第十七話 入国
オレたちの旅路は順調そのものだった。唯一、襲撃があった時だけ一気にいろいろなことが起こってしまったくらいで、山岳地帯で体調を崩す者も居なければ、三日かかると思われていた登山も二日目の野営地は、王都近郊の山岳地帯で二時間も歩けば草原に抜けられるそうだ。
「王都に着いたら何をしようか、当初の目的はケモミミ様が差別のない国まで連れていくことだったけど…」
「ボクは信希について行くよ!ずっとだよ!」
「ワタシも、まだしばらく信希とご一緒します」
「レストも一緒がいいのぉ」
「わたしも一緒に連れて行ってください…」
「ワシもかの、王都に特に用事もない」
「余はもとより信希様の所有物です」
何やら一名おかしなのが混じっていたが、まだみんなと一緒にいられるみたいだ。
実際問題、突然この世界に来て、目的なんて見出すこともできずに流れるまま王都まで進んでいるわけだからな…。
そろそろ何か考えないと。
「王都に着いてから、ゆっくりしながら考えませんか?」
「それもそうだね。長い旅路だし、しばらく休みたいね」
ツクヨシから王都までの旅路で、最後の野営になるであろう夕食はそんな会話で終わりを迎えた。
──。
山岳地帯を抜け、草原に着いた頃には王都はかなり近い距離になっていた。
「いよいよ王都到着かっ!」
「ええ、遠くからも見えていましたけど、かなり大きな街でしょう?」
「ああ、イレーナ。ここまで連れてきてくれてありがとう」
「どうしたんですか、改まって」
「イレーナが居てくれて助かった、お礼は言わせてくれ」
「はい、受け取っておきます」
「みんなも、見張りとか狩りとかありがとうね。オレだけだったらここまでこれなかったよ」
みんなに感謝を告げると、みんなはそれぞれの反応を見せてくれる。
最初は男一人でどうなることかと思ったが、経験のないオレでも不便を感じないくらいにいい旅だったと思う。それもこれもみんなのおかげか。
──。
「すごいな、外壁だけでも立派なもんだ」
「かなり古くから歴史のある国ですからね」
元の世界では、城や色々な国の建物にはあまり興味がなかったせいで、詳しいことは分からないが元の世界とか似ても似つかない建物ばかりといった感じの街並みだ。
今は草原の小高い丘上から見下ろしているから詳しい状況まで分からないが、良い街じゃないかと予想する。
「じゃあ行きましょうか」
「ああ、街にはすんなり入れるのかな」
「そうですね、軽い入国審査があるくらいでしょうか」
「オレ大丈夫かな…?」
「心配いりませんよ、ワタシに任せてください」
イレーナが居るととても心強い。
イレーナのケモミミを触らせてもらってから、オレとみんなの関係は少しずつ変わってきていた。
まず、手を繋いでいたシアン、レスト、ポミナに加えてイレーナも交代で順番に加わることになった。
オレがイレーナに提案すると、最初こそ少し恥ずかしがったもののすんなりと受け入れられて、逆にオレが驚いてしまったくらいだ。
道中を進んでいる時はその四名と話すことが多く、逆に休憩中や夜間などはミィズやユリアと話すことが多かった。
これだけの期間一緒に居ると、ある程度だがみんなの経緯や人物像がだんだんと分かるようになっていた。みんなの故郷の話や、知らない町や国の話はとても興味深いものだった。
この世界を見て回りたいなと若干考えるくらいには、オレはこの世界に魅せられていた。
ようやく、安全圏でゆっくりできるチャンスなんだ。この世界のことをもっと知るためにも王都を満喫させてもらおう!
──。
それからしばらく歩き進め、遠くに見えていた外壁をもう目の前にしていた。
「身分証はあるか?無いものは入国税と入国検査を、他にも商会登録証、入国推薦状、他国の方は隣で別に入国手続きを」
門番の騎士風の人たちが手早く入国審査をしている。こういった風景は初めて経験するので緊張してしまう。
「信希、肩の力を抜いてください?緊張していると変に疑われますよ」
「わ、わかった」
「身分証はこれで、他の方たちはツクヨシ、ラワカ方面から来た者たちで、身分証はありません」
「─確認する」
イレーナは本当に慣れている感じで、どんどんと手続きを進めてくれる。
「イレーナ殿は問題ありません。他の方は入国税で鉄貨一枚を収めてください。あとは審査で荷物のチェックを行います。あちらの部屋へ同行してください」
「入国税はこれで」
「うむ、確かに」
「一ついいか?」
門番はイレーナを引き留める。
「はい?」
「その角はファントムディア―か?」
「ええ、そうですね。偶然討伐することができました」
「だったら早く換金した方がいい。目立って仕方ないからな、目を付けられる前に商会に行くといい」
「そのつもりです。わざわざありがとうございます」
手早く手続きしてくれるイレーナに感謝しつつ、全員で案内された部屋で審査を受けていく。
──。
「よし、特に問題はない。入国証明は発行しているから各自携帯するように、再び入国する際に必要になる」
オレたちは入国証明を受け取り、いよいよ街の中へと入ることができた。
王都はかなり整備されている国のようで、入国する人数こそ少ないものの街の中は多くの人で賑わっていた。
店舗と住居が一体になっている建物が多く、入口に客らしき人達が居て二階部分では寛いでいる人や子供たちの姿が多く窺えた。
「平和そうな街だな」
「そうですね、周囲の草原を越えれば魔物は多く生息していますが、この街には強い兵士たちも多いですし」
「おいしそうなのいっぱーい!」
「お酒もある…」
「みなさん、門番の方が言っていたようにまずは商会に行きますよ。買い物や食事はその後です」
「「はぁーい」」
「イレーナ、場所は分かる?」
「はい、以前にも行ったことがありますから」
「よーし、じゃあ商会に行こう」
「「おーっ!」」
まずは、寛いだりする前に用事を済ませることになった。
商会に向かっている途中で、遠くの方から何やら騒がしい声が聞こえてきた─。




