いはずるい…。


「もちろん、一緒に旅しているんだから。当然だろ?」

「嬉しいですじゃっ」


 …。これはまずい…。


 本当に喜んでいるであろうユリアは、再度オレの腕に強めにしがみ付いてきて、行く当てのなかったオレの手を握りしめてくる。

 なんとか誤魔化そうと、オレはユリアとの会話を試みる。


「ゆ、ユリアも何か欲しいものがあるの?」

「そうじゃな…、お洋服と下着などいただけるととても嬉しいです」

「じゃあ、レストと一緒の所で済ませられる?」


「ん-、何店か見て回っても…?」

「もちろんいいよ」


「流石、信希さまじゃ─」


 何度も何度も彼女の体の感覚が腕に伝わってくる。

 とても柔らかく、女性経験の少ないオレにとってはあまりにも刺激が強すぎた。

 すでにオレの限界を越えそうになっていた─


「いやはや困りました。これはとても危険な状況です。もちろん、これまでに何度か普通の女性に興味を持つこともありましたが、彼女は吸血鬼というイレギュラーな存在でもあります。そして、とても私好みの容姿をしています。お顔も、御髪も、その体系も、華奢そうに見える見た目からは少し想像もできない柔らかいお胸や体は、私の精神を破壊するには十分すぎる破壊力を持っていました。これまでは見ず、考えずを繰り返していましたが、もう限界です…。私はケモミミ様以外の女性にも惹かれてしまっています。中でもユリア様は、非常に私のタイプの女性のそれです。同志たちから女だったら何でもいいのか!という説教が聞こえてきそうです。ですが、一旦落ち着いてください、まずは整理しましょう。まず、ユリア様は吸血鬼で私を眷属にすることに失敗して、逆に私に従属化させられてしまうという極めて特殊な状態です。なおかつユリア様はこの豚を『信希さま』と呼んでくれます。そのカワイイお顔から繰り出される笑顔、少し艶っぽい色気のあるお口から自分の名前が呼ばれ、全身を使って私に愛情を表現してくれています…。もう、もう…。もう私は限界です。もちろん!ケモミミ愛が無くなることではありません。これは決定事項なのですが、ユリア様に関しては例外に例外を重ねさせていただけませんか…?可愛すぎるんです。私のタイプなんです。こうすることでしか正気を保てそうにありません。もしかすると私は…人外しか愛することのできない呪いにでも罹ってしまったのでしょうか…?ですが、それもまた良しです。なんといってもケモミミ様を愛することができるのですから…。そこに吸血鬼が一名加わるくらい些細な問題だとしていただけませんか…?以上異世界より林信希の懇願になります…」


 ふ、ふぅぅ…。なんとか大丈夫そうだ。ようやく落ち着きを取り戻してきた。

 正気を取り戻したオレは、再度ユリアに視線を向ける。


「ユリア?大丈夫?顔が真っ赤だけど…」

「だ、大丈夫ですっ!信希さまは突然すぎますじゃ…」


「少し休む?いきなりだから心配になるな…」

「は、はやく行くのじゃ!」


 ユリアはオレの腕に再度しがみ付き、少し強引に引っ張る。


「大丈夫ならいいけど…」


 ──。

いつもお読みくださり、ありがとうございます。

評価などいただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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