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第十六話 反省

 この世界に来てからというもの、ずっと夢で終わる思っていた実物のケモミミ様を前に暴走してしまうことは何度かあった。

 だがそれは、他人に迷惑をかけるものではなかった。今回ばかりは言い逃れできないほどに、イレーナをひどい目に会わせてしまった。


 オレの迷惑な行為によって気を失ってしまったイレーナだが、今はオレが想像した極上のベットで休んでいる。自分の思いつく最高の品でどうにか挽回したいと考えたから、これまで考えもしなかった寝具と天幕を作った。

 説明するのは難しいが出来てしまったのだからしょうがない…?でもこれだけは間違いないことがある。本気でイレーナに申し訳ないと思ったから、想像することができたのだ。


 ──。


 静かに眠っているイレーナの隣で、見守っていた時間はどのくらいだったろうか。

 最初は火照ったように呼吸が荒かったが、ベッドで休ませてからは徐々に呼吸がゆっくりになり、一時間ほど経過した今では、目は覚ましていないが随分と落ち着いた状況といった具合だ。


 ミィズ曰く無事だと言うことだから、ひとまず安心は出来ているが…、これを境に絶縁なんてことも…そんなことになってしまったら一生後悔してしまう。


「オレはなんてことを…」


「─ま、さき?」


 時間にしてどのくらい経過しているかも分からないほど彼女の側に居たが、イレーナが遂に目を覚ました。


「イレーナ…」

「どうしたんですか、泣きそうな顔して」


「そ、そのオレのせいで…」

「そういえば、ワタシの耳を触らせたのでしたね」


「本当にごめん…」


 ─。


 オレは、ちゃんとイレーナに謝罪するべきだと考えしっかりと頭を下げる。


「ふふ、まさき?」

「…?」


 ゆっくりと顔をあげると、イレーナは起き上がりこちらをまっすぐと見つめていた。


 ─コツッ


 とても罰とも思えない、イレーナの優しい手が頭に当たる。


「もう反省しているようですし、これ以上は必要ないでしょう?」

「でも…」


「最初に言ったじゃないですか、あれはお礼だったんですから」

「イレーナをこんな風にするなんて最悪な男だ」


「ワタシの方にも不手際があったんです」

「…え?」


「んんっ…それよりどうでしたか?ちゃんとお礼になりましたか?」


 イレーナは自分が大変な目に会っているのに、オレへの感謝の気持ちで済ませようとしてくれる…。

 もちろん、あの時のお礼にしては十分に貰いすぎている。むしろオレの方が貰いすぎていて申し訳なくなってくる。


「そ、その…貰いすぎて申し訳ないくらいだよ…」

「そうですか。ちゃんと感想も聞かせてください」


「控えめに言っても最高の時間でした」

「ならよかったです」


 そう言うとイレーナは、今まで見たことのない最高の笑顔を見せてくれる。


「でも、次からはちゃんとワタシたちのことも考えてくださいね?」

「もちろんです!」


 ─ん?次…?


「い、イレーナ…?」

「はい?」


「次って…どういう…?」

「日常のように触らせるのは難しいですけど、信希にとってはこれ以上ない感謝の仕方だと思ったので。いずれそういう機会もあるかと」


「そういうことね!もちろん、反省して次からは同じ過ちは繰り返さない!」

「今日はこのまま休んでもいいですか…?流石に立てる気がしません…」


「もちろん、朝までゆっくり休んでね?後のことは任せて」

「はい、お願いします」


 ──。


 イレーナの介抱をしている間、夜間の警戒をミィズが引き受けてくれたので、天幕を後にしたオレは焚火に当たっているミィズのもとに向かう。


「おや、信希。イレーナは目が覚めたか?」

「ああ。朝までゆっくり休んでもらうつもり」


「そうかそうか。信希も罪深い男じゃの?」

「茶化さないでくれミィズ、こう見えてもとても反省しているんだ…」


「かかっ、分かっておるよ。イレーナも怒ってなかったじゃろ」

「…そうだね、お礼だからって」


「素直に受け取っておくのも、信希には必要かもな?」

「謙遜しすぎってやつ?」


「そうそう、なんならここにいる女子全員抱え込むくらいでないとの?」

「何言ってんだ…そんなことできないよ…」


「なに簡単な話じゃ。全力を振り分けて愛するのではなく、皆を全力で愛せば良い」

「そんなハーレム王みたいに言わないでくれ…」


 買い被られても困る。元の世界では、好きだった女性にコテンパンに振られてしまったオレだ。みんなどころか、一人の女性だってまともに愛することなんてできる自信はない。


「ん?なにやら自信なさげじゃな」

「ああ、これまでに女性をまとも愛せたことなんてないよ…」


「ワシたちのことは嫌いか?」

「…?別に嫌いとかそういうのは無いよ?」


「ケモミミ様が好きなんじゃろ?」

「愛している」


「だったらみんなを可愛がってやらんか」

「ど、どうやって…」


「ワシとユリアは除いても、他の四名はケモミミ様じゃ。ちゃんと全員を同等に愛さないと他の子たちは嫉妬にまみれるぞ」


 ミィズの言葉にオレはハッとする。

 その通りだ。これまでの旅路では、積極的な彼女たちに甘えて受け身になっていた。


「もしかして、イレーナも…」

「助けてもらうよりちょと前からじゃがの?」


「ミィズ、ありがとう」

「いやなに、みんなの悲しむ顔が見たくないだけじゃ。もちろん信希のもな」


 少し…?いや照れてはいないか。そう言ったミィズはニコリと笑いまっすぐにオレを見つめてくる。

 もとから綺麗な女性とは思っていたが、その優しい笑顔に思わずドキリとしてしまう。

 ミィズは他のメンバーたちとは違い、一番大人びている存在だ。とても頼りになると思っていたが、彼女にも女性らしい一面があることを改めて理解させられる。


「そ、その…ゆっくり…?」

「そのくらい自分で考えんか」


「そうだね、ありがとう」


 この雰囲気が苦手で、いつもごまかしてしまう。

 オレの悪い癖だな。


「ミィズも休んでていいよ?オレが朝まで警戒しておく」

「まぁまぁ、ゆっくり話そうじゃないか?これまでの事とか聞かせておくれよ」


「そ、そう…」


 ──。


 それからは、前の世界に居たことや、突然この世界に来たことなどミィズに出会うまでの事とこの世界のことなど雑談を交わしていると、少しずつ空が明るくなってきた。


「─信希、ミィズさん、ワタシが変わりますから、少しでも休んでください」

「おやイレーナ、おはよう。じゃあワシは休ませてもらおう」

「ミィズもベッド使ってくれ」

「おお、感謝する」


 ミィズはそう言うと、イレーナが居た天幕に入っていく。


「信希も休んでください」

「分かった。体はもう大丈夫?」


「あの寝床のおかげで、いつもより調子が良くなりました」


 イレーナは本当に調子がいいんだろうと思わせてくれるくらいの、最高の笑顔を見せてくれる。


「それは良かった。じゃあみんなが起きるまで休ませてもらうね」

「朝ごはんの準備が出来たら起こしに行きますから、それまで休んでいてください」


「いいの?」

「大丈夫ですよ、ゆっくり進もうと言ったのは信希ですよ?」


「そうだね、じゃあお願いします」

「おやすみなさい」


 ──。


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